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266.ぐずぐずシオン


で。 それから。


「うーーーー」


「行くんじゃないのシオン?」


クレイドル寺院に寄りたいと言い出してから早十分弱、シオンはクレイドル寺院への入り口、正門前でうずくまっていた。


「行くけどー……」


「急に面倒くさくなったわねアンタ……あんまり面倒くさいとあんただけここにおいて、私達だけで罠を仕掛けに行っちゃうわよ? カルラにはひぐれまでに戻れって命令してあるんだから」


「……僕たちが日暮れまでに戻ってなかったら、きっとパニックを起こすよね、カルラ」


「ウイルが約束をたがえるなんて微塵も思ってないものね……そしてどったんばったん大騒ぎをしてサリアも一緒になってパニックを起こす……」


「おー、容易に想像ができるし、その後の未来は想像するのも怖い!」


マキナはげーと舌を出してそう顔をしかめ、シオンもその言葉に小さくうなり声をあげて立ち上がり。


「やっぱりむりー……」


涙目になってまたすぐにしゃがみ込んでしまう。


「一体何だってのよ、知り合いってもしかして彼氏とか? うぶなの? アンタうぶなの?」


「えっ……」


「なんであなたがショックを受けたような表情をするのかしらウイル? あなたには私がいるのに?」


「あ、いや、これはその……あははごめんよティズ、だからその手に持った千枚通しを僕の耳の穴に差し込もうとするのはやめてくれないかい?」


僕はそうティズに命乞いをすると、ティズはにこりとわらってほんの少しだけ奥に千枚通しを差し込んだ。


痛みはないが、耳の中でとんでもなく不快な音が響き渡った。


「うう……彼氏とかじゃないけど……その、今更合うのは恥ずかしくて……うぅ……ちょ、ちょっと顔を洗ってくるから! 中の様子を見てもらってきてもいいかな! ウイル君! そ、それで、先に中に入って! 場の空気を盛り上げて私が入りやすい空気を作るんだよー!」


「なんでまたウイルがそんなことをしなきゃならないのよ」


「だって、すごい合いたいけど、すごい合うのが気まずいというかなんというか!?」


「すごいわ、アンタが気まずいっていうぐらいだもん、相当凄いことやらかしたのね、……どうするウイル、きっとこの子の名前出したら殴り掛かられるわよ」


「そ、そそ!? そんなことない……はず?」


「おー、ウイル、ここはマキナはシオンをここに置いて行くのが正解だと思うぞ?」


「お願い! ウイル君お願いだからぁ!? どうしても、どうしても会いたいのぉ!」


泣きじゃくるシオンにあきれ顔のティズとマキナ……。


確かに、普段のシオンの行動を考えるに、シオンがあらかた何かをやらかしたのだというのが手に取るようにわかり、同時に関わらない方が身のためだと僕の面倒ごとに対する第六感が働く。


だが……。


僕はその時、シオンが仲間になって初めて誰かに合いたいといったことに気が付いた。


「しょうがないな……今回だけだよ、シオン」


「えっ!? ちょっ、ウイル!」


「ありがとう!! ありがとうウイル君!」


目にうっすらと涙を浮かべながら、シオンは顔を真っ赤にして微笑む……。


心の中では未だ葛藤があるのだろうが、それでも僕たちが中に入れば、彼女の願いは成就されるということなのだろう。


「早めにおいでよ? シオン」


「うん! わかったよー! しんこきゅー! しんこきゅー! すーはーすーはー」

「あの様子じゃ、来るのは一年後くらいかしらね」


しぶしぶ、と顔に書いてあるティズを僕はつまみ上げて頭に乗せ、マキナの手を引いて僕はクレイドル寺院クークラックス支部の正門を開けて中に入る。


中は一面の芝生であり、壁の内側にはひっそりと青と紫色の花が壁の影に隠れるように日陰にひっそりと咲いているのが印象的だった。


シンプソンのいるリルガルムのクレイドル寺院のように、自己主張をしながらひたすら輝き続ける寺院とは異なり、白く太陽に照らされながらも、天に立つ風見鶏以外は決して目立つことなく……これだけ光り輝きながらも、まるで風景に溶け込むように目立たない……。


まるで、人々の背中をそっと押す神様たちのように……目立たずともそこにいて、みんなを見守っていられる場所。


寺院とはそうあるべきという、この寺院の主の想いが伝わってくるような建物であり。


僕はそっと、寺院の扉を開く。


と。



中には一人の男性と……少女がおり、少女は少し困ったような表情で、男は口元に笑みを浮かべながら何かを話し合っている。


女性の方はクレイドル寺院の女性用の僧衣をまとっていることから、クレイドル寺院の司祭、ジャンヌという人であろう。


そして、金色の髪に赤い瞳……巨大な体躯でスーツを着こなすその男は、何かを説得するように少女へとアプローチをかけている。


「なにやら、取り込み中みたいじゃない」


ティズがそう呟くと。


「……では、答えは後ほど聞かせよ……孤独なるものよ」


男はこちらに気が付いたのか、肩をすくめるような動作を取り、ゆっくりと出口である僕たちの方へと近づいてくる……。


身長は二メートルほどであり、歩き方、その身のこなしどれをとっても美しい。


と。


「………むっ……?」


男は僕を見やると、眉を顰めて足を止める。


「あによ……」


その行動に、ティズはカチンときたのか不貞腐れ気味にそう返すと。


「いや……なんでもないさ…………くくっ……恐ろしい男もいたものだと思ってな」


男は苦笑を漏らして僕の肩を叩き、ゆっくりと寺院の正門へと歩いていく。


「なんだったんだー?」


そんな男の背中を見送りながら、僕たちはその不思議な発言の意味を考えていると……。


「あれ? そういえば正門の方にシオンいなくない?」


男が歩いていく先……深呼吸をしているはずのシオンがいなくなっていることに気が付いた。


「え? あのバカこの期に及んでおじけづいたの!? ここまでさせておいて!?」


驚愕するティズは、怒りを通り越してすでに呆れの境地に入ったらしく、まったくとつぶやいて僕の頭の上に座りなおす。


「どうするー? とりあえず神にでも祈っとく? ウイル ここにいるし!」


マキナはというと、いつも通り能天気に僕のそでを引っ張りにこにこと笑っており、

僕はどうしたものかと考えながらとりあえずクレイドル寺院……司祭がいた方に向き直る……と。


「ようこそおいでくださいました……傷を癒しますか? それとも、命運尽きし魂に……神の奇跡をお望みですか?」


静々と僧衣をまとった少女は僕たちのもとまで歩いてきて、小首をかしげてそう問いかけてくる。


「あー、そうだね……迷える子羊をここまで案内してきたんだけど、最後の最後で逃げ出しちゃったみたいなんだ」


「あら……それはそれは……」


おっとりと……柔らかい口調でしゃべるその司祭は、僕のジョークに少し驚いたような表情をして口元を押さえる。


なんとも上品な驚き方だ。


先ほどのティズと比べるともはやティズが女性なのかも怪しくなる。


「……千枚通し」


「ティズはかわいい女の子ばんざい!」


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