40000PT突破記念 成仏
その後は悲惨な光景が繰り広げられた……とだけ言っておこう。
響き渡る絶叫と共に、みるみると溶けていくアイホート。
まるで内側から破壊されていくかのような……いや、存在そのものが否定されるかのように、悲鳴と絶叫と共に、助けを求めるアイホートをあざ笑うかのように、内側からあふれ出た泥がアイホートを飲み込み……そして深く深く落としていった。
その光景は見ているだけで眩暈を覚えさせ、リリムとカルラは貧血か、あまりのおぞましさに僕の肩にもたれかかっている。
そんな地獄絵図が続くこと数分……。
気が付けばチョコレートモンスターたちも、アイホートと同じ苦しみを味わうかのように、悲鳴と絶叫にも似た声を上げながら消滅をしていき……その中から、チョコレートモンスターに取り込まれた町の人々が姿を現す。
チョコレートまみれになってはいるが、それでも外傷はなく……みんな無事のようだ。
「……ふぅ」
そんななか、サリアとシオンとティズはその名状し難き光景を眉一つ動かさずに見守った後、大きな息をつき。
「悔いなく、成仏したようね」
「ええ、そのようです」
「よかったよかった……」
「成仏!? 明らかに助けてとか許してくれとかいう声が響いてたけど!?」
「いやねウイル……それは今までの行いを悔いたからこその言葉よ……チョコレートを貰えなかった哀れな怪物は、チョコレートによって浄化された……ええ、一件落着って奴じゃない!」
「っていうか、あれ、チョコレートだったの? サリアさん達……鑑定で、超S級危険物って出てたけど……」
リリムは鼻を引くつかせてそう顔を青ざめさせる。
というかあれ……僕に食べさせるつもりだったのか……。
ありがとうアイホート……君のおかげで命拾いしたようだ。
その衝撃の事実に、僕はアイホートの存在に心の中で感謝の言葉を述べる。
「マスターはご無事ですか?」
そんな中、サリアは僕のもとに駆け寄り、心配そうな表情で僕にそう問いかける。
「うん……腕は一回吹き飛ばされたけど……まぁ、リビングウイルがあるから無傷だよ……」
「よかった……今回の敵は間違いなく強敵でしたので……本当に無事でよかった」
「……確かに、なんか発言のせいであんまり緊張感を持てなかったけど……」
僕の奥義ともいえる、致命の一撃と火と氷をあっさりと破って見せた……。
なんだかふざけた奴だったが……負けはしなくとも、街の被害が大きく広がっていたかもしれない……。
「まさか、あんな化け物がこの街に現れるなんて……本当に強敵だった」
どこからどうやって、そしてなぜ現れたのかはこれからレオンハルトと共に調査が必要だが……。
「それはそうだよー! なんたって私の魔力半分も持って行って召喚された化物なんだから―!」
「………………は?」
「あっ!バカ!?」
その言葉で、なんとなく僕はこの事件の概要をなんとなく理解してしまう。
「……シオン、どういう事かな? もしかして、この騒ぎって君たちが原因なの?」
「ちちちちちち!? 違うのウイル君! わわわ! 私はね、ただ愛情を! 愛情を込めようとしただけで!」
「そうなのよウイル! 私達は町をこんなにしようとしたわけじゃなくてね!?」
言い訳をするシオンとティズの発言と、既に土下座の準備をスタンバイしているサリア……。
その行動のすべてが肯定であり。
「三人とも……」
僕は首を一度鳴らして、三人に問いかける。
「ひいいいぃ!? お願い!? お願いしますウイル! お願いだから首は鳴らさないでえぇ!」
「……何があったか……詳しく聞かせてもらおうか……」
「「いやあああああぁあああ! ごめんなさいいいいいいいいいいいぃ!」」
「あらあら……これは、デートはまた今度になりそうだね……残念」
響く断末魔は王都リルガルムの空に大きく響き渡り。
こうして、バレンタインデーの大騒ぎは収束する。
もちろん、今回の事態の鎮圧にレオンハルトは事情を知ってなお僕たちに報酬を支払おうとしたが……それはもちろん受け取ることはしなかった。
事件の原因である三人であるが。
一日かけてこってりと本気のお説教を僕に受けたのは言うまでもないだろう。
◇




