275. 迷宮闘技場特急便~メイズコロッセウムエクスプレス~
「ふっふふふふ! すごいわウイル!!? 本当に迷宮の罠は使い放題なのね!? しかも、壁と違って、使用制限もないから打ち放題使い放題!! 最強よ最強! やっぱり私のウイルは最強なのよおおおおぉ!」」
ティズは実験の成功に大喜びをしてはしゃぎまわり、僕の頭をぺしぺしと叩いて自分の事のように大はしゃぎをする。
メイズイーターレベル4の力は、一度その身をもって体験をした迷宮・宝箱の罠を、自由自在好きな所に設置……好きなタイミングで起動と停止を切り替えることができる能力であり、その罠の設置数に条件はなく、迷宮外であっても、何かに接していれば罠を張ることは可能という破格の性能であり。
マキナの言葉を半信半疑に、テレポーターの罠をとりあえず聖王都の周りに張り巡らせ、迫りくるアンデッドが皆この場所に集まるようにセッティングをしたのである。
結果は大成功。
見事にこの一か所にアンデッドは全て集結し、サリアからの緊急事態発生を知らせる有色の狼煙も上がらないことから、僕はメイズイーターレベル4が間違いなく起動したことを確認する。
「ふっふーん! この布陣は私が考えたんだよー! スーパーシオンちゃんバリア改め!」
シオンはそう高らかに宣言すると、一つくるりとアンデッドの前でターンを披露し、息を大きく吸い。
「迷宮闘技場特急便!!」
必至に考えていたのだろう、この罠の名称を勝手につける。
まぁ、いいけど。
「えー! シオンおねーちゃん。トラップオブコーメーにしようって約束したのにー!」
「えっわ、私は、殺戮腐敗煉獄陣がいいと思いますよ!?」
「ちょっと、この陣はフェアリーサークルラブリーティズスペシャルにするってウイルと約束してたんだからね! ね? ウイル!」
「してません」
「空気読みなさいよ!?」
敵を前に、ギャーギャーと名前のことで喧嘩を始める四人……。
そんな四人を眺めながら、僕はまとめ役であるサリアの大切さを身に沁みさせながらため息を漏らし。
「そんなくだらないことでもめてるんだったら、僕が全部獲物を貰っちゃうぞ……」
「あーー!? ダメダメ―! ここのアンデッドは私とマキナちゃんでやるんだから!」
「そうだぞ! ウイルはそこで見てればいーの! マキナのちょーひっさつわざを炸裂させるんだから!」
「はいはい……だったら早くして……意外と近くまでアンデッド来てるからね?」
僕はそういって目前を指さすと、すでに僕たちとアンデッドの戦闘集団との距離は百メートルほどに近づいていた。
「おー! 意外と足早いなあいつら! シオンおねーちゃん! いっちょやりますか!」
「まかせてー! それじゃあ打ち合わせ通りに!」
「あ、いやな予感」
僕は何やら嫌な予感を覚え、そそくさと迷宮の壁側へと聖騎士とカルラを連れて回避する。
と、シオンはトネリコの杖を振りかざし、詠唱を開始する。
【踊り狂え情熱の舞踏会! 足並みそろえてずんちゃっちゃ!! くんずほぐれつ ずんちゃっちゃ!】
カツンと……杖が大地を叩く音が響き渡り。
【火炎舞踏会!】
一拍を置いて、大地から火柱が吹き荒れアンデッドの群れをもてあそぶかのように飲み込み、吹き飛ばす。
炎の波にのまれ、右に左に吹き飛ばされるその様はまるで愚者がダンスを踊るようであり。
痛みを感じぬアンデッドであってもその波には逆らえず足を止める。
これだけでももはやアンデッドの命運は尽きたようにも思えるのだが……可哀そうなことに今回はマキナがいる。
「さー! マキナちゃん! やっちゃってー!」
「おーさ!」
下がりながら叫ぶシオンの言葉にマキナは上機嫌に笑うと、その場で大地を一つける。
瞬間。
マキナの背後に無数の~銃~が現れる。
いや、背後……というのでは表現が狭すぎる……作り上げた闘技場の横幅一杯を埋め尽くすほどの様々な形の銃が現れ……
「……あ、あれシンプソンさんが殺された奴!」
そう、口から鉛や炎を放つ、筒状の武器~銃~
かつて迷宮の罠でシンプソンを屠ったものであり、アルフと対峙した際に見せたものがまたもマキナの背後に現れる。
【神が出てきて終わるお話 法則無視の流れ無視! 私が出てきて大団円! これすなわち機械仕掛けの物語! 我すなわち! 機械仕掛けの神、デウスエクスマキナなり……レプリカだけどね!】
片手を上げるマキナ……その無数の銃口は、全て敵へと向かい……踊り狂う愚者に対し撃鉄を打ち鳴らす。
【デウスエクスマキナ・レプリカ!!】
振り下ろされた腕は合図であり、大地をとどろかせるほどの轟音が響き渡り、同時に目前のアンデッドに対し鉛の雨を文字通り横殴りにたたきつける。
「……ゾンビに銃が効かないなんて誰が言ったのかしらね」
「すごいです……これが、鉄の時代の兵器……」
ティズは少し呆れる様に、カルラはその力に感心するようにため息を漏らしてそういい、目前に広がる惨状を見る。
無数の銃弾の嵐に飲み込まれ、アンデッドは全滅。
スケルトンの骨は無残に砕かれ、ゾンビは原型をとどめている物すら少ない。
炎に焼かれ、銃弾の雨に打ち抜かれ……。
アンデッドたちはその全てを行動不能になる。
「真祖の吸血鬼も、リッチーも……いなかったみたいだね」
「ええ、毎回現れるわけではないみたいなので……今回はラッキーだったのでしょう」
荒野に倒れる魔物を一度見回すが、カルラの目をもってしても吸血鬼の姿もリッチーの姿も見受けられず、僕たちはひとつ胸をなでおろす。
真祖の吸血鬼がいたら……恐らくはこんなに簡単にこの戦いは終わらなかっただろうから。
「ね? 言ったでしょう? 何も心配することないのよ聖騎士さん! 私のウイルは……ってあれ?」
先ほどまで口うるさかった聖騎士に対し、ティズはどんなもんよといわんばかりの笑顔を向けながら語ろうとするが。
「……あ、聖騎士さんなら、アンデッドの大軍が出たあたりで寝ちゃいました」
「何よ、あんだけさんざん文句言ってたって言うのに……顔にらくがきしちゃろ」
「ほどほどにね……」
戦闘は終了……動く敵がいなくなったその戦場で、僕は勝利を確信すると。
そっと、闘技場の壁を壊し、幕を閉じるのであった。
◇




