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24.サリアへのナンパと落ちこぼれの過去

「ありがとうございましたー」


店員であるハーフリングは両手を振って僕達を見送ってくれる。


結局本当にサリアはユカタを着たまま店を出て―着ていた洋服はホビットがくれた買い物袋に入れ―繁栄者の道を二人で歩く。


ざわり。


繁栄者の道に出た瞬間、町がどよめく。


当然だ、超絶美女のエルフが、異国の服を身にまとって店から出てくるのだ。


誰もがその姿を一度はいぶかしく思い、そしてその次にこの美しさに思考も視線も奪われる。


当然どよめきの主は男だけではなく、女性の声もいりまじり道行く人全ての視線を独占する。


気が付けば僕達は町中の視線を集めながら、町を歩くことになっており。


当然サリアに不釣合いな冴えない男への疑問と快くない視線もサリアと同じように集まり、僕は少しばかり肩身の狭い思いをする。


サリアはまったく気にしないといった様子で僕との他愛のない会話を楽しんでいるが、僕は周りの視線が気になってしまっていて気が気ではない。


「それでですね、壁に埋まった亡霊が……」


「へー」


サリアは楽しそうに僕に色々な話をしてくれていたような気がするが、周りの視線が気になって申し訳ないがまったく頭に入ってこない。


いや、視線というよりも、明らかにすれ違う男性達から殺意の篭った波動を感じるのだがこれは気のせいではないはずだ……。


というよりも明らかに何人かの男が僕をさっきから追跡している……。


「あ、マスター。 いけない髪にごみが……」


「ちょっサリア!」


そんな状況を知ってかしらずか、サリアはそっと僕に顔を近づけて頭に付いた埃を取ってくれる。


すごい嬉しい、すごい嬉しいんだけど今は完全に見せ付けているようにしか見えないし、はだけた胸が僕の眼前にドストライクだし。


「ちっ……殺す」


「ひぃ!」


今のが引き金になったのか、三度目の舌打ちと殺害予告が聞こえたと同時に、僕は長年ティズと共に生活することで培ってきた勘がこれ以上は危険と判断し、回避行動を開始する。


一度この人たちをまかないと、襲われかねない。


「……ねえサリア」


男達が僕を狙っていると気付けばサリアも黙っていないだろう。 下手をすればせっかく購入した新しい服が鮮血のシャワーを浴びることになってしまうかもしれない……それだけは何とかして回避しなければならない……つまり、穏便にサリアと男達を遠ざける方法は……。


「なんでしょうかマスター?」


サリアをナンパすることだ。


嫉妬に狂った男達から逃げるにはそれしかない……。


生活用品を購入するだけならば、夕方になってからでも遅くはない。


夕方になれば、この道を通る人たちの数も減るし、何よりみんな夕方おなじみの食品類のバーゲンセールに群がるおばちゃん達があちこちで騒ぎ始めるため、僕とサリアも目立たなくなる。


その時間まで安全な場所に避難する……これを達成しなければ、血は免れない。


頑張れウイル、できるぞウイル!


僕は首をかしげるサリアに対し、全身全霊全語彙を持ってサリアをお茶に誘う。


「これは深い意味もない僕からのお誘いなんだけど、あのお店でお茶をしないかい? なんで急にこんなことを言い出すのかというと理由はいくつかあるんだけど、あそこの紅茶がとても美味しくて是非君に飲んでみてもらいたいというのが一つで、僕自身が買い物に迷宮にと歩き疲れちゃったというのもある……考えればいくらでも理由は出てくるんだけど、その中でも一番大きな理由は結構単純で、歩きながらじゃなくて、ゆっくり君とお話をしたいんだ。 だめかな?」


そしてこれを断られると僕は全力ダッシュでこの道から逃走を図らなければならなくなるからだ。


マジで刺される五秒前。


「くすっ……素敵なお誘い文句ですね、ウイル」


あぁ、名前で呼ばれたのはすごい嬉しいけど……嬉しいんだけど早くここから逃げ出したい。 返答はよ! 


「そんな風に誘われてしまったら、断るわけには行きませんね……喜んで」


そういうとサリアはまた頬を赤く染めてはにかみ、僕もまたそんなサリアの表情に自分でも分かるほど顔を赤くして、入ったことも名前を聞いたことすらも無い喫茶店に入店するのであった。


あぁ、とりあえず危険を回避できたことに安心はしたけど神様、願わくばここが紅茶の美味しいお店でありますように。


                     ◇

「流石はマスター……とても美味しいです」


神は生きていたようだ。


僕は適当に決めて適当に頼んだダージリンだかなんだか良く分からない紅茶をサリアと共に頼み、最悪味覚音痴の不名誉を甘んじて受けることを覚悟していたが、サリアは現在ご満悦な表情のまま、紅茶を飲み、笑顔を見せてくれる。


幸運が人間の限界値を超えていて本当によかった。


「口にあって良かったよ」


内心冷や冷やであったが、僕は出来るだけ平常心のままサリアにそう語り、紅茶を口に含む。


確かに美味しい。


「良くこんな素晴らしいお店を知っていましたね?」


ぎくり。


「ま、前にティズと買い物に来たときにね、たまたま来たことがあったんだ」


「そうですか……ええ、本当に美味しい」


サリアはそういうと、紅茶のカップを置き、一つ息をついた。


その仕草は、物語の一ページを切り取ったかのように神秘的で、僕はお話がしたいと誘っておきながら言葉を失ってしまう。


「……さて、お茶の感想ばかりでは仕方がないので、当初の目的どおりお話をしましょうか……多分まだ私達はお互いのことを何も知らない。 パーティー間の親密度は生存率に大きく関わります。 なので、できる範囲でマスターの質問にお答えしましょう」


サリアはそういうと、どんとこいとでも言わんばかりに胸をはり、その胸に手を添える。


「そ、そうかな……じゃあ質問なんだけど」


「何でもどうぞ」


「サリアはどうして冒険者になろうとしたの?」


「……冒険者になろうとしたわけ……ですか? そうですね、一言で言えば、落ちこぼれだと言われたからです」


「え?」


一瞬、サリアからは到底想像が出来ないような言葉が飛び込んでくる。


落ちこぼれ? 誰が?


「ご存知だとは思いますが、エルフというのは知力に優れ、精霊の言葉を聞ける魔法に長けた種族……というのが一般的です。 私はエルフの集落で生まれたのですが、周りの仲間の中で一人だけ、生まれつき魔法を使うことが出来なかった。 生物なら誰もが持っているはずの、魔力を私は持っていなかったのです」


「え?でも今は」


「今も使用は出来ません……私が使う神聖魔法は聖騎士のスキルのようなもので回数制限はありますが魔力を必要としません。

それに通常、魔法は職業を変えたとしても次の職業に引き継がれますがこの神聖魔法は引き継がれることもありません……なのでこの魔法は仮初めのもので、私の力ではない」


「……サリア」


「私はきっと、村のみんなを見返したかったんです……そして、仮初めでもいいから魔法が使えるようになりたかった……。 強くなって、強くなって……最強の魔法使いを倒せるようになりたかった……だから迷宮に挑戦をし続け、魔法を求め、そして手に入れた」


その努力は計り知れない……。 エルフは魔法に優れた種族である分、筋力や武術には不得手な種族とされている。 そんな彼女が戦士として、そしてマスタークラスまで上り詰めるまでには、恐らく血がにじむ程度ではすまない苦悩と努力があったのだろう。


しかし、そんな苦労をサリアは今、懐かしい思い出とでも言わんばかりに微笑みながら話す。


「今は大丈夫なの?」


「ええ。 当時の私は、ナイトオブラウンドテーブルのおかげで確かにアンドリューをも越える魔法を使用することが出来るようになりました。 だがその反面、私はその力におぼれてしまった……自らも同じであったはずなのに、他人を見下すようになっていたのです……。 落ちこぼれと言われるつらさや、それを努力で乗り越えられるという現実も忘れて……己を特別だと思うようになってしまっていた」


「誰だってそうだと思うよ? そんな中でもサリアは、僕に優しく接してくれたし」


「いいえ……マスター、貴方は違ったのです」


「僕?」


「ええ。 伝説の剣に最高の鎧を身に纏い、名声も遊んで暮らせるだけのお金も、そして誰も持つことの無い特殊なスキルを手に入れた……私はそこでおぼれてしまったが、貴方は違う。 全てを投げ打って私を助け……それを当然のことだと微笑んだ……その魂の高潔さ、そして強さに私は自分を重ねて、貴方に憧れたのです」


サリアはそういうと、僕の瞳を見つめてくる。


たったそれだけだというのに、僕の心臓の鼓動は早くなり、次の言葉が詰まってしまう。


「私ならば、魔法を手放すことなんて出来なかったでしょう……そして、仮にそれがメイズイーターだったとしても、貴方は失うことを躊躇わなかったはずだ……それが分かったからこそ、あなた方を見下したという後悔の念よりも、あの時はひたすらに、私は貴方に憧れたのです」


「そ、そうなの?」


なんだか照れくさい。


僕はほてった頬を冷やすために手うちわで自らを扇ぐ。


サリアも少し興奮気味だったのに気が付いたのか、我に帰ったように顔を赤くして声のトーンを落とす。


「あ、す、すみませんマスター……つい我を忘れて」


「ううん、大丈夫だよ。 しかし驚いたなぁ、僕はてっきりサリアは神様から天命を受けてアンドリューを倒す戦いをしていたり、生まれたときから天才と呼ばれていたりするものだと思ってたから」


「そんなことはありませんよ……貴方が思うほど私は高潔な人間ではありません。 コンプレックスの塊で、それでいて他人を見下すことで己を保ってきた……そんな女です。 幻滅しましたか?」


サリアは少し不安げな表情で僕のほうを見るが、僕は首を横に振る。


「幻滅したりなんかしないよ……むしろ前よりも身近に感じられる。 何もかも神様から貰った力で何も苦労せずに勇者になった人間よりも、僕は君みたいに悩んだりコンプレックスを抱えながらも頑張ってマスタークラスになった女の子の方が……かっこいいと思うし、好きだな」


「!?」


一瞬、サリアは目を見開いて胸の辺りを押さえる。


「どうしたの?」


「い、いえ……その」


「何か、変なことを言ったかな」


「いや、決して……その、あの……マスターにそういっていただけて、とても嬉しいです」


「随分と複雑そうな顔をしてるけど……なにか気に障ること言ったかな?」


「まさか!? そのようなことは、これはただ、その、急に……胸が苦しくなって」


「ええっ!? 大丈夫? もしかして迷宮で何か……」


「いえ、そうではないのですが、その……なぜかマスターを見ていると……」


「どういうこと!?」


「わ、分かりません……ですが、苦しいのですが……なぜでしょう、悪い気持ちはしないのです」


「?」


何を言っているのかまったく分からない、苦しいのが気持ちいいってことなのか?


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