250.家族が増えるよ! デウスエクスマキナと幸せ家族計画
「ストーカー? あんた友達はいないくせにストーカー被害になんてあってんの?」
「まぁねー……かれこれ200年以上付きまとわれているよー。 まぁ、理由あってリルガルムにはあいつは近づけないから、ここに逃げ込んできたんだけどねー」
「……どういう事?」
「んー、確か、ブラド・D・アルカードは昔部族戦争の時に、ロバートと戦って、リルガルムを永久追放されたんだったっけ、あいつはなんでもかんでも自分の仲間にしようとするからなー、みんな仲良しが信条なロバートとは仲が悪かったんだよー……」
「はんっ! ざまーみろだよー!」
「し、シオンさんがなんだか黒いです!」
「よっぽど付きまとわれてるのね……物好きもいたものよ」
「盾食う虫もライクライク!! マキナ知ってる!」
「よしよし、盾じゃなくて蓼ね」
「そっかー!」
頭を撫でられてはにかみながら、マキナは僕の隣でにこにこと微笑む。
可愛い。
「あーーー! なんだかあいつの名前聞いたらむかむかしてきたよー! ちまちまと罠ばっかり相手にして大爆発も起こせなかったし! むううう、フラストレーション!」
反面、シオンはよほどそのブラド・D・アルカードという人物が嫌いなのだろう。
頬を膨らませながらシャドウボクシングをする。
「おっ! 花火か! マキナ花火好きだ! でも、私ここから出られないからしばらく花火見てないな……お星さまもお月様もそういえば全然見てない……」
「……マキナは、ここから出られないの?」
少し寂しそうに人差し指を唇に当ててしょげたような表情をするマキナに、僕はそう問いかけると。
「別に……ただ、メイズイーターが来るまでマキナはここで待たないといけないから。 離れられないの……メイズイーターが試練を終えるまで……マキナはここを守るの、いつメイズイーターが来てもいいように……だから一人ぼっち」
「……ん?」
「え、じゃ、じゃあもう、ウイル君がメイズイーターの試練を終えたんだから……マキナちゃんもお外に出てもいいんじゃないですか?」
「ほえ?」
マキナは目を丸くし。
「あそっか……」
なんて呆けた表情でそういう。
「そうだね、僕が死ぬまでは、メイズイーターは生まれない……だったら、僕が死ぬまでは外の世界に出てもいいんじゃない?」
一瞬の間……。
そして、マキナはポンと一つ手をうつ。
「あー……考えたこともなかった……確かにウイルのいう通りだ! あーでも……マキナ子供だし……お金ないから住む場所もない……」
「何なら家に来るかい? といってもまだ家は建てていないんだけどね……でも、だからこそマキナのお部屋も用意してあげることができる」
「おー! そうだよマキナちゃん! こんな暗くてじめじめした迷宮になんてずっといたら、マキナちゃんの健やかなる成長が妨げられちゃうよー!」
「そうね、ヴェリウス高原なんかで暮らしていたあなたがいい例だものね……胸とか」
ティズはそう言い、自分の事など彼方に棚上げをしてシオンの胸をつつく。
僕だけが知っている……シオンは着やせするタイプであり……サリアほどではないが、結構大きいということを。
「私はまだ成長途中なのーー!! いつかリリムっちみたいな爆裂ボディーになるんだから!」
「み、皆さん! マキナちゃんの前ではしたないこと禁止です! めっ!」
おぉう……あのカルラがみんなを叱っている……やはり妹ができるとお姉ちゃんは成長するというが……これはカルラにとってもマキナの存在はいい方向に向かうかもしれない。
「……マキナが良ければだけど……」
「マキナは、ウイルもみんなも大好きだから! 一緒にいたいぞ!」
その言葉はとてもうれしそうに、マキナは飛び跳ねながら僕に抱き着く。
「ティズもいいよね?」
「まぁ、ウイルにロリコン属性がないのは、さっきから胸の話を聞いて鼻の下を伸ばしていることから明らかだし」
「えっ!?」
僕は慌てて口元を押さえるが。
「嘘よ、いやらしい」
はめられた…………おのれティズ。
「ウイル君はおっぱい大好きだからねぇ」
シオンまで……。
「う、ウイル君……そ、その、わ、私ので良ければ」
「なんだなんだ? ウイルは子供だなぁー!」
「うぅ!?」
みんなにからかわれながらも僕はその言葉を否定することはない。
なぜなら、おっぱい大好きだから。
「うっふふー! しかたないなー! マキナはお姉さんだから、まだまだお子様なウイルの面倒を見てあげるぞ!」
そう言いながら、マキナは僕の上によじ登り、自然と肩車をする形になる。
「おー! 初めてした肩車! すごいすごーい!」
「あはは……なんだか兄弟っていうよりは親子みたいだよー……」
シオンはそんなほほえましい光景にフラストレーションも吹き飛んだのか、そう笑いながらそういい、僕の手を取る。
「シオン?」
「それじゃあ私がおかーさんだよー! マキナちゃーん!」
「おおー! シオンおかーさん!」
「ちょっと! それじゃウイルがあんたの旦那さんになるってことじゃないの!ふざけんじゃなわいよ!」
「あははー、それもいいかもねー!ウイル君のご飯美味しいし―!」
にこにこと笑い、僕の腕を引っ張るシオン、それに負けじとティズはシオンの頭の上でぽかぽかとシオンの頭を叩く。
「えと……ウイル君、私は側室でも、第二妃でも構わないので……ね?」
そっと背中に手を添え、ほほを摺り寄せてくるカルラ。
なんだかよくわからない状況ではあるが、とりあえずみんなから好意を寄せられていることは嬉しいことだ……カルラは少し、行き過ぎているような気もするので少し後でお話が必要だろうが……まぁそれでも、こうやってほのぼのとみんな仲良くバカ騒ぎしながら毎日を過ごせている僕はきっととても幸運なのだろう。
僕はそれを噛みしめて、マキナを肩車したまま、メイズイーターレベル4にて、テレポーターを起動する。
「さて、これでパパッと帰ろうか……」
「おー! 早速使いこなしてるな! メイズイーター!」
「すごーい! 私もまだ覚えてないのにー!?」
「間違っていしのなかにとばさないでよね!」
「はいはい」
「お酒がのみたいよー! 今日はマキナちゃんの歓迎会だもんね!」
「歓迎会!! マキナ歓迎されるのか! じゃあ、マキナは何すればいいの!?」
「元気に飲んで食べて踊りなさい」
「踊りは得意だ! 福がキタヨキタヨ踊りがいい? それとも不思議な踊り? あ、でもどっちもMPへるけど」
「よしよし……それじゃあ、寂しがっているだろうし、サリアを迎えに行ったら歓迎会を開こうか……」
そう冗談を飛ばしあいながら、僕たちはテレポーターに乗ってエンキドゥの酒場へと向かう。
何度もマッピラ爺さんにお世話になっているため、慣れた浮遊感を感じながらも、僕たちは迷宮から外にでる。
一瞬の浮遊感と眩暈……それから目が覚めるとそこには赤々と輝く太陽があり、同時にほぼ毎日のように通い詰めているエンキドゥの酒場の前に降り立つ。
時刻は夕暮れ、空は赤く染まり迷宮帰りの冒険者たちが笑いあいながらエンキドゥの酒場に入っていくのが見え、僕たちと同じように、高級装備をそろえた冒険者たちが、テレポーターで酒場の前に帰ってくるのが見受けられる。
「もうすっかり遅くなっちゃったねー……んーつかれたー!」
大きく伸びをするシオン……。
迷宮三階層攻略という大仕事を終えた僕たちは、のんびりとマキナを肩車しながらサリアの待つクレイドル寺院へと向かおうと、歩を進めようとすると。
「断固! お断りしますうううぅ! ええ、絶対に嫌です!! やだやだやだ!ぜええったい嫌だあああ!」
「……シンプソン?」
エンキドゥの酒場より、もはや何度も聞いたシンプソンの泣きじゃくり駄々をこねる声が響き渡った……。
◇




