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291.深夜の救出隊


夜……何やら騒がしい街のに僕は目を覚ます。


「起きましたか、ウイル君」


起き上がると、傍らにはカルラがすでに着替えた状態で立っており、窓からサリアが外を覗いている。


「……一体何が?」


外では何かを騒ぎ立てる様な音が響き……同時にサリアもカルラも緊張したような表情のまま外を見ている……。


時刻を見ると深夜1時……朝日が昇るにはまだ大分時間があるというにも関わらず、まるで何かのお祭りかの如く、このクレイドル教会の中であっても分かるほどに人々の騒ぐ声が鳴り響いている。


「……内容は聞き取れませんが……街で騒ぎがあったようです……そして気になるのが、魔族が出たと」


「魔族!?」


話しで聞いたことがある……魔族とは、おおむかしにこの世界に現れ、、魔物や蛮神を操り多くの人間を虐殺した侵略者であり……神々の力により滅ぼされた種族。


今や残された魔族は少ないとされているが、その力は強大であり、ひとたび姿を現せば……その大きな災いをもたらす……そんな存在だ。


「真祖の吸血鬼に、エルダーリッチーに続けて……そんな大層なものまで現れるとは」


サリアの表情は険しく、カルラも心なしか落ち着きがない。


無理もない、魔族という存在はそれだけでも危険とされているのだから。


よく、子供のころ父親に、悪いことをすると魔族が来るぞと脅されたものである。


「……。 すぐにでも街の人を助けに行かないと……」


僕はそう慌てて提案をするが、サリアは少し喉をうならせると。


「しかし……どうにも妙なのですよ」


サリアはそう言って外の様子を再度うかがう。


その表情は、怪訝そう……というよりも、自分の耳を信じられないでいるといった表情だ。


「妙?」


「ええ……確かに魔族が出たとなれば一大事ですが……そうなれば人々のもっとこう……阿鼻叫喚の声が響くはず……ですが」


「?」


「……この喧噪はまるで……何か弱いものを追い立てる様な……そんな感じがするのです」


それはおかしい。


魔族は恐ろしいもので強大なものだ、追い立てられるのは当然民衆側であって、魔族側ではない。


ましてや、騎士団のように戦うすべのない人々が、強力な魔力を有する魔族を追い立てるなどできるはずがない。 たとえこの街のすべての人間が襲い掛かろうとも、たかが知れているのだ。


「だから……サリアさんも飛び出すか否かの判断を下せずにいたんです」


カルラもまた、この騒動に疑問を抱いたように語る。

耳をすませば、確かに魔族が町を襲撃しているならば、もっと悲鳴や絶叫が上がるはず。


しかし、どう控えめに聞いても、聞き取れる単語は殺せという単語や罵倒の言葉……そして殺意をむき出しにした怒りの声。


確かに、追われているというよりも何かを追い詰めているといった言葉だ。


窓の外は雨がしきりに降り続いており、その中でも声が聞こえるというのは、よほどの狂気が町を覆いつくしているということ。


僕はその異常な状況に、気圧されながらも。


「とにかく……街に出てみよう。 シンプソンも戻っていないだろうし……ジャンヌさんとシオンにも報告を……」


しないと……と言おうとした瞬間、僕たちの寝室のドアが勢いよく開き。


サリアとカルラは臨戦態勢をとって振り返るが……。


「シオン?」


そこにいたのは、ローブを脱いだ状態で、全身びしょぬれの状態のシオンであった。


「ウイル君……」


瞳は真っ赤に腫れあがり……その瞳からは雨粒ではないとはっきりわかるほど、ボロボロと大粒の涙を流してその場に崩れ落ちる。


何かがあったのは一目瞭然であり僕たちはすぐさまシオンの元へと掛け寄る。


「どうしたの!? シオン! 一体何があったの!」


「ジャンヌが……ジャンヌが」


「落ち着いてください……ジャンヌがどうしたのですシオン」


「殺されちゃう……このままじゃ……ジャンヌが殺されちゃうの!」


「まさか、ジャンヌを魔族に誰かが仕立て上げたのですか!?」


「違うけど、そうじゃないんだけど!? でも、街の人をジャンヌが守って、そしたら町の人がジャンヌをさして……それで、こうして……私、どうしたらいいかわからなくて、何もできなくて……」


「……な、なぜそんなことに」


話しが見えてこない……。だが、シオンの取り乱し方から自体は一刻の猶予もないことを理解する。


「私のせいなの……全部全部私のせいで……お願い、お願いウイル君助けて……ジャンヌを助けて……助けて」


懇願するように大粒の涙を流すシオン……。


何があったのかはわからない……相手は守ろうとしていた街の人たちになるのだろう。


だが。


「サリア、カルラ……」


「ええ」


「はい!」


僕の言葉に、二人の騎士は力強く頷き、僕の言葉を聞くよりも先に肯定をする。


「カルラ、先行はまかせた……誰よりも早くジャンヌの居場所を突き止めて、最悪テレポーターを使って僕たちのもとに……状況がまずいようなら、すぐにでもリルガルムに一時帰還する」


「分かりました!」


その命令に、カルラはすぐさま僕の影に潜み、街へと飛び出していく。


「サリアはシオンを連れて僕と一緒に……腕の傷は?」


「ジャンヌにかけていただいた治癒魔法により万全です……もういつでも戦えます」


「分かった。 だけど誰も殺しちゃだめだよ」


「心得ています」


「シオン! 案内を!」


「ありがとう……ウイル君ありがとう……」


「感謝の言葉は、ジャンヌを助けてからだよ! 説明はその後! 最悪全員を連れてリルガルムまで逃げかえるから!」


僕はそう言ってシオンの両肩を叩いて正気を取り戻させる。


と、先ほどまで光のなかった瞳が、少しだけ灯がともり。


「……うん……」


僕の言葉を肯定するように力強く頷く。


「走れるかい?」


「大丈夫……ついてきて!」


どうやら怪我をしているわけではないらしく、僕はその点は安堵をして、ホークウインドを握って扉を開け……ジャンヌ救出の為に深夜の町へと飛び出していくのであった。


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