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260.ピエールの城

聖都クークラックス、城主ピエールの城。


「すごい……」


そんな言葉しか僕は思い浮かばず、陳腐だがその城の廊下を歩きながらそんな感想を漏らす。



ジョフロアさんに案内されて到着した、ピエールの城。


クレイドル教の聖地とされている街の中心というだけあり、いたるところに神々をかたどった彫刻が置いてあり、聖杯や聖槍のレプリカや、リンゴの木がいたるところに室内に飾られ、どこかの物語の一ページを切り取ったかのような美麗な絵画が並び、天井にはクレイドルが魔族を打ち滅ぼしている絵が描かれている。


城というよりも、美術館といったほうが正しいだろう。


「このピエール城には、聖槍・聖杯のレプリカ数百種……および、ユナイ国専属宮廷画家兼ゴリラの、ウッホが描いた絵画が千種保存されております。 この廊下に飾られている絵画は、先ほど話題に上がりました、聖書の二十三章部分の絵画……アカムとレムが最初の子にして双子の、アンリとマユを産み落とすまでの物語が飾られています」


「……気の遠くなるような数ね……」


「まぁ、大部分は倉庫に厳重に保管されていますから、ここにあるのはほんの一部ですがね……」


「そんな大きな倉庫が存在するのですか? 見たところ、そんなものは見受けられないように思われますが」


「ええ、それだけ大きな倉庫を街に建てると景観を損ねますので……この建物の地下を丸ごと倉庫にしているのですよ」


「地下に倉庫ねぇ……どっかの誰かさんと同じで、クレイドル教の人間は地下に何かを作りたがるのかしら?」


「ほぉ? シンプソン様はどのような絵画を地下に保存されているのですか? 気になりますなぁ」


「あっ!? あっはははは!何言ってるんですかジョフロア!? あっははは、内緒に決まってるじゃないですかあはは! いやぁ、ティズさんったら何言ってるんですかねぇ!? 内緒だって約束したのにぃ! こまったひとだなぁあははは!」


シンプソンはティズの発言に冷や汗をだらだらと搔きながら、不自然に取り繕うが、不自然すぎて怪しすぎだ。


「そうでしたか、それは失礼をいたしました」


しかし、ジョフロアは少しだけ目を細めるのみであり、特にそれ以上を言及することなく微笑みをシンプソンに向ける。


素晴らしいまでの大人な対応だ。


「……それにしても、随分と広いですね……ロバート城には何度か入ったことがありますが……ここは同じくらい広いね」


そんなジョフロアに感心をしながらも、この城に抱いた感想を漏らすと。


「このピエール城は、実質この街の議会と聖騎士団の詰め所も兼ねておりますので……このようになってしまうのですよ」


「あれ? きょ……教会はかねていないのですか?」


「いい質問ですねぇ? カルラ様……確かに、ここはクレイドルが初めて人を作った聖なる土地……ピエール一世は始め城と同時に教会も運営をしていました……ですが、戦争終結後は、クレイドル教の信者がうなぎのぼりで増え、聖地巡礼に訪れるものも大幅に増えたのです……これもまた英雄王ロバートのおかげで喜ばしいことなのですが、何分人があふれかえってしまいましてね……政にも大きな支障をきたすことになってしまったので……仕方なく新しくクレイドル教会を作ったのですよ……」


「そうだったのですか? その話は初耳ですねぇ……せこせこピエールが羽ペンを動かしながら片手間で祈りをささげる姿がここの名物でもあったのに……残念ですよ……今は誰が神に祈りを捧げているのです? 教会のノアですか? それともマルタ?」


「いえ、ジャンヌという女性が現在、クレイドル教会の司教を務めております」


「えっ……?」


その名前に、この城に入ってからずっと黙り込んでいたシオンが驚いたような表情を零した。


「ジャンヌゥ? 聞いたことありませんね?」


「ええ、教会から派遣されてきたわけではなくて、一介の修道女だったのですが……類まれなる魔法の力を持っており、街で聖女とあがめられていたのをピエール様が見込みましてね」


「ふぅん……あのピエールが見込むほどなのだから、随分とまぁ人気者なのですねぇ」


シンプソンはもう興味がないといったようにそうつぶやくと、近くにあった聖杯のレプリカを一つ指でなぞる。


「ジャンヌ……良かった」


シオンは小さくそうこぼし、少しだけ口元を緩ませる。


「……」


その意味を僕は理解できなかったが……今は黙るべきだろうと判断し、シオンのつぶやきはあえて流して、ジョフロアの後をついていく。


と。


「さて、お待たせいたしました……こちらがピエール様の執務室でございます……」


階段を上り切った先にある、大きな豪華絢爛な扉……そこには魔族とクレイドル神が戦った魔界戦争をモチーフにした絵が彫り込まれており、ジョフロアはその扉をゆっくりと二度ほどノックをする。


「ピエール様……神父、シンプソン様とその護衛……伝説の騎士フォース様のご一行がご到着なされました」


【どうぞ……お入りください】


透き通ったような声が、扉越しから聞こえ、その声を合図にゆっくりとジョフロアは扉を開ける。


「失礼いたします」


開き切った扉に映ったのは、城の廊下が可愛く思えるほど、あふれかえった聖杯や聖槍……そして、廊下に積み重ねられた聖書に……聖水の小瓶に、退魔の術式。


まるで、その身に降りかかる邪悪全てを、神の力で跳ねのけようとする意志の表れかの如く、その部屋は魔族・魔物に対する備えと、魔族に対する魔法陣が敷き詰められており。


「……ようこそおいでくださりました……シンプソン様……そしてお初にお目にかかります……伝説の騎士のお連れの方がた……私は、この聖都クークラックスを収めております……クレイドル教会司祭……ピエール六世と申します」


さわやかな笑顔をこちらに向ける……齢四十くらいの物腰柔らかな男性が立っていた。


「いやあ、相変わらず胡散臭い顔してますねぇ! ピエール」


不意に嬉しそうな笑顔を零し、シンプソンはピエールに向かってずかずかと歩いていく。


「……お久しぶりでございます、クレイドルに愛されし者……神父、シンプソン様……有事とはいえ、お忙しい中我々の窮地に駆けつけていただき、誠に感謝いたします」


「えぇ、えぇ、お久しぶりですねぇピエール! 本当は来たくはなかったですが、おか……我らクレイドル教の象徴であるクークラックスの都が襲われていると聞いていてもたってもいられませんでしたから! ですが、私が来たからにはもう安心してください! 闇夜に生きる彷徨える魂をすべて、我等が神、クレイドルの力をもって天へと帰してあげましょう!」


「調子のいいこと言ってからに……似非神父」


ティズがシンプソンに対してそう毒づくと、皆が一斉にうなずいた。


                   ◇


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