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279.奴隷と傀儡の魔法

「おかえりー!? 大丈夫だった!? なんかサリアちゃんが浮かない顔してるんだけどー!」


正門に戻ると、シオンが心配したような表情で僕たちに駆け寄ってくる。


「……ええ、何とか」


「なによ、随分と辛気臭い顔して、大勝利なんだからもっと明るい顔しなさいよ!」


聖騎士達は何やらそわそわした様子であったが、僕たちはあえて気にすることなくシオンとティズとの会話を続けることにする。


黒騎士たちは依然聖騎士達の隣に立ち尽くしており、聖騎士達は僕たちの発言に明らかに耳をそばだてていた。


……隠し切れない、殺気を押さえて。


「……何もなかったよ……本当にただの事故だったみたい」


リューキのことは語らずに僕はそういうと、聖騎士達の殺気が和らぐ。


「そ、それはよかったです……じゃあ、今回の襲撃は」


「うん……正真正銘これで終わりだね」


「やったー! シオンちゃん大勝利―!」


「お酒飲むわよー! お酒―!」


「しー! シオンちゃん!ティズさん マキナちゃん起きちゃう!」


「あっ……ごめんー!?」


「起きてない? 起きてないわよね?」


「何とか大丈夫みたい」


カルラの方を見やると、腕の中でくーくーと寝息を立てるマキナがいた。


どうやら待たせすぎて眠ってしまったらしい。


僕はそんなマキナの頭をそっと撫でると。


「シオン、ちょっといいかい?」


「なーにー?」


シオンのことを呼び寄せ、耳打ちをする。


「え……そんな悪戯するの?」


「ああ、構わないよ、盛大にやっちゃって」


「分かったよー! じゃあ、合図はよろしくね!」


「あによ!? また何か二人で面白いことするつもりね? 私も混ぜなさいよウイル!」


「ごめんティズ……ちょっと待ってて」


「な、何よ……そんな真剣な顔して……」


長い付き合いのティズは、僕の表情からこれから何か起こるのかを察したらしく、疑問符を浮かべながらも僕の頭の上にとまる。


「じゃあ、合図したらね」


「うんうんー! 準備しておくよー!」


シオンの言葉に僕はうなずき、サリアと共に今度は聖騎士の元へ向かうことにする。


聖騎士達は戦いが終わった後だというのにどこか緊張した面持ちであり、伝令の人間があちらこちらからやって来ては何かこそこそと内緒話をしている。


「お疲れさまでした……先ほどはごめんなさい……つい気がはやっちゃって」


先ほど、忠告を無視してかけていったことを僕は謝罪をするが、聖騎士は笑顔をこちらに向ける。


「いえいえ、貴方の勇気ある行動はクレイドル様もお喜びになるはずです……ですが、これからは気を付けてください……何かあっては、シンプソン様にもリルガルムの方々にも顔向けができませんので」


丁寧な口調、だけどどこか警戒をするように聖騎士の男はそういい、僕は二コリと笑顔を返す。


「はい……ありがとうございます……それで、エルダーリッチーは今夜は現れなかったみたいですけど」


「……ええ、今日で終わってくれれば、私たちも安心だったんですけれどね」


「そうですね……まぁでも、黒騎士隊の人たちにも被害が出なくてよかったです……」


「……そうですね」


黒騎士隊の話題が上がると、聖騎士達は少し表情を歪める。


意図的にその会話をされるのを嫌がる様子であり、僕はリューキの言葉を思い出す。


黒騎士隊の仮面を剥げ。


その言葉に僕は疑問を抱いていたが、聖騎士のこの反応から、僕たちはこの国の裏側を黒騎士隊が握っていることを確信する。


だからこそ……。


「……何か、隠してませんか?」


僕は単刀直入にそう聞くと。


「……ウイルさん、貴方、やはり何か見たんじゃないですか?」


聖騎士団はそう、決定的な一言をつぶやく。


もはやこれ以上探りを入れる必要はないだろう。


僕は、そう威圧をするようにこちらをにらむ聖騎士団に、何も……とだけつぶやいて。


「ただ、これから見ることになります」


片手をあげて、呪文を詠唱し終わったであろうシオンに合図を送る……と。


【武装解除!!】


「!? な、なにを!!」


シオンは兜や鎧を弾き飛ばす、第二階位魔法、武装解除を、一人の黒騎士に対して放つ。


放たれた魔法により、つけられていた兜ははじけ飛び……。


無言、無口であったその兜の下の人間の素顔があらわになる……。


「これは……」


「なっ……」


「何よ……これ」


息を飲み、僕は一度驚愕をした後……リューキと同じようにこの街が炎に包まれることを一瞬だけ望む。


「んんーー!? んんんーーー!!」



そこには……猿ぐつわをされ、震えながら涙を流すエルフの少女がいた。



兜の部分だけで下の方はわからないが……その表情や、幾重にもめぐらされている魔法の術式のようなものから……全身を拘束されている状態であることは容易に想像ができる。


「傀儡の魔法……しかもあんなに何重に……」


シオンが嗚咽を漏らすように零したセリフから、それがどれだけ醜悪な物かは理解できた。


「……何をするのですウイル様!? 黒騎士隊の仮面を取ることは禁止されて……」

この状況があらわになったというのに、御託を並べ剣を抜こうとする聖騎士。


サリアとシオンは臨戦態勢を取ろうとするが……僕はそれを静止して、すぐさま聖騎士の胸倉をつかむ。


「ひぃ!?」


「これは、一体どういうことだい?」


できるだけ、自分の怒りを抑えながら冷静に問う。


「こ、この国では奴隷制度が認められています……神に愛されなかった者たちは……この国では奴隷とすることが許可されているのです」


「奴隷……だって? まさか、黒騎士隊って」


「奴隷で構成された兵士たちです」


「兵士ですって? 兵士っていうのはね、目的は色々あるだろうけど自分の意志で戦う奴のことを言うのよ……こんなの、ただの人形じゃない……それに、どう見たってこの子は、剣を振れる様な子じゃないわよ!?」


か細い体のエルフは……涙を流しながら何かを訴える。


言葉は出ておらず何を言っているかわからなかったが……確かに助けてと言っているのが分かった。


「せ、先日の襲撃で……奴隷が多く減りました……戦力は劣りますがこの拘束具と鎧は……ある程度戦力を補強します」


気が付いてしまう。


聖騎士団たちは、聖王都の守りの最後の砦……なんてうたってはいたが。


「……自分たちは砦にこもって……この人たちにだけ戦わせていたんですね」


カルラは侮蔑の感情を込めた声で……そう言葉を放つ。


マキナが眠っていて本当によかった……。


「当然でしょう……アンデッドに殺されれば蘇生は出来ません……この世界で最も高潔で優れた、人間、である我々の命を危険にさらすわけにはいかないでしょう? それに、カルラ様発言の撤回を、こいつらは人ではありません」


「本気で言っているのか?」


「主神クレイドルが作ったのは我々人間だ!! それはつまり! この世界で最も優れているのは人間なのです!! そこのエルフやドワーフのように人間に認められた劣等種ならいざ知らず! ただの劣等種の命! 人間の為に捧げられるなら光栄と思うべきでしょうが!」


「ふざけるなよ……」


怒りをあらわにし、僕を怒鳴りつける聖騎士に、僕は最大限の怒りを必死に押し殺してそう言葉を漏らす。


こいつは……何も悪気がない……。


こいつにとって、人間以外の部族はみんな劣悪種であり……自分の為に命を捧げるのは当然であり、ここにいる人たちのことを物程度にしか思っていないのだ。


そこに罪悪感もなければ……この行動こそ正しいものであると信じ切っている。


この街では、人間しか見かけなかった。


当然だ、人間以外の種族の人たちはみな、奴隷として一か所に隠されるように集められていたのだから……。


最初に僕たちが馬車に乗った時……不自然な座席の割り振り方をされた気がしたが……あれは人間とそれ以外と分けたのだ……。


ふざけている……そう思いながら僕は唇をかみしめる。


願わくば、こんなふざけた考え方をする人間が、こいつだけであることを願いたかったが……。


「貴方……まさか異端なのですか……」


「劣等種を擁護などクレイドル神への侮辱だ……」


「まさか、魔王の手先では……」


僕の行動に、その場にいた聖騎士団たちはいっせいに剣を抜き、僕の願いは粉々に砕け散る。


もはや……僕たちの中で彼らを守るという選択肢など消え失せた。


「サリア……シオン」


「承知」


「うん!」

小さくつぶやいた僕の言葉に、サリアはすぐさまに剣を抜き……黒騎士隊に剣を振るう。


撫でるように放たれた一撃は、決して拘束された人々を傷つけること無く、その身の自由を奪う人々に纏いつく鎧を破壊し。


「呪い燃やし!」


シオンが放った炎の魔法が、鎧の下に重なるようにかけられた拘束の魔法を焼き尽くした。


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