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27.呪われ好きと呪われた本

「おっそーーーい!」


広場でのごたごたがあった後、一応僕はナイフに刺された跡や傷が無いか状態異常になっていないかを確認した後に、エンキドゥの酒場へと向かうと、先にきたつもりが既にティズとシオンが僕達を待っていた。


「主賓を放ってどこにいってたのかな~?」


シオンとティズの出来上がり具合からして、相当早く買い物は終わったらしい。


後ろでなぜかもぞもぞと蠢く紫色の大風呂敷がシオンの席の隣にあるため、シオンの買い物も順調の……。


なんだあれええええええ!?


「ご……ごめんごめん、サリアの生活用品を選ぶのに少し手間取ってね」


何だあれ! 何だあれ? おおよそ日用品でもぞもぞ蠢くものって存在しないはずなのに、あろうことかあの風呂敷の中身もぞもぞ動くだけじゃなくて風呂敷の盛り上がりが顔の形になったりしてるんだけど


本当に何買って来たんだシオン……突っ込みたい……突っ込みたいけど、あれ触れたらやばい奴だ。


絶対に突っ込まないぞ……突っ込んだら終わりだ。


「何つったってんのよ~ 早くこっち来なさい馬鹿ウイル~」


そんなもぞもぞ動くものにほうけていると、ティズは飛び上がって僕達を席に着かせようとする。


「早くしないとはじめられないよ~」


赤ら顔で何を言うかこの酔っ払い。


呆れながら僕たちはいわれるがまま席に着き、ダークエルフのお姉さんにサリアは清酒を、僕は蒸留酒を頼む。


「はいじゃあ! 私の! パーティー参加を祝してー! カンパーーイ!」


「なんでアンタが仕切ってんのよ!? ってああ!? 私の七色鳥のターキー取るんじゃないわよ爆発女!」


「早い者勝ちだよー! ほらほら! サリアちゃんも飲んだ飲んだ!」


「あ、ああ……ところで、その」


どうやら二人とも酔っ払っており、サリアの服がユカタに変わっていることなどどうでもいいらしく、感想の一つも漏らさないで酒盛りにいそしんでいる。


隣のサリアを見てみると、少しは感想を期待していたらしく残念そうな表情をしている。


諦めきれずに咳払いをして襟を直してみたり、袖をまくってみたりと健気にアピールをしている所がまた可愛らしくかわいそうになる……


「とったーー!」


「ああっ!? ティズちんそれは私の甲羅ガニ!!」


「ざまあ見ろってのよ! 眼には両目を! 歯には顔面ふるぼっこよ!」


「あう」


シオン、お願いだから少しは反応してあげて! しょぼくれちゃってるから、サリアしょぼくれちゃってるから!?


「はぁ……ところで、ティズは何を買ってきたのですか?」


まったく感想をもらえることが出来ず諦めたのか、サリアは気を取り直してとばかりにティズに買い物の話を振る。


「私? 私は勿論とってもすごいものを買ったわよ」


二人に渡しておいてティズに渡さないのもおかしいと思い、ついついティズに金貨を渡してしまったが……果たして何を買ってきたのだろう。


「これよ!」


ドスンという音がし、机の上に一升瓶が置かれる。


ドスン ドスン! 


しかもどうやら一つでは収まらないらしい。


「ティズ……これは?」


「ふふ、当然お酒よお酒! 金貨一枚も貰っちゃったから、10年ものとかも買っちゃった!?見てみて、伝説の龍殺しもあるのよ!」


そういう意味で渡したわけではないのだが……どうやらティズは僕からのお小遣いと勘違いしたらしく、全部お酒に替えてしまったらしい。


「……ティズ、流石にマスターの意図を汲み取るべきだったのでは?」


「にゃ、にゃにおう!? ウイルは私が喜んでくれるようにって金貨を渡してくれたのよ!? だったら私が一番幸せになれるお酒を買うのが正しい選択でしょう!?」


そうだね……うん。確かにティズが一番喜ぶものはお酒だね……喜んでくれたならうん……それでいいんだけど。


「見てくださいティズ。 マスターがすごい苦虫と蜂蜜を一緒に噛み潰したかのような中途半端な表情になってしまったじゃないですか」


「まぁ、微妙な気持ちだけどもティズが喜んでくれたならそれはそれで……」


「ほ、ほらね!?」


「マスター……大変ですね」


サリアが同情のまなざしを向けて僕の肩を叩いてくれる。 ありがとうサリア……君だけだよ、そうやって僕に気を遣ってくれるのは。


「何を買おうがティズちんの勝手だよ~! あははは~」


のーてんきにシオンは笑っているが、隣の風呂敷からは相も変わらず人の顔のような模様が浮かんでは消えを繰り返している。


「そういうあなたは何を買ってきたんですか? シオン」


触れちゃった、気になってたけどろくなことにならないだろうから触れないでいたけどとうとうサリアが地雷を踏んじゃった。


「ふぇ!? そ、そりゃもちろん……日用品?」


とりあえずその眼の泳ぎようで日用品は買ってきていないことは分かった。


「お金をもらったのだから、マスターに何を購入したかは報告する義務がありますよシオン」


「う、それはそうだけど」


「マスター」


そういうと、シオンがきちんと日用品を購入しているかをサリアはチェックするよう僕に促してくる。


あぁもうこうなったら仕方がない……、考えてみればここで触れずにいることなど出来ないのだ……。 


僕は覚悟を決めて風呂敷を開けることにする。 御用改めである。


「ああぁ!? こんなところで開けたら……」


慌てて止めるシオンだったが、もう間に合わない。 


僕は風呂敷の結び目をほどいて広げ。


【おおおおおがああぎゃああああ!?】


「っ!? サイレス!」


絶叫が一瞬酒場の中に響き渡り、同時に静寂が訪れる。


……………。 あまりの絶叫に、酒場全員の視線が集まり、酒場に居たすべての人間が三秒前まで話していた内容を彼方へと飛来させてしまった。


「ア……あはは、ごめんなさい、蜂蜜酒零しちゃって……あは」


正直気まずい。


サリアが慌ててサイレスの魔法をかけてくれたために大騒ぎになることはなかったが、


声を失ってなお本の表紙たちは絶叫を上げている。


まるで本物の人の顔の様に泣いているような表情でうごめきながら口をパクパクさせるその本たちは、一目見ただけでまともではないことに気が付き、そしてその本全てがそうであることに気が付いた時に、僕は軽い眩暈を覚える.



「だ、大丈夫ですか!? マスター! シオン……貴方まさか」


サリアが慌てて僕を支えてくれるが、こんな不気味な本とこれから生活しなければいけないと思うとぞっとしない。


「……サリア、これもしかしてすべて」


「ええ、全部呪われてますよ」


「やっぱり?」


迷宮内部には呪いのかけられた書物やアイテムがある。 装備をしてしまうと大抵外せなくなったり、バッドステータスをおうことになる。


さらには呪われ続けると生命力を失うというケースも見受けられ……。


「ああああ!生命力5って、シオンもしかして!」


「ち、違う違うよ!?」


「マスター……彼女は呪われることに快感を覚える……呪われ好きの様だ」


要は呪われて喜ぶドマゾということだ。


「あ、あんた」


ティズが珍しくドン引きをしている。


「い、いや。 確かに、確かに呪われるのは好きだけど」


シオンとの距離が一メートル遠のいた。


「違う!! 違うの! そんな目で私を見ないで! これはそう! 知的好奇心だよ! 呪われている本は誰も見ようともしないで燃やされちゃうの! もったいないじゃない! 誰も読んでいない本を、魔法使いとして読んでみたいって思うのはしょうがないことだよ! 呪いをかけてまで秘匿したいと思うほどの研究を垣間見たいと思うのは魔法使いだったら当然の知識欲だよ!」


「でもそうこうしているうちに呪われることが好きになっちゃったんだよね?」


「…………うん」


シオンとの心の距離が一メートル遠ざかった。


「やめてえ!? 違うの!? 違うのぉお!」


「第一……生活用品を買うためにマスターは大金を渡してくれたというのに……それをすべて呪われた道具の購入に使うこと自体……いかがなものかと」


「ちゃんと買ったよ!? 私服とか机とかちゃんとかったもん!? 明後日送られてくるもん! お金余ったからこれ買ったんだもん! ねえティズちん!?」


「ま、まぁそうだけど」


「呪われた本ってそんなに安いの?」


「まぁ、読んだら呪われるからね、ほぼゴミ扱いだったわ。これだけ買っても銀貨一枚にもなってないと思うわよ」


「……ならまぁそれは良いとして……毎晩毎晩あの叫び声はちょっと」


二日でノイローゼになれる自信がある。


「大丈夫だよ! この子たちは少し繊細なだけなの! 急に光を浴びてびっくりしちゃっただけなんだよぉ! ちゃんと取り扱えば叫ばないし、呪いも完全に解除する方法を身に着けてるよ! ここまで呪いについて研究するまでに結構生命力は落ちちゃったけど、もう大丈夫だから! ね? ね?」


思えば、シオンと出会ってからこうやって懇願されてばかりな気がする……。


サリアの言った通り、本当に世話のかかる仲間を一人招き入れてしまったようだ。


ティズとサリアを見ると、珍しく動きをシンクロさせて額に手を当ててため息を突いている。


はぁ。


捨てさせると、僕に呪いが降りかかりそうな気もするし……騒がないという条件付きで、僕は呪いの本を家に持ち帰ることを許可するのであった。


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