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251. シンプソンは聖都に行きたくない

「いやいやいやいやいやいや!! 絶対イヤーー! 行きたくない行きたくありませんーー! 拒否権! 断固拒否権使いますー!」

駄々をこねる声に釣られて僕たちはサリアを迎えに行くのを後回しにし、ギルドエンキドゥの中へと入ると。


そこには、床の上に寝転がり、子供の様に手足をじたばたさせるシンプソンと。


「おいおい……いや、嫌がられるのは分かってたがよ……まさかここまでの反応を見せるなんて……おい、サリア、何とかしてくれよ」


「私に言われても……私は、報酬金払うから一緒に来てくれと頼まれただけですし」


……ガドックと並んで困ったような表情を浮かべるサリアがおり、他の冒険者たちもそんなシンプソンを憐れむような眼で見つめている。


「えと……これは一体どういう状況かな?」


そんな状況の中で、僕たちはガドックとサリアに声をかける。


「あぁ! マスター! おかえりなさい」


「やあ、ただいま……さり……」


「マスターういいぃいいぃぃる!」


「おわあぁ!?」


「きんきゅーかいひ! カルラお姉ちゃんにとう!」


「えっあっ! きゃ、キャッチです!」


サリアに挨拶をする間もなく、シンプソンは泣きながら僕にとびかかり、マキナは危機を察知したのか、カルラの胸へと僕の肩を踏み台にジャンプをする。


結果、マキナに蹴られる衝撃と、シンプソンのタックルをもろに受け、僕は床に後頭部を強打して倒れる。


「ごっふぶ!?」


「う、ウイル君―!?」


「マスタああああー!!」


リビングウイルが発動し、僕の怪我は急速に治っていくが。


それでもしみついた痛みが消えることはなく、僕はシンプソンに羽交い絞めにされて、痛む場所を押さえることもできずに悶絶をする。


「おおおぉおおお……し、シンプソン……あんた、一体何するんだよ!?」


「聞いてください、聞いてくださいよマスターウイル! 助けてくださいいい! ガドックの奴が! ガドックの奴が私を、私を拷問にかけようとするのです! これは神への冒涜です、許されざる行為ですううぅ」


「君の日頃の行いを見てるとそれもしょうがない気もするんだけど」


「慈悲がない!?」


怯んだガドックを僕は押しのけて立ち上がり、ため息を一つ付いて事情の説明を受けることにする。


「それで、どうしてシンプソンを拷問なんかにかけることになったのさ、ガドック」


「拷問たぁ人聞きが悪すぎるぜウイル……俺は、ただ聖都からの依頼をシンプソンに伝えただけなんだぜ?」


「聖都……」


一瞬、シオンがその単語に反応を示す……。


「聖都?」


「マスターは北の国出身なので知らなくても無理はないのですが、聖都とは、王都リルガルムの隣国であるユナイ正教国にある聖都クークラックスのことです。クレイドル教の総本山とでも言っておきましょうか……クレイドル教の本部とは異なるのですが、熱心なクレイドル教が集まる、命の都といわれています……」


「命の都……なんで?」


「そ、それは、聖都クークラックスは、人間を生み出した神、クレイドルが人間を生み出した場所といわれているんです……だから」


なるほど……。


「でも、そんなクレイドル教の総本山みたいな場所なのに……どうしてシンプソンはこんなに嫌がってるの?」


普通クレイドル教信者の集う場所だったら、まがりなりにもクレイドル教の司祭をやっているシンプソンにとっても聖なる土地であるはずなのに……


「だって! あそこの人間はみんな気持ち悪いんですもん!? 司祭も司教も人間ならだれでも彼でもただで傷を治すんですよ!? あの町では、人間は絶対に寿命以外では死なないんです! 司教司祭があの手この手を駆使して【無償】で人々を死から救い出すんですから!?ひいいいいぃ恐ろしいいい!? そんな恐ろしい人間のところに行って、私まで無償で蘇生とかさせられるかと考えたら!? あああぁ恐ろしい! だいたいあそこの大司教の奴も気に食わないんですよ! 考え方が全く違うし……話も合わないし料理の趣味も合わない、ああ、挙げ連ねれば行きたくない理由なんて迷宮の悪食ネズミよりもわらわらと出てきますよ!」


「決定ね、アンタその街で一か月心を清めてきなさい……」


ティズはそういってシンプソンの頭にチョップをかます。


「いやに決まってるじゃないですか! というかあなた達! 自分でいうのもなんですけれどもお金に執着がなくなった私なんて見たいんですか!?」


僕たちは一度想像し。


「想像を絶する気持ち悪さね」


「……見た瞬間に切りかかります。 恐らくそれはドッペルゲンガーか、ミラーゴーストです」


「燃やすよー」


満場一致で皆その言葉を肯定する。


「アンタら、シンプソンには容赦がないんだな」


「身ぐるみはがされてるからね」


ティズはそう口先をとがらせて、そう冷たく言い放ち、僕は本題に戻るとする。


「それで、依頼内容って何なんですか?」


「あぁ、それなんだがなぁ。 最近聖王都にリッチーが住み着いたらしくてな」


「リッチーが?」


「あぁ、聖王都の聖騎士が対応をして町は無事なんだが……どうにも数が多いらしくてな、その駆除というか浄化を……シンプソンに依頼したいそうなんだ」


「いやいやいや! 絶対嫌ですよ!? 聖王都の聖騎士集団が対応できないほどの数のアンデッドっていったい何ですか? あそこの町ただでさえ司教や司祭や聖騎士が集まってるような町なんですよ!? それが束になっても数が足りないって! バカなんですか?!?」


「そういわれてもなぁ、アンドリュー軍の戦いでのお前さんはすごかったらしいじゃねえか……」


「あれは死なないために取った行動ですからね!? なんで好き好んで自分から死地に飛び込まなきゃならないってんですか!」


「そういわれてもなぁ」


「いやったら絶対に嫌ですからね! 命の保証がありません! っていうか、私は基本的に無力な人間なんですからね!? 道中に魔物だっていますし! ヴェリウス高原近くでウオーターリッカーに襲われたらそれだけで死んじゃうんですから」


「生命保険あるから死なないじゃないのさ」


「お金が減るでしょうが!!」


「だめだこりゃ」


僕はシンプソンの激白に肩をすくめ。


「相変わらずだな、シンプソンは」


マキナでさえもその光景を呆れたような表情で見つめている。


「……う―――ん、困ったなぁ……これ、正直国家間の正式な応援要請なんだよなこれ……書状も国交大臣直々の依頼だし」


ガドックはこまったように、頭を掻く。


「国なんて知ったこっちゃねーですよ! 私は身の安全と金貨の方が重要です! 確かに……確かに報酬はその……すごい魅力的ですけど……大っ嫌いな聖都に行ってもいいかなぁと思えるくらいの報酬ですけれども!……でも危険だし」


ぎゃーぎゃーと騒ぎたてるシンプソン。


ガドックはその発言を聞きながら目を閉じて深く考える様な表情を取った後……。


ちらりと僕を見て……。


「じゃあ、危険がなくなればいいんだな?」


ガドックはそう呆れたようなため息を漏らしてそう呟く。


「あ、いやな予感がするわ」


ティズがいつも通り第六感を働かせてそう呟き。


それと同時に。


「だったら、伝説の騎士をつけてやる……それで問題ないだろう」


ガドックはとんでもない所で、ギルド専属契約というジョーカーを発動したのであった。


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