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257.聖都到着 神父のDOGEZA


聖都 入り口。


「あ、見てくださいマスター、見えてきましたよ」


その後、しばらくモハメドのタクシーに揺られること数時間……特に問題も以上も事件も発生せず、本当にアンデッドの襲撃など受けているのかと不思議に思うほどのどかさを満喫していると、ふとサリアがそう僕の肩を叩き、馬車の窓から外を指さす。


「おー……」


最初に感じた感想はひとつ……白いという印象。


リルガルムのレンガ造りのそれとは異なり、雪で作られているのではないかと疑ってしまうほど真っ白な壁が、真っ先に僕の目に飛び込み。


その後、その壁からはみ出るようにそびえたつ巨大な建物たちが目に映る……そのどれにも十字がかけられており、中央にあるひときわ大きな建物のてっぺんに、女神さまなのか天使なのかよくわからないが、巨大な像が立っている。


そして、そのほかの建物は、その像を取り囲むように立てられているのが一目でわかり、僕は、恐らくあの女神こそがクレイドルなのだなと一人理解する。


「……いつみても趣味悪いよー」


シオンは珍しくそんなクレイドルの彫刻に毒を吐く。


まぁ確かに、少しばかり自己主張が激しいようにも思えるが……ブリューゲルアンダーソンと対峙した後となると、まったくもって普通に見えてしまう。


「しっかし、アンデッドの襲撃を受けているっていうから、アンデッドに引き寄せられてやってきた魔物もいるかと思ったが……見事なまでにすっからかんだな」


「そうね、少し退屈よ……ドラゴンの一匹ぐらいは出てもいいかと思ったんだけど」


「物騒なことを言うもんじゃないわよエリシア!? ここには幸運を犬に食わせて筋肉を手に入れた不幸エルフがいるんだから」


「あれ、もしかして私喧嘩売られてます?」


「サリアちゃん、怒ってもいいけど馬車は壊さないようにね? まだ距離あるから―」


「シオンまで!?」


あははと、馬車の中で笑いあいながら、僕たちは聖都・クークラックスへと侵入する。


この時、これから起こる惨劇など……僕たちは知る由もなかったのであった。


                   ◇


「じゃあな、俺はここまでだ……帰るときもごひいきに!」


「うん、ありがとう……またよろしくね」


僕の感謝の言葉に、モハメドクロスは白い歯を見せてにかっと笑い、馬車を率いて聖都の入り口から離れていく。

「随分と濃い人でしたが、なかなかいい人でしたね」


サリアはそう微笑みながら僕と一緒にモハメドのタクシーを見送り。


「そうだね」


僕はそれに頷いて、聖都入口へと視線を戻す。


「いやぁ、本当に趣味の悪いもんですねぇ相変わらず! こんなことにお金をかけるなんてあーもったいないもったいない! ほんっと! これだから聖都はダメなんですよねえ!あっはっは!」


そびえたつ純白の壁。


そして正門は、クレイドル寺院の掲げるトネリコの木でつくられた揺り篭をイメージした紋章が大きく描かれており、そのいたるところに聖なる十字が彫り込まれている。


聖なるものであるため、ありがたいものなのだろうが、確かにシンプソンのいう通り趣味が悪い。


「うぅ」


行きかう人々、そして正門の十字に気圧されたのか、気が付けばシオンが僕の後ろに隠れるようにそっと僕の服の背中を引っ張っている。


「大丈夫?」


「なんとか」


怖いと言っていたシオンだが、その手は少しだけ震えている……そんな怖い場所なのだろうか。


「さて……とりあえず私たちは予約していた宿にむかうんだけど、ウイル君たちはどうするの?」


そんなシオンをよそに、リリムはすでに仕事モードになっているらしく。


ガチャガチャと大きなバックパックを背負い、聖都の地図を広げている。


「僕たちはこのまま聖都を収める城主の所まで行くつもり……シンプソンをその人の所まで届けるのが僕たちの仕事だからね、その後はそうだね……リリムの手伝いをするのもいいかもしれないね」


「ほう、リルガルムの迷宮以外の洞窟探検とは、なかなか面白いかもしれませんね」


「おいおい、伝説の騎士のパーティーについてこられちゃ……俺たち仕事がなくなっちまうよ」


「えっ!? ちょっ、一緒にアンデッド退治してくれるんじゃないんですか!? マスターウイル!」


そんな軽口に、シンプソンは慌てたように僕たちに詰め寄るが、その言葉に僕とサリア、シオンは首をかしげる。


「契約は送り迎えの護衛だったよね? アンデッドの殲滅は君への依頼だろう?」


「うそおおん!? いやいやいや!? 私、マスターウイルがアンデッドから守ってくれるっていうからこの依頼に従ったのに!?」


「それはそっちの勘違いでしょうに……それにサリアはこの腕なのよ? アンデッドなんかと戦わせられるわけないでしょうに、ここにはあくまで、療養の旅行で来たのよ!」


「今そこの彼女迷宮潜る気満々でしたよねぇ!?」


「というかシンプソン、なんで僕たちが必要なのさ……アンデッドは君の専門だろう?」


「いや、確かにね! 確かにアンデッドだけなら問題はないはずですよ? この国の聖騎士と一緒に戦うことになりますからね! ですが、神父学んだんです! こういう時絶対に敵はアンデッドじゃないって!」


「考えすぎじゃないかしら?」


「いいや! 絶対そうなんです! 神父のスキルが、このままだと大量に金貨を失うことになるぞってすごいビンビンに言ってくるんです! まずいんです!」


「だったら余計にいやよ、死ぬならあんた一人で死んでなさいな、私たちは観光を楽しんでから帰るから」


ティズはそう懇願するシンプソンをバッサリとぶった切った。


「あなた達には人の心は!? 慈悲の心はないのですか!?」


「残念ながら、君に身ぐるみをはがされたときに、君への分の慈悲はお金と一緒に落としてきちゃったんだ」


「あはは、完全に自業自得でした! その節は本当にごめんなさい! でも、ここでアンデッドに敗北したら! 町にも被害が出るし! もしかしたらリリムさんにも被害が出るかもしれないんですよ! お願いします! 半日でアンデッド駆逐したらあとはもう全部終わりですから! あとは好きなだけ観光すればいいんですから! お願いします! お願いします! このとーりですから!」


観光客が入り乱れる聖都正門前で、クレイドル教会の中でもそこそこの役職についているはずの神父シンプソンは、恥ずかしげもなく土下座を披露する。


その懇願する瞳は血眼になって必死であり、その鬼気迫る表情と必死さに、旅行客たちの視線が次々に僕たちに突き刺さってくる。


「あ、あの……は、半日だけですし、手伝ってあげてもいいんじゃ」


流石に可哀想になったのか、カルラはおずおずと手伝うことを進言してくる……。


「うーん……シンプソンの場合、これだけお願いしててもどうせオーケーだすとケロッと忘れちゃうからなー……でもそろそろみんなの視線が痛いよねー」


比較的他人の目など気にしないシオンが感じるほど、人々の視線が僕たちに向いているのだろう……僕はなんとなく怖いので後ろを振り向くことができないでいるが、それでもざくざくと突き刺さる視線は痛いほど背中に感じる……。


「はぁ」


これはもう、恥をすてたシンプソンの作戦勝ちであろう。


「しょうがないなもう……その代わり、サリアは戦闘に参加させないからね」


「ああありがとうございますうう! マスターウイル!」


無きながら喜ぶ調子の良い神父。


「はぁ、やっぱりこうなるのね……やれやれだわ」


「な、なんか色々とすごかったが、とりあえず話はまとまったみてーだな……うん、なんだろう、お疲れ様」


そんな光景にリューキは苦笑を漏らしながら僕たちにねぎらいの言葉をかけてくれ、僕たちはため息をつきながらも、こうして神父・シンプソンと共にアンデッドの殲滅作戦に参加することになるのであった。


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