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29.クレイドル寺院奪還クエスト

「教会は今アンデットの大群に襲われており、神父様も未だに教会の中に取り残されている状態! 冒険者の皆様……報酬は当然弾みます! どうか! どうかお助けを!」



一瞬ざわめきがエンキドゥの酒場に響き。



「ぷっ……あっはははははははは!」


それと同時に笑い声が木霊する。


「え……」


それは冒険者達のたくましく頼りりになる豪快な笑いではなく、高きものの堕ちる姿を見たものがする、嘲笑の笑いであった。


「クレイドル寺院が、アンデットに占拠されるって……何の冗談だよまったく」


「どうせ埋葬のための金をケチってどっかに死体放置してたんだろ? はははっ傑作」


「欲張ってばっかだからそうなんだよ、俺たちなんかよりもお金様に助けてもらえばいいじゃねえか」


「報酬も、どうせいちゃもんつけてケチるつもりだぜ……無理だ無理、朝になったらアンデットは自然に消滅するんだ。終わった後にアンタが生き返らせりゃいいじゃねえか」


「ばーかお前、アンデットに殺されたらそいつもアンデットになるんだよ」


「あっ、そっかー、あっははははははは」


「次にくる神父はもう少しましだといいな」


「俺美人のシスターがいい」


「おいおい、自殺者が後を絶たなく成っちまうぞ」


「皆さん……お願いです……お願いします」


他人の不幸は蜜の味……。 

それも今まで自分達を食いものにしていたものが相手ならばその甘みは二倍にも三倍にも膨れ上がるだろう。


冒険者達は涙を流しながら頭をたれる僧侶を酒の肴にしながら、再度酒を飲み始める。


「自業自得って奴ね……僧侶が相手にしきれない数のアンデットって、どれだけ溜め込んでたのって話よ」


「……」


「如何いたします? マスター」


サリアはそう、僧侶を見つめる僕に髪を耳にかけなおして問いかける。


助ける義理は無い。 


恐らく助けた所であるのは危険のみでメリットは殆ど存在しない。


ここにいる誰もがそれを知っている。


だが。


「はぁ……」


僕はジョッキに残っていた蒸留酒を一気飲みする。


「ちょっ!ウイル!? あんた……まさか!」


「さて、昼は早めに切り上げちゃったし、お仕事しますか」


やはり、困っている人を放っておくことは出来ないや。


「えええええ! ウイルさんウイルさん! 私まだお酒のみたいよー!」


「バッカじゃないのアンタ! 身包み剥がされたってのに、あんな守銭奴神父をわざわざ助けに行くっていうの! お人よしにも限度って物があるわよ!?」


「まぁね。だから残りたい人は残っていいよ。迷宮の中以外で僕のお人よしにみんなを巻き込むわけには行かないしね。だからとりあえずこの依頼は僕一人で受けることにするよ」


「マスター。私は貴方とならばどこまでも」


「あああー! 自分ばっか良い子ちゃんぶってこの筋肉エルフ!」


サリアも徳利の中の清酒を豪快に一気飲みをした後、そういってくれる。


「ありがとうサリア……じゃあティズ、お金は置いていくから」


「ちょっ! まっ! 私だって行かないとは言ってないでしょ!? 当然行くわよ!」


流石に妖精の体で蜂蜜酒を飲みきることは出来なかったのか、口惜しそうにジョッキを見つめた後、ティズは僕の肩に慌ててとまり、サリアをにらむ。


サリアはそんなティズの視線に少し含み笑いを浮かべたあと。


「じゃあ、そういうことだシオン……達者でな」


「え……え……! 何そのお別れみたいな台詞! みんな行っちゃうの? 

まっ、まって行くから! 私も行くからぁ! おいていかないでぇ」


シオンはそういうと慌てて杖を取り、服の袖を揺らしながら立ち上がる。


こっそり袖の中に果実酒のボトルを入れていたのが見えたが、お金は払っているのでまぁ何も言わないで置こう。


「そうですか、それでは急ですが依頼を受けるとしましょう」


サリアはそう微笑みながら浴衣姿で僕のほうを向き、ウインクをする。


全ては彼女の掌の上……か。 

出会って一週間もたっていないのに既に掌握されつつあるなぁ、うちのパーティー。


「あはは……じゃあそういうことで……マスターさん、早いんですけどお勘定を……」


確か今日の宴会代金は銀貨五枚だったっけ。


そういって金貨袋を取り出そうとすると、店主は片手でそれを静止する。


「明日も予約されていますよね、ウイルさん。 確か御代はその後……二日分で銀貨五枚をいただくというお話だったはずです」


こちらもサリアに負けず劣らずのウインクに、僕は苦笑を漏らす。 


「そうだったね、じゃあまた明日……行ってきます」


「ありがとうございました。 お気をつけて」


店主に見送られながら、僕達は僧侶の下へ向かい、冒険者達の動揺と嘲笑の声を背に受けながらも、依頼を快諾したのであった。

                    ◇


~緊急クエスト~

襲撃されたクレイドル寺院を救え


サブクエスト 中にいる神父 僧侶の救出

    

                     ◇


昼夜を問わず光り続ける特別な石を使用して作られた神の寺院。

クレイドル寺院はもはや壊滅状態といっても過言ではなかった。


敷地内はゾンビに満たされ、神殿入り口にはまるで蟻の大群が砂糖菓子へと群がるかのように、生者の息吹を求めて開かない門戸を叩き続ける。


埋葬された死体がこぞってよみがえったのだろう。 寺院裏にある墓地の穴はまるで落とし穴でも作成中なのかと思うほど穴だらけであり、空腹に耐え切れなくなったゾンビたちはお互いの共食いを始めている。


数はざっと百体ほど……あの中に飛び込むのかと思うと、少しばかり背筋が凍る。


「王様は何やってんのよ……ご自慢の騎士様を何で向かわせないのかしら?」


ティズはその様子にすっかりやる気をなくしてしまっており、ここまでの惨状を放置している国王に不平の言葉を漏らすが。


「いえ、国は既に対応済みですよティズ」


そういうと、遠眼鏡から目を離して、サリアは町の入り口方面を指差す。


指の先には白銀の鎧を身に纏い獅子の文様が描かれた赤い旗と同じ文様が刻まれたマントをその背にせおう集団の姿があり、クレイドル寺院と町を繋ぐ道の前で待機をしており、

町へと続く道にも数体のゾンビが明かりを目指して進んでは、途中に待ち構える王国軍騎士団に切り捨てられていく姿が見て取れる。


どうやら、国もクレイドル寺院の惨状には気付いてはいるようだ。


「なんでクレイドル寺院の救援に行かないの? サボり?」


シオンは首をかしげながらそんなことを言うが、サリアはその言葉にいいえと首をふる。


「クレイドル寺院と国は互いに不可侵協定を結んでいます」


「不可侵協定?」


「ええ、現神父がロバートに結ばせた協定で、信仰対象であるクレイドル寺院の取り扱うもの、取り扱う儀式、行為その他の信仰に必要な全てのものに対し、国の干渉を禁ずる……その反面、敵国からの侵略・魔物の襲撃時にも護衛・援護・救出その他の協力を求めない。 そんな条文が国にはある。 だから国も手を出さないんです。 そもそも税金も彼らは払ってないですし」


「面目ない」

ため息が漏れ、隣で震えている僧侶を見ると、申し訳なさそうに頭をたれた。


内容は完全に上から目線だし、そもそも街の中に寺院があるのに救援を求めませんとは、よくもまぁロバート王はこの申し出を受け入れたな……。


しかしまあ、そのおかげで今クレイドル寺院はアンデットに占拠されてしまったわけで。


完全に身から出たさびであり、同情の余地も無いのだが……僕達はとりあえず引き受けてしまったので立ち上がり、救出へと向かうことにする。


「アンタはここで待ってなさい。 そんで、しっかり私達に助けてもらったってあそこの守銭奴神父に伝えるのよ? 分かった?」


「は、はい! 必ず!」


僕達はそういって僧侶を残し、剣を手に取る。


これ以上様子見をしていたら神父たちの命が危ない。


「そろそろ行くけど準備はいい? シオン、サリア、ティズ」


「ええ。 いつでも」


「ふふ、炎武の力思い知らせて上げるよ!」


「さっさと終わらせて飲みなおすわよ!」


酔いが回っていないか心配ではあったが、みんな大丈夫そうだ。


ただ一つ気になったのは。


「サリア、ユカタで来ちゃったけど大丈夫?」


着替える時間も場所も無かったので、サリアがそのままユカタで戦いに参加することに

なったことだ。


ユカタの上からでは防具も装備できないし、アーマークラスは最大値になってしまう。


「問題はありません。 確かにアーマークラスは心もとないですが、修行時代はこの姿で戦闘を行っていましたので、動きに違いは出ません」


サリアは嘘をつくことはないし、自分の力量を見誤るほど未熟でもない……。

僕は安心して分かったとだけサリアに伝えると、サリアは嬉しそうに微笑み。


「騎士団に見つかると多少厄介なことになるかもしれません。 裏道から抜けましょう。

マスター」


そう提案をしてくる。


「距離的には少し遠回りになるけど、騎士団にとっつかまる可能性を考えれば小さなロスね……ウイル」


「わかった。 でもその分急ごう」


「りょうかーい!」

     

似つかわしくないシオンの気の抜けた合図とともに、僕達は救出任務を開始する。

 


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