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259.最初の人 アカムとレム


聖都クークラックス。


王都リルガルムとは異なり、聖なる十字や寺院、祈りを捧げながら歩く僧侶の数が多く、冒険者や多種多様な種族の人間が、縦横無尽勝手気ままに道を行くのとは違い。


皆が皆規則正しく、道を行き交う。


敬虔なる神の信者が多いためか、歩く人々は、必ずどこかに十字を所有しており、建物の様式も、レンガの赤茶けた建物が多いリルガルムと異なり、どこかすっきりとした白と黒のとんがり屋根の建物が多く感じる。


教会の人なのか、一人の女性が、人間の男の子たちと一緒にボール遊びをしている。


子供たちと触れ合いながら、笑顔を見せるその女性の姿は明るく、子供たちも幸せそうであり、僕たちは馬車の中からそんな人々の心も何もかもが美しいこの国に感動を覚えつつも、目的地である、この聖都クークラックスの中央にそびえたつ城、ピエールの城を見つめる。


豪華絢爛とは程遠い質素な城は、聖なる神への敬意を示すためか、壁も屋根も何もかもが白く、太陽の光に充てられて煌煌と輝いており。


そんな城を中心に街の建物は建てられており、円を描くような不思議な街並みを作り上げている。


「変な形の町ね」


サリアの頭の上にのっかり、ティズは街並みを見ながら僕と同じ感想を漏らす。


「……」


「え、えと……この街は、初代城主ピエール一世が作り上げた町で、城を建てた後に作った町なんです、なので、誰もが城に背を向けないように、建物も皆すべてピエールの城を向くように作られています」


「よくご存じですね、カルラ様」


そんなカルラの発言に、ジョフロアはにこやかに笑みを零して言葉を続ける。


「この町、聖都クークラックスは、大神クレイドルが、初めて人を作った土地といわれています。 そしてあの、ピエール様のお城がある場所こそ、初めて人間という種族が大地に足をつけた場所なのです」


「それこそ胡散臭い話ですけれどもねぇ! 現在最有力な説ではありますが、何せ証拠も何もないですからねぇ! なにせ、あの城には世界最古のリンゴの木があるだけですし!」


「リンゴの木?」


「ええ、この地、聖都クークラックスが聖地と呼ばれる所以の一つです。 この地には、間違いなく世界最古……いえ、世界最初のリンゴの木が存在する……」


「どういう事?」


サリアの説明に、僕は首をかしげる。


と。


「胡散臭い話、もはやおとぎ話でしかないような聖書の話なんですがねぇ! かつてクレイドル神は人を最初に二人だけ作ったのですよ」


「すべての父とすべての母……アカムとレム……ですね」


「そうですカルラさん! アカムとレム……神により作られ大地に降り立ったその二人は、ある程度の人間を増やすまでは神の助けを受けて生きていくことになる……まぁ、そんな二人の物語こそ、聖書第二十三部~人類創成~のお話なのですが……まぁそれは置いといて。聖書曰く、最初の地に降り立ち、生物、人としての生を受けたアカムとレム……神に作られたとはいえ、あくまで生物なので、当然のことながら大地に降り立ったと同時に空腹というものを覚えます。 ですが、クレイドル神はそのことをすっかり忘れてしまっていてですね、何もない荒れ地に二人を降り立たせてしまったのです」


「随分とおっちょこちょいな話ね」


「食事という概念が必要ないですからね、仕方ないのでしょうティズ」


「いや、クレイドルおねーちゃんは結構おっちょこちょいだぞ? マキナ知ってる」


「こほん……当然、作られたばかりのアカムとレムは、当然何が食べられるもので何が食べられないものなのかの見分けがつきません。 体は大人の物を用意されていましたが、その実中身は生まれたばかりですからね。 なので、クレイドルはまず最初に二人の教育……しかも食べられるものを教えることから始めたのです」


「……まさかそこか子供を育てられるようにするまで……クレイドルが面倒を見たってこと!?」


「まぁ、そういう事になりますね、というか聖書二十三章はそういうお話ですし」


「……気の長い話だねー」


「あぁでも、シンプソン見てるとなんだか納得だわ」


「何でですかというのは藪蛇の様なので何も言いませんが、とりあえずはそうして、空腹に苦しむアカムとレムの為に、荒れ地にクレイドルはリンゴの木をはやしてあげ、空腹から救ってあげたのです……ゆえに、リンゴとは人間が初めて口にした食べ物として、神への捧げものだったり、地方によっては、美味しいものの形容詞として用いられています! リルガルムでは聞かないでしょうが、レムのリンゴ、アカムのリンゴを略して、美味しい物をレムリン、アッカリーンと言葉にして表現するところもありますね……」


そう自慢げにシンプソンは語り終えると、鼻を鳴らしてふんぞり返る。


僕たちはなんとなくジョフロアさんの方に目をやると、微笑みながらうなずき、説明のすべてが本当であることを告げてくれる。


「……アンタって、本当に神父だったのね」


「どういうことですか!?」


「いや、言動や行動が神父とはかけ離れてるし……そもそも神様とか信じてなさそうだし」


「まぁ、信じてませんよ? 前も言いましたけれども、私、目の前に姿を現さないような人を信じるつもりは毛頭ないので!? 存在は感じてて、スキルとかいろんなものもらってますけど、見えないものは信じません」


「あれだけ命助けてもらってるのに!?」


「私は! お金をくれる人しか信じません!!」


「マスター! この男最低です!」


サリアが驚愕の声を上げて、もはや周知の事実であることを再確認する。


「あんた、何度も命救ってもらって信じないはさすがにないんじゃない?」


「何を言うんですかティズさん! 命なんてね、金さえ払えば僧侶は誰だって救うんですよ! 私だって人々の命を救ってますよ! 信じられますか!?」


「本当だ!? 信じられない!」


「そうなんです! 対価さえ払えばだれだって命を救うんですよ!? クレイドルだってそうです、私の命を対価を奪って救っている! だから信じません! お金をくれる人だけが信じられるのですよ、信じられるものは金だけなのです!」


その気迫、そして自らの行動を微塵も疑うことのないその光り輝く瞳に、僕たちはぐうの音も出ない。


こんな男の為に健気に尽くすクレイドルさんまじ大神。


そんな言葉だけが、僕の頭の中で数度響き渡った。


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