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247.迷宮第三階層、試練の攻略


次の日……。


「え、えと、ティズちん」


「…………」


返事がなく、ティズはひたすら顔を両手で覆ったまま僕の肩の上で人形のようにピクリとも動かない。


「あ、あの、酔っぱらっていたから、仕方がないかと」


「……」


昨日、エルキドゥの酒場にて、サリアとの口論の末にストリップショーを初めたお馬鹿な妖精は、次の日二日酔いと共に自分の行動に恥ずかしくなってこうして放心状態になってしまっている。


完全なる自業自得であり、弁明の余地は一切合切ないのであるが、ここまでくると少しばかり気の毒だ。


というか、この妖精に未だ人並みの羞恥心が残っていたことの方が僕にとっては驚きである。


「ティズ、これに懲りたら」


「すみません蒸し返さないでください反省してます」


僕が言い終わる前に、ティズは顔を両手で覆ったまま僕の肩の上で僕の言葉を遮る。


「三階層の攻略から始めることにして正解だったね~」


「まったくだね」


そんな様子のティズに、シオンはそう一つ呆れたように語り、僕もそれに同意をして迷宮三階層、デウスエクスマキナレプリカが待つメイズイーターの試練の間へと向かう。


現在のパーティーは、シオン・カルラ・僕・ティズの四名だけであり、サリアは傷の療養のためクレイドル寺院でお留守番をしている。


曰く、傷の負いすぎであるのと、王都襲撃からのダメージと回復の蓄積のせいで、魂が相当疲弊し摩耗している状態らしく、シンプソンとしては外出さえも許可できないレベルで傷の治りが悪いらしい。


シンプソンの見立てでは、全治まで残り二週間。


なので、僕たちは新しく前衛として迎え入れたパーティー、カルラの力を見るのもかねて、迷宮二階層、三階層でやり残したことを解決する為にここに至ったわけであり、順当に言えば、呪われており、獣王の怒りを買ってしまうサリアがいない今、ティズと共に獣王との和解を成立させ、獣王の縄張りのマッピングを進めるのが今日の予定だったのだが。


「…………」


現在置物になっているティズの現状より、その予定を急きょ変更。


迷宮三階層の攻略を優先させることに決めたのであった。


「マキナちゃんも待たせてることだし~、それに、どっちからやっても変わんないって~」


「ふん……それはそちらの都合であろう、創造主よ……せっかく我がまっさぁじを受けて現世での疲れを癒していたというのに……」


まぁ、その弊害というかなんというか、急きょ迷宮三階層に挑むことになった僕たちは、迷宮教会に預けておいた新たな神、ナーガラージャの回収が必要になったため、僕が必死こいて迷宮教会の後始末をしている最中、迷宮教会の新たな神としてあがめられ、豪遊の限りを尽くしていたナーガラージャを無理やり連れてきたわけであるが。


こちらもこちらで、何の前触れもなく連れ出されたせいか、少しばかりご機嫌斜めに悪態をつく。


僕としては、あんな呪いの塊でできた生物を新たな信仰対象として国に認めさせるのに、山の様な書類を作成したのだが……そんなことをはつゆ知らずといったようだ。


くそ……蛇だから可哀そうだと情けをかけたのが間違いだった……これからは一切甘やかすのはやめよう……この蛇はつけあがるタイプだ。


僕はそう、ナーガラージャという存在との接し方を改めることを決意し始めたころ。


「あ、ついたみたいだね」


薄暗いくだりかいだんが終わり、同時に少し明るい場所が見えてくる。


依然、カルラとシンプソンと共に訪れた時と全く同じ。


迷宮三階層。


今回はシンプソンはおらず、かつて妖精女王ティターニアが行ったような、総当たり作戦は使えない。


しかしその代わりに、前回呪われた状態のカルラが行ったように、無限に生成される機械人形オートマタを利用した人海戦術により、罠をすべてつぶすという方法で試練をクリアすることにする。


とりあえずは、医務室までの安全なルートは確保してあるため、そこを拠点として迷宮のマッピングを行うことになるだろう。


そんな作戦を考えながら、僕は迷宮三階層に降り立つと……。


「おーっす! これまた随分と待たされたぞメイズイーター! そうです! 私がマキナちゃんです! 忘れてないかー? 忘れられてると悲しいぞー!」


「だ、大丈夫……ですよ、忘れてませんよマキナちゃん!」


「おー! カルラはいい人だ! マキナはうれしいぞー! メイズイーター! いいお嫁さん手に入れたな!」


「おお!? お嫁さん!? ちちち、違うんですよマキナさん! わた、私とウイル君はそんな関係ではなくてですね」


「なんだ、違うのか……マキナ、勘違いした……失敗失敗」


「相変わらずマイペースだねーマキナちゃんは、あ、飴ちゃん食べる~?」


「それを君が言うのかい? シオン」


僕は笑うシオンに苦笑を漏らしてそう言い、嬉しそうに飴を口にほおばるマキナに向き直る。


「顔つきが変わったなメイズイーター……これなら心配はいらなそうだ!」


にこりと笑うマキナの表情は、どこか安堵をしているようにも見える。


そんな不思議な表情を浮かべるマキナに対し、僕は一度頬を叩き、気合を入れて試練に臨む。


やることは前回とは変わらず、攻略法は万全に整えた……。


「じゃあ、お願いするよ……マキナ!」


「おうさ! それじゃあ! デウスエクスマキナレプリカの名のもとに!  ここにメイズイーターの試練開始を宣言する!! 第一試練!デウスエクスマキナ、起動!」


一度見た光景。


けたたましい轟音と共に、機械仕掛けの迷宮はさび付いた歯車が回るような、不協和音を奏でながら、警報音と共にその姿を変えていく。


迷宮の構造が変容し、罠が再配置され、そして迷宮に眠っていた機械人形が延々と精製され、生あるもの全てに襲い掛かる。


たった一人、メイズイーターという存在のためだけに作られ、そして突破しなければならないとされる……誕生理由も試練の意味も不明なこの試練。


メイズイーター第一試練……。


他にも試練が待っているのかと思うとぞっとしないが……。


この試練が宿命ならば、受け入れるしかないのだろう。


僕はそう、余計な考えを捨て、打ち合わせ通りナーガラージャを体に取り込み、迫りくる機械人形たちを見据える。


「準備はいいかい、ナーガ」


「誰に口をきいておるのだ小僧……機械であろうと何であろうと、この我が虜にしてくれる」


「たのもしー! さすがは天才魔術師シオンちゃんの作り上げたパーフェクツな生物だねー」


「んはは! よいぞ! もっとほめろ!」


「やれやれ、親子そろってノー天気なんだから……ウイル、さっさと終わらせて飲みに行くわよ……」


「はいはい……でもあんまり気を抜いて痛い目見ないようにね、ティズ」


「だ、大丈夫ですよ、ウイル君、わ、私が貴方をサポートします……指の一本足りとも……貴方には触れさせません……」


「……頼もしいねカルラ……ありがとう、でも、無理だけはしちゃだめだからね?」


「はい!」


元気な返事に、僕はカルラの頭を一度撫で、ホークウインドを引き抜く。


少し遠くから聞こえる、金属の音。


今まさに、機械人形たちが僕たちのもとに向かい、その命を狩り取ろうとしている。


【GIIIIIIIIIIIIIIII!】


「ちゃんと攻略法は覚えてる? ウイル」


「もちろんさ……」


ティズの少し心配そうな声に僕は力強くうなずき、ナーガラージャの精神操作を構え。


「そんじゃ、いっちょやりますか!」


ナーガラージャの呪いを放つと同時に、僕たちは迷宮三階層、メイズイーターの試練を開始するのであった。


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