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265. サリア百人組手 

【一!二! 一!二!】


ジョフロアに案内された通り、私はピエールの城の庭園を抜け、聖騎士団訓練場と書かれた少しばかり痛んだ建物の中を覗き込む。


統率され、剣を振るう姿には一切の乱れもない、舞踊の様な素振り。


その動き、その一閃一閃はまるで芸術のように美しく、この聖都クークラックスの名に恥じない……気品があった。


「さぞや高潔な騎士なのでしょう……」


私はそう一人思いながらも、聖騎士団訓練場へと入り、聖騎士団長へとあいさつをしようと試みるが……。


「お前が、聖騎士サリアか」


聖騎士団の訓練場に案内された私は、訓練場の敷居をまたぐと同時に一人の大男に行く先をふさがれ……先ほどまでの美しさ……気品の良さは一瞬にして立ち消え、同時に人を嘲笑するかのような品のない笑い声がちらほらと聞こえ始める……。


「そうですが?」


私の名前を知っているということは、既にジョフロアから話は言っているということであり、私はその男の目的をなんとなく読み取りながらも、あえて何も言うことなく大男を見上げてそう問い返す。


大げさでわざとらしい抑揚のつけ方に、つりあがった片眉……先ほどまで剣を振っていた団員たちから、下卑た笑い声が聞こえてくる。


こちらを挑発していることは明白であった。


騙された……。


私は心の中でそう落胆と同時にため息を漏らし、マスターと手加減をするなんて約束をするんじゃなかったと後悔をする。


「……お前みたいなエルフが、どうしてクレイドル様をお守りする聖なる部隊、聖騎士団の訓練場に入って来ているんだ? エルフの仕事は、家畜のえさやりと、絵本を読むことだろう? 剣なんて持ったら腕が折れちまうぞ? 小枝の民さんよ!」


笑えないジョーク。


しかし、心底愉快そうに聖騎士団の団員たちは笑いあい、私は数年ぶりに体験するこのパターンに懐かしさすら感じながらも、ことを荒立てないようにやんわりと言葉を返すことにする。


「腕はすでに折れています、私はあまり役に立たないでしょうが、我がマスターウイルやシオンがともに戦うので戦力の面ではご安心を……今日訓練場に私が来たのは、私たちのパーティーと皆さんとの連携を……」


「あんなひょろそうなガキが使い物になるわけねーだろ!? さらには間抜けそうとも来た……ちびってわんわんと泣き出す前にママの所に帰りなって伝えな!」


「間抜け? すみませんが、もしかしてマスターのことを間抜けといったのですか今?」


歴史上でも類を見ない賢人であり、思慮深く義理堅い……そんなお方を、間抜けと?


「あぁ言ったさ!? それが何だよ! 無能な役立たず!」


喧嘩腰の言葉……このままでは埒があかなそうだ。


仕方なく私は計画続行を不可能と判断し。


「その喧嘩、買ってあげましょう……来なさい聖騎士団……武器なんか捨ててとは言いません……その大口をたたくに値する力を有しているか、私が確かめてあげましょう」


どうやらこちらの話を聞くつもりはないらしいので、私は仕方なく彼らの力を図ることにし、構えをとって挑発をする。


町とは違い随分と荒くれ物の多い聖騎士団だことだ……そう私は心の中で何かが切れる音を響かせながら。


ひとつ息を吐く。


本当であれば聖騎士団長との打ち合わせの後、協力をするという形で今夜の襲撃を迎えたかったが……そんなことは夢のまた夢の様であり。


自分の計画はいつもうまくいかないというジンクスを脳裏によぎらせながら、私は握りこぶしや青筋を浮かべている男たちに向かい、武器を捨て拳を鳴らす。


「作戦変更……力に従え……あぁ、また脳筋といわれてしまう……」


だから、もはや難しい計画など不要であろう。


「生意気な、エルフ如きが! その綺麗な顔のままで帰れるなんて思うんじゃねえぞこらぁ!」


お決まりのセリフ、分かりやすい怒号を飛ばしながら、甲冑を身にまとい剣を振るう男。


なにやら胸の部分に大層な装飾や勲章の様なものがぶら下がっていることから、この男が騎士団長なのだろうが……。


「……とりあえず、戦えるだけの骨は残しておけばいいですよね? シンプソンもいますし」


私はその男の顎を掌ていで打ち抜き、とりあえず訓練場の天井へと叩きつけておく。


「え? あえ?」


騎士団の力量を図ることもできるし、なによりも戦場での指揮が取りやすくなる。


殴って支配……やはりこういう輩には、この手に限る(この手しか知りません)


私はそう心の中で考えながらも、とりあえず剣聖ルーシーより伝授した訓練法、サリア百人組手を実行することにしたのであった。


                       ◇

「とこでウイル、サリアを訓練なんてさせて良かったのかしら? あの子戦闘はドクターストップかかってるでしょうに」


シオンとマキナを連れて僕たちはクークラックスの町を歩いていると、不意にティズが頭の上でそう思い出したかのようにつぶやく。


「あーまぁ……戦闘にもならないから大丈夫なんじゃない?」


「あー……なるほどそういう事ね、納得」


サリアは現在、立て続いた激戦により魂が消耗し奇跡を用いても怪我が治りにくい状態になっている。


そのため僕とシンプソンは、サリアに戦闘禁止命令を出したのではあるが。


ジョフロアとピエールの反応と話を聞いている限り、この国でサリアに傷をつけることができる人間の方がまれであろうという結論を出し、僕はサリアを訓練場へと向かわせた。


「どちらかというと、あの子に吹き飛ばされた団員の生死の方が心配ね」


「なに、サリアは僕のいうことは聞いてくれるから、その点は心配してないよ」


そう、頭の上の妖精にそういい、僕はそっと頭を撫でてあげる。


「ふへへぇ……だけど本当に大丈夫かしら? 嫌よ? サリアがこの国の聖騎士団を乗っ取るなんて」


僕はそんなことはない……と反論しようと試みたが、その様子を容易に想像できてしまったことから代わりに苦笑だけを漏らしてノーコメントとすることにした。


「まぁ、サリアはサリアで何か考えがあっての事だろうし、彼女を信じよう」


「その考えは必ず失敗するのもーサリアちゃんなんだけどねー」


シオンは楽しそうに笑いながらそう語り、僕たちもその言葉にうなずく。


「みんな仲良くて楽しそうだなーウイル! 私、ウイルのところに来れて良かったぞー」


はぐれないようにマキナと手をつなぎながら、僕たちは家族のようにクークラックスの町を歩く。


黒と白のベンチに、歩道が二つ分かれた道。


少し普通とは異なった街並みに僕たちは新鮮さを感じながらも、僕たちは聖都の美しさを感じながらもゆっくりと歩いていく。


「……」


すれ違う人々は、誰もが神に祈りを捧げ、リルガルムからの旅行客は珍しいのか、誰もがすれ違いざまに稀有なものを見る様な目で僕たちを見つめていく。


まぁ確かに、僧侶の着る様な衣をまとった人々の中に、レザープレートやマント、シオンとマキナに至ってはワンピースにへそ出しルックスだ……。


浮いていると言えば浮いているし、目立たないと言えばうそになる。


「しえん~しえんー!」


マキナはそんな中一人楽しそうな歌を歌いながら道を歩いていき。


僕たちも地図に示された襲撃地点に向かって聖都を横切るような形でピエールの城からクークラックスの町の外へと向かっていく。


と。


「あら、見なさいよウイル」


ピエールの城から出て少し歩いた先にあった、エールの城より一回り小さな教会。


見るからに他の建物と違い、作り立ての建物だというのが分かるほど、教会の壁は白く光り輝いており、屋根の上につけられた十字の上の黄金の風見鶏が、太陽の光を反射させながら煌煌と輝いている。


一目で、ピエールが言っていた聖女ジャンヌが司祭を務める教会であるとわかった。


「……あそこに、うわさに名高い聖女様って奴がいらっしゃるみたいね……はぁ、あのシンプソンに爪の垢でも飲ませりゃ、少しはまともになるかもしれないわね……」


ティズはそう冗談めかして言い、それに苦笑を漏らしながら僕たちはその寺院を通り過ぎる……と。


「ね、ねぇウイル君」


不意に道の真ん中でシオンは立ち止まり、僕たちの足を止めさせる。


「?どうしたの、シオン」


振り返り、シオンの表情を見てみると、その表情はとても難しい顔をしており、何か考え事をしているのは一目瞭然であった。


「え、えと……」


何か問題があったのかと、僕はシオンに問いかけると、シオンは顔を真っ赤にさせた後。


「……あ、あのね……ちょ、ちょっとでいいから、知り合いの……所に寄ってもいいかな?」


そう申し訳なさそうにつぶやいたのであった。


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