40000PT突破記念・忍者、添い寝がばれる
とまあ、そんなこんなで始まった王都襲撃……。
「今のところは、リルガルムの人々の間では悪魔の正体は謎で、アンドリューの手下とされているわけですが」
「チョコレートモンスターというふざけた存在の割には被害が甚大すぎるのよ、何あの量……あっちこっちで悲鳴が上がってるし……これ、私たちが原因だってばれたらまずいわよ本当に……ってか飲み込まれた人たち死んでないわよねまさか!?」
「まだ死んではいないようですね……ただ、恐らくこの後徐々に体を溶かされて、最終的にはチョコレートに……」
「ちょっとー!? 死ぬよりもえぐいことになってんじゃないよ!? そしそし絶対阻止よ!」
「そうだねー……その前にあのどーてーさんを何とかしないと―……」
「どうにかって、相手は空の上よ? サリアの剣は届かないし……シオンの魔法だって」
「ナーガを投げ飛ばして、何とか召喚陣は破壊したけれど~」
「あの魔物には魔法は通用しないし、ナーガは呪い以外には全く役に立たないからねぇ」
「この我を愚弄するか! 我はバジリスクを従えし蛇の王ナーガラージャぞ! 我もごもが……」
「チョコレートを一つ上げるから、静かにするんだよーナーガ! ぶっちゃけあんたの存在も異端審問ギリギリなんだから―!」
「なんだこっ……にがっていうか痛……ごふっ!?」
チョコレートを食べたナーガは、何か黒いものを吐き出してその場に倒れる。
「やはり、蛇にチョコレートはまずいのではシオン」
「いいのいいの、ナーガは私とウイル君の分身体みたいなものだから、私が死なない限りこいつは死なないよ~……むしろ動かなくなったからおーけーおーけー……」
「って、そんなことしてるわけじゃないでしょ馬鹿二人とも!! 今はどうやってあのお空で迷惑千万かましてる童貞野郎の処理をするかを考えなさい!」
ティズに叱られ、私とシオンは現実逃避をやめて思考を再開する。
「……こんな時、マスターのメイズイーターがあれば……」
「ダメダメダメ!? そんなの絶対だめなんだから! ウイルにばれたらどうするのよ!こんな大惨事引き起こしたなんてばれたら鳴るわよ! コキッてウイルの首鳴るわよ!」
「しかし……この事件の責任は我々にあります、街への被害も、マスターの顔、功績に大きな傷を残す結果になるでしょう……怒られるのは、ちょっと怖いですけれども……しかしそれよりも、この事態を収束させ、迅速に謝罪会見を開き、マスターの不関与を……」
「何バカなこと言ってんのよサリア!? ウイルも帰ってきてないし! 誰も私たちのせいだって知らないんだから! 黙ってさっさとあの悪魔だけ片づけりゃいいのよ!」
「えぇ!? ちょっティズ!? しかしいくらなんでも」
「大丈夫大丈夫! この世の悪事が万事何事も! ばれなきゃ犯罪じゃないっての!」
「はえ!? は、犯罪したんですか!? ティズさん」
「犯罪はしてないけど! 今回の事件は私たちのせいだけど! ウイルもカルラもまだ帰ってきてないし! 今のうちにすべてを解決して……ってカルラアアァ!?」
気が付くと、ティズの隣にはどこから現れたのかカルラがいた。
「おー、おかえりーカルラン……」
「いつの間に……腕を上げましたね、まったく気づきませんでした」
「た、ただいまです皆さん……なんか、街が大変なことになってるんで、とりあえず合流したほうがいいかと思っていたら、五キロ先にティズさんの声が聞こえたんで……気配遮断をして近づいたのは職業柄です」
「職業柄て……ま、まぁそれは置いといて、アンタがいるってことはつまりウイルもいるってこと……よね」
カルラの言葉に、ティズは顔を青ざめさせながらそう問いかけると、カルラは当然のように首を縦に振る。
「どうしますか、ティズ……」
「首がなるのは逃れられないよー……素直に謝ろうよー」
「いいやだめよ! カルラ、今ウイルはどこにいる?」
「え、えと……今エンキドゥの酒場で依頼完了の報告をしているころかと……あ、でも、多分伝説の騎士として行動しているので……この騒ぎを受けて街で戦っているかと」
「ほらきた!! 今ウイルはあの化け物の処理で奔走しているはずよ! つまりは、この事件の真相までたどり着けてはいないってわけ! まだよ、まだ終わっていないわ!」
「そもそも、カルラがマスターに報告をしたら終わりなのでは? 私達は共犯というか原因なのでティズの甘言に乗る理由がありますが、カルラはそもそもチョコレートを作ってさえもいない……」
というか、カルラを出し抜いてチョコレートをマスターに渡そうとまでしているのだ。
そんな私たちにカルラが協力をする理由が……。
「えっ!?」
「ん?」
その瞬間……カルラは一瞬目を丸くし、だらだらと冷や汗をかき始める。
「あ、あぁ! きょ、きょーはーバレンタインデーだったんだー! しらなかったなー」
まるで棒読みの見本のような発言である。
「カルラン忍なのに隠し事下手だねー」
「アンタもしかして……」
「あ、あはは」
「ウイルと二人で依頼を受けて! 抜け駆けしてチョコレート渡したのねえぇ!?」
「きゃあああ!? ご、ごめんなさいいいい!」
ティズは怒り心頭といったように一気にカルラの頭にとびかかり、カルラの頭を齧る。
「汚いわ! さすが忍者汚いわ!! どーせ酔ったふりしてチョコレート食べさせてあげたり! そそそ……添い寝とかしてもらったりしたんでしょ!!」
「いやあああぁ!? な、なんでわかるんですかぁ!?」
「そ!? そいねーー!! 私だって一回だけしかしたことないのにー!(メイズイーター二巻参照)」
「そんな、わ、私はまだ一回もしたこと…………」
よくよく考えれば、今このパーティーの中でマスターと親密度が一番低いのは私なのではないでしょうか……。
驚愕の真実に私は肩を落とす。
「忍者殺すべしよ!」
その間にもティズの怒りはヒートアップしており、このままカルラの頭蓋をかみ砕くのではないのかと思うほどの憎悪を込めて忍者をスレイヤーしている。
「きゃあああぁ!?」
カルラの悲鳴と共に、ティズの牙がカルラの脳天に再度突き立てられそうになった瞬間。
「いや待てよ……いいこと思いついたわ!」
ふと、ティズは何かを思いついたのか怒りを収めて、何かを考える様にカルラを見すえ、にんまりと笑う。
この表情をする人間の九割九分はろくでもないことを思いつき、そしてろくでもない死に方をする……というのが私の持論である。
「ふえ!? ななな……なんですかぁティズさん!?」
「まぁ……今回だけは許してもいいわね……ある条件を飲んでくれればね」
「ティズちんがまた悪いこと考えてる」
「ふえええ!? わ、私何されちゃうんですかあぁ!」
「大丈夫よ、何もしないわ……なぁに、簡単なことよ」
ニマニマと笑みを浮かべながらティズはふらふらとカルラに近づいていく……。
狂気だけならばブリューゲルをもしのぐだろう。
そんな狂気のティズに迫られ、カルラはふるふると首を振り、涙目になりながら恐怖に震えるが……妖精からは逃げられない。
「……なに、大丈夫……簡単なことよ……条件は二つ、一つはこのことこの事態を決してウイルには話さない事……そしてもう一つは、あの童貞を堕としなさい……」