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280.聖王都の闇と輝けるシンプソン

「助けて……助けて!?」


「お願いします……家族に……家族に会わせて!」


解放された人々は、涙を流しながら縋るようにシオンとサリアの元へと駆けていく。


「何をしているんだ お前たち!! 奴隷の拘束を解くなんて……しかもこの聖都のど真ん中で!? 劣等種で汚れるだろう! 神を冒涜するつもりか!?」


「許されない!? 許されない大罪だ!」


怒声を上げる聖騎士団……耳障りなノイズに僕は怒りを抑えながらも、倒れる奴隷と呼ばれていた人たちに駆け寄る。


ボロボロの服に、あちこち傷だらけの体……。


日常的に暴力が振るわれていたことは明白であった。


「みんな、この人たちの介抱を」


「もちろん」


「わかりました」


サリアとシオン、ティズは僕の言葉に一つうなずくと、倒れた人たちの介抱を始める。


それに対し。


「汚らわしい! 今すぐその行為をやめなさい!? でなければ!」


「でなければ?」


僕は手を翳し、トラップイーターを起動する。


出現させるのは串刺し床……聖騎士を貫かないように注意を払いながらも、針の山により僕は全員を針のムシロにより身動きを封じさせる。


「貴方……聖都に、クレイドルに反旗を翻すというのですか?」


信じられないといった表情で、聖騎士達は息を飲む。


まるで狂人を見る様なその心の底からの驚愕のまなざし……悪意も何も存在しない……彼らの常識は僕の怒りを更に加速させていく。


「クレイドル神による天罰が、貴方に下るでしょう! 今すぐ劣等種を……」


「それ以上喋るなよ、今からでもこの街を焼き払いたくなるだろう……?」


更に手にドラゴンブレスを構え、炎を生み出しながら僕はそう脅しをかける。


恐らく、リューキの忠告が無ければ、僕は今ここでここにいた彼らを焼き尽くしていただろう。

それだけ抑えきれなくなりそうな怒りが……僕を支配する。


彼らにとってはそれが常識であり、それを正そうと力を振るうのは取り返しのつかない悪である。


リューキはそう言った。


だからこそリューキは……助けを求めてきた奴隷の人間だけを助けるために動いたのだ。


「マスター……生傷は絶えませんが、魔法の毒気に充てられているだけで、皆歩けるそうです」


「そうか……良かった。 じゃあ、彼女たちを送ってくれるかい」


「当然です……」


僕の言葉にサリアは語尾を強めてその場を去っていく。


残されたのは僕と聖騎士達のみ……。


聖騎士は串刺し床の罠により、のど元に槍を向けられている状態のままこちらをにらんできており、僕もその視線に対して怒りの目を向ける。


「ここで、あの物達・・を逃がすということは、この国を敵に回す……ひいては聖都、クレイドル教すべてを敵に回すということと同義ととってもらっても構わないですね」


「しゃべるなって言ったと思うんだけど」


一触即発、今にもはじけて跳びそうな僕と聖騎士団であったが。


「……イヤー皆さんお疲れ様です! はいはい、怖い顔もそこまでですよぉ!」


聞きなれた男のうさんの臭い声が響き渡る。


僕たちは振り返ると、そこにはシンプソンが立っており。


「さぁて! お金の話をしましょうか!」


なんて、場違いなまでの満面の笑みを浮かべてそう言った。


                      ◇

ピエールの王城・謁見の間。


「いやー皆さんご無事で何よりですねぇ!」


どの面下げて戻ってきた……と言いたげなピエール達の表情など意にも介さず、シンプソンは鼻歌でも歌いそうなほどたおやかな笑顔でピエールに声をかけると、わがもの顔で近くの椅子に腰を掛ける。


「どの面下げて戻ってきた……」


その行動に、さすがのピエールも堪忍ならなかったのか、怒りを隠すことなくそのままシンプソンへとぶつけるが。


「こういう面ですが」


シンプソンは悪気無さそうににこやかな笑顔を向ける。


むかつく。


「色々と、今回ばかりは問題が山積みですね……。 奴隷たちの誘拐に裏切者の処遇、クラミスの羊皮紙で死なないから、裏切り放題ということですかシンプソン」


「はっはっは、貴方達は交渉というものを分かっていませんねぇ。 私がいつ、アンデッドとの戦いでは必ず出陣するっていいましたぁ? 契約は、魔法を放つごとにお金を払う!それだけだったはず! この聖衣が血にぬれていないのが何よりの証拠ですよ! 本当に、商談が下手なんですから! そりゃ貴方、この百倍出されたらそっちに行くでしょう! 慈善事業じゃないんですよぉ? 神の魔法は!!」


「むがあああぁ!?」


「あっはっはっはっは! 相変わらずバカですねー! ピエール!」


ピエールは怒りに任せてシンプソンに見せつけられた羊皮紙を奪い取り、破り捨てようとするが、その紙はびくともしない。 恐らく何か魔法のようなものがかけられているのだろう。 その様子を見てシンプソンは心底愉快そうに笑うと。


「さてさて、そろそろ落ち着いて次の商談に移りませんかピエール。 あぁ、マスターウイルも皆さんも、勝手に座っちゃっていいですからね……お互い今は一刻も早く事態を解決したいはずですから、ええ、何せイレギュラーですからね」


「あによ、いつもは面倒ごとは嫌うくせに、今日はやけに仕切るじゃないの」


「ええええ、状況はリリムさんやリューキさん達に聞いていますからねぇ、この問題の解決を図るには私のような協会側の人間でありながらも、平等主義者である私の存在が必要不可欠……となれば自然に自体解決の為に私が一肌脱ぐのは当然の帰結かとおもわれ……」


「僕たちを助けてくれって、リリムに頼まれたんだね」


「……はい」


「なんだー、少し見直して損したよー」


「まぁでも……お金の為に奔走するシンプソンさんの方が……その、似合ってますし」


「そうですね、あと少しで首を刎ねて偽物じゃないか確認するところでした」


「死なないとわかってるからって、確かめ方がいささか乱暴すぎませんかねサリアさん!? 一応言っておきますけど、死ぬのって痛いんですよ!?」


「アンタら立場分かってんのか? 一応お前ら裁かれる立場なんだからな」


ピエールは苛立たし気に僕たちにそういうが、シンプソンはそんな脅しをものともせずに笑うと。


「何が裁かれるですかピエール……奴隷制度はクレイドル教会ではすでに廃れた風習ですよ、いつまで魔女裁判をするつもりですか?」


シンプソンの瞳は珍しく、怒り狂うピエールをいさめる様な瞳になっている。


彼も、恐らくリューキと共にこの街の真相を知ったものの一人なのだろう。


「……うるさい! ここは始まりのクレイドル教の町……アンタのように世俗にまみれた解釈ではなく、正当にクレイドル教の教えを守るのが我らの役目だ!」


「そうですか、それ自体は否定するつもりはありませんよ。 古き風習大いに結構……ですが、遅れた人たちの遅れた法律を、私たちに適用するのもおこがましいと思いますが」


「この街にいるからには、この街の法律に従ってもらう」


「いいえ、リルガルム協定二十五条、この国とリルガルムでは使者の扱いは普通の者とは異なります、国より指定を受けて使者として使わされたものは、その使者の属する国の法律で裁かれる。 仮に奴隷解放を罪とするならば、王都リルガルムでは奴隷自体が法律違反……よってその罪は不問とされるでしょう」


ぺらぺらと饒舌にピエールを言いくるめるシンプソン、知的に論破しているように見えるが、見えないように工夫してはいるものの、その手にはびっしりとあんちょこが書かれている。


「恐らくリリムですね」


サリアは僕にそう耳打ちをし、僕はその言葉に納得をする。

本当に、リリムは用意がいいのだから。


「……ぐっ……調子にのって……だが放火の罪は言い逃れ出来んぞ」


「放火? あの火災は事故なのでしょう? それに、火の手が上がったその時、マスターウイルのパーティーはみな聖騎士団と共にいた……何を言っているのですか?」


「ぐぐぐぐぐぐ!?」


ピエールはリューキのことを知らない……ゆえに、この街に火を放った下手人を聖騎士達は割り出せていないのだ。


なので、僕たちも知らぬ顔をする。


「まぁまぁ落ち着いて……」


「落ち着いていられるか!? 裏切者に異端者……もう腹いっぱいだ」


「そうなんですか? 怒り狂えるとは随分と余裕ですね」


「あぁ、お前たちの頭蓋をたたき割ったらもっと余裕ができるだろうよ」


ピエールはそう悪態をつきながら椅子に腰を掛けるがシンプソンは鼻を鳴らして。


「まぁ、私は死なないからいいんですけれども、というかいいんですか? そんな態度とって」


「異端には全力で敵対する、それが私たちのやり方だ」


「そうですか……まぁその覚悟があるなら別にいいですが……とりあえず言うと、この聖王都明日滅びますよ?」


そんなとんでもないことをぽつりと伝えた。


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