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267.友の絆は壊れない


「ふふふ……随分と仲がいいんですね……昔の友達を思い出します……あぁ、申し遅れました、私クレイドル寺院クークラックス支部司祭を任されております……ジャンヌと申します」


「あぁ、やっぱりね……聖女っていう肩書がこれ以上ないというくらいぴったりだったから、確信していたよ」


「ちょっと、口説いてるんじゃないでしょうね」


「えっ!? そ、そ、そんなことないよ!? ただ本音がぽろっと正直に出てきたというか」


「私にはそういう事一度も言ってくれたことないじゃない!?」


「正直に物をいってるからね!?」


「どういう事よ!」


「そういう事だよ」


「あーそういう事ねなるほどね……ぶっ飛ばす!」


「申し訳ありませんが、ここは聖なる場所なので……喧嘩はやめていただきたいのですが」


ジャンヌはそんな僕たちに、困ったような表情を向けてそうぽつりとつぶやき。


「……あ、ごめんなさい」


その聖母の様な柔らかな静止に、僕とティズは同時に争いをやめる。


なぜだろう……この人の言葉には強制力はないのに……なぜか従ってしまいたいという思いが生まれてしまう。


「ふふふ……素直でよろしいです。 それで、見たところ、聖都の人ではないみたいですが?」


「王都リルガルムから、アンデッド駆除の依頼を受けてきました……冒険者ウイルです」


「依頼……というと、まぁ! シンプソン様のお連れの方ということですか?」


「まぁ、そういう事になるわね」


「なんて良き日でしょう!」


シンプソンの名前を聞いた瞬間、少女は瞳を輝かせて僕の手を取る。


「えと……」


「シンプソン様といえば、神の命をも救ったとされる聖人ですよ! 慈愛と正義の心に満ち溢れ、人々の傷つく姿に涙をこぼし、部族戦争では種族、思想、信仰さえも問わず人を癒し続けたお方!? たとえ魔物であっても……助けと許しを請うものを見捨てはしないその御心の深さ……あぁ、そんな人のおつきの方に巡り合えるなんて……私はなんて幸せ者なんでしょう!」


「ちょっとまって誰の話それ!?」


「誰って? 神父シンプソン様ですよ!」


「何をどう間違えたらあいつがそこまで美化されるってのよ」


そも、慈愛に満ち溢れた人間は寺院の地下に死体を投げ捨てたりはしません。


「じ、寺院の教えです! それだけの慈愛と正義の人だからこそ、シンプソン様はクレイドル様の寵愛を受けていらっしゃるのですと!」


「あーなるほどねぇ……あいつのやりたい放題をそうやってうまくごまかしてるのね寺院本部は……」


必至になって頭を悩ませながらあのシンプソンを美化することに尽力しているクレイドル教会本部の人間の姿を思い浮かべると、なぜだか涙がこぼれそうになった。


「シンプソン様は今何を!?」


「ピエールさん達と……その……お話してるよ」


「きっと、神の教えについての議論ですね! あぁなんて尊い!」


【ピエール城】


「そうですねぇ! ターンアンデッド一回金貨500枚といったところですかねぇ!」


「ちょっ……まっ!? シンプソン、それはさすがに高すぎ……」


「払わないなら帰りまーす! いいんですよ? この美しい都をぐるりと一周してそのままグッドバーイしたってねぇ! ええええ、だってリルガルムの国とギルドから前金はいただいていますからねぇ!」


「ぐぐぐっ……ですがシンプソン様……貴方絶対に出力落としてターンアンデッド打つでしょう……」


「あっはっはあー!! 当り前じゃないですかあああぁ! 国とお金! どっちが大切なんですかあなたーー!」


 【ピエール城終わり】

          

神に感謝の言葉を捧げるジャンヌ……僕はそんな少女の姿に少しばかり戸惑いながらも、とりあえず本題に戻ることにする。


「……で、本題なんだけど」


「あぁ、すみません……私ったらすっかり取り乱して……ええどうぞ……確か、私に合いたいという方がいらっしゃるということですよね」


「あぁうん……そうなんだ。 でも、その……なんかどっかに逃げちゃったみたいで……会うのが気まずいって」


「会うのが気まずい? それってもしかして……」


そう、少女が心当たりがあるような言葉を漏らした瞬間……。


ガタンという音と共に。


「のっきゃーーーー!?」


上空から声が響き、真っ赤な塊が落ちてくる。


「ちょっ!? シオン!?」


なんでそこから!? 


というよりも早く、シオンは真っ逆さまに屋根の上から転げ落ちる。


結構な高さがある寺院……床は石造りであるために、落ちればまず命はない……。


そして急な出来事のせいでメイズイーターも起動することができず……僕はあまりにも急すぎるシオンの絶体絶命に肝をつぶすことしかできずにいると。


「……シオン!?」


ジャンヌは驚愕の声を漏らすと同時に、その手を翳し。


【水奏楽・水の揺り篭】


不意に地面から湧き上がった水により、シオンを抱き留める。


「ん?」


水の揺り篭……と呼ばれたその魔法は、シオンを抱き留めると、ゆっくりとシオンを地面へとおろす。


水のおかげでシオンは怪我はなかったようで、ちょこんと立ち上がると。


「さささっ! ひしっ!」


なにやら不思議な効果音を口から出して僕の後ろに隠れる。


濡れているかと思ったが、不思議な効果の水らしく、シオンの体は少しも濡れてはいないようだ。


「……ちょっと、なんで空から落ちてくるんだよ、シオン」


「し、シオンじゃないよー! わ、わ、私はその、えーと……通りすがりの魔法使いシフォンだよー! げほっ」


殆どごまかせてないし美味しそうな名前だ。

ばれないようにのカモフラージュか、声色を無理やりだみ声のようにしているが……はっきり言ってバレバレである。


「……まぁシフォンだろうがシオンだろうが知ったこっちゃないけど、なんで空から降ってくるのよ」


「て、テレポーターの罠を踏んじゃって」


「あるわけないでしょう? まったく、つくならもう少しましな嘘をつきなさいよ、シオン……本当に、変わらないのね」


呆れて僕が言おうとした台詞を、代わりに目の前にいたジャンヌが言ってくれる。


その言葉に、シオンはびくりと体を震わせたのち、そっと僕の後ろから顔をだす。


「……え、えと……その」


おどおどと何かにおびえる様な表情をしながら現れたシオン……。


「やっぱりシオンじゃない……その白い髪に、毛先だけが赤い女の子なんて、そうそういるもんじゃないわ」


「……うぅ、ジャンヌ……あのね……あのね」


まるで、お母さんに叱られるのを恐れる子供の様に……シオンはおずおずと何か言い訳をしようとジャンヌの前へと歩いていく。


二人の間に何があったのかはわからない、しかしその様子から僕たちは、シオンとジャンヌがただの友達という関係ではないということは理解する。


僕はマキナとティズを連れて少しだけシオンたちと距離を取り、二人の様子を見守る。


と。


「もう、今までどこにいたのよ?」


不意にジャンヌはシオンに向かって手を伸ばし。

そっとシオンを抱きしめた。


「ジャンヌ?」


「……会いに気てくれてありがとうシオン……無事でよかった……もう会えないかと思ってたから」


「……ジャンヌ……怒ってないの?」


「怒るわけないじゃない……本当に、会いたかった……」


「……うん……ごめんね……ごめんねジャンヌ」


その言葉は心よりの言葉であり、その抱擁にシオンも謝罪の言葉を述べながら涙をこぼす。


彼女たちの間に何があったのかはわからない。


だけど。


きっとこれは喜ばしいことなのだろうと、僕たちは静かにその二人の再開を見守った。


「……うぅ……良かったわねぇシオン……」


「マキナかんどー」


うん……なぜこの二人が涙をボロボロ流して大号泣をしているのは不明だ。


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