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40000PT突破記念・ コールオブチョコレート バレンタインデー中止のお知らせです

「あ、アイホートホテップ?」


「おや、ご存じない? 悲しきかな私の神性も落ちたということですかな……いやはや、なるほど、いかな大魔導術式が私を呼び出したかと思えば、一般家庭の台所とは……世界八百万の神の時代といえど……神という存在が随分と小さなものになってしまったようですねぇ……異界の言葉を使うならば、うそっ私の神格、低すぎ!」


どこか哀愁を漂わせながら、アイホートと名乗った神?はそうため息を漏らす。


「ちょっと、何わけわからないこと言ってんのよ!」

流石はティズ、目前に現れた明らかに人とは異なる形をした生物に対してもものおじすることなくキーキー声でまくしたてる。


私やシオンでさえも、どう接すればいいかわからないというのに、自らのペースを崩さないとは……たしか、こんな動物がいたような気がするが、はて、なんだっただろうか。


「さて、このちまい妖精は放っておきまして」


「くぉら!? 無視すんな!? ってかちまいって何だ!ちまいって!」


あぁ、そうだ……ポメラニアンだ……。


「契約者……シオンといいましたか……して、私を呼び出した理由をお教えください……自慢じゃないですがこのアイホートホテップは神にして万能の権能をもつもの……金銀財宝をはじめ願い事ならばその対価に応じてお望みの物をご用意できることでしょう……恋愛相談以外」


アイホートはそう少し悲しい告白を織り交ぜつつ、シオンの前にひざまずき、伺いを立てる。


どうやら完全に召喚は失敗のようで、コトコトと煮えた鍋の中のチョコレートが沸騰をする音だけがしばらく部屋に響き渡った。


一番肝心なところが抜けた奴が来てしまったようだ。


「えーとね」


召喚は失敗した……そうシオンは言うだけでいいはずなのだが、彼女は一瞬考える様な素振りを見せた後。


「ねえ、アイホート……愛情って込められる?」


そう質問をした。


「……愛情……ですか?」


アイホートはきょとんとしたような表情をし、シオンの質問に首をかしげる。

先ほど恋愛相談は乗れないと告白をしたのを聞いているにも関わらず、その質問をするシオンの鋼の心臓には感服だ。


「……そう、私たちいま、バレンタインデーのチョコレートづくりをしている最中なんだけどねー……最後の最後に愛情の入れ方が分からなく……て」


「は?」


やはり、邪神にはバレンタインデーの風習はないらしく、私たちの説明に疑問符を浮かべながらそうアイホートは首をかしげる。


「いや、だからね、料理に入れる愛情をね……」


「バレンタインデー? ということは、まさかその鍋の中身……チョコレートでは?」


「バレンタインデーなんだから当たり前でしょ? で、このチョコレートはウイルに食べてもらうんだから、最高の一品にしたいのよ……でも、神様なんだから愛情の入れ方ぐらい知ってるでしょ?」


ティズの呆れたような言葉に、一度アイホートはうなだれるように肩を落とし。


「はああぁ!? ふっざけんじゃねえよ!? お前、生まれてこのかた二万八千四百六十五年彼女もできたことなければバレンタインのチョコレートなんてもらったこともねーよ! なんだよ愛情の入れ方知ってるでしょって! 知るわけねーだろ! むしろ愛情を注いでほしいよ俺は! なんでこんな辺鄙な所にいきなり呼び出されて俺はのろけを見せつけられなきゃならねーんだよ!? あれだろお前!? 絶対ニャルの奴の差し金だろ!?」


爆ぜる。


悪魔の怒りというよりも、恨み……その体全てからブリューゲルをもしのぐ恨みつらみ呪いを放ちながら、アイホートはものすごい可哀想な告白と同時にそう吠える。


「……ちょっ!? いきなり何よアンタ!」


「うるせええ!? お前だって今俺の事心の中で笑っただろうが!! そーですよ俺は童貞だよ悪かったな! 神代から大事な聖剣カリ・バー守り続けてるよ! その発言がもはや童貞こじらせてるって? 余計なお世話だばーかばーか! 自己完結してるんだから仕方ないだろ! 一人で子供が作れちまうんだよ! だから女は寄り付かないんだって―の!」


「え? な、なにを言ってるのこの人―!? っていうかどーてーってなに? サリアちゃん?」


「わかりません……ですが聖剣を守る職業であることは確かなようです……二万年も聖剣を守り続けた邪神に送られる称号です、きっと並大抵なものではないのでしょう」


「そ、そうなんだ……すごーい! アイホートはすごいどーてーなんだね!」


「ぶっころす! このくそがきゃアアァ」


「あれーーー!? 褒めたのにいいいぃ!?」


(ティズは全て分かっているが、自己保身のため無言を貫いています)


「人間ごときにここまでコケにされたのは生まれて初めてですよ!! もう契約とか関係ねぇ!」


なにやら勘違いに勘違いを上乗せしながら、アイホートは絶叫し……。


私達の鍋を見やる。


それは名状し難き、そして度し難き怒りをはらんだ、悪鬼羅刹をも震え上がらせる……邪神の憤怒の表情であった。


「我が権能は、我が子の増殖!! 本来ならば貴様ら人間を種にするが! 今日がバレンタインデーだというならば是非もなし!! この町この世界すべてのチョコレートを!

名状し難き汚泥に変えてやらアアァ!?」


瞬間、アイホートの手により鍋に向けて何かが放たれるのを感じる。


「ムっ!! シオン!」


「感じてるよぉ! ナーガラージャ!!」


それは呪いの力であったようで、シオンはそう叫ぶと、懐から隠していたナーガラージャを放ち、呪いを喰らいつくし、アイホートへと牙を立てる。


「むっ!? 貴様……我が呪いを!?」


その牙をかわし、アイホートはナーガに驚愕の表情をみせる。


「ふはああっははははは! 我はバジリスクを喰らいし蛇の王! 小癪な迷宮の神よ! そのようなちんけな呪いでは、この我の腹は満たされぬぞ!! それでも神か貴様ぁ!」


「ぬっ!? なんだこの生き物……」


「乙女のチョコレートに呪いを放とうなんて! それでもどーてーなの!? 守り続けてきた聖剣が泣いてるよー! あ、でもその呪い後で私にかけて!」


「童貞は関係ねーだろ!? ああまぁいい! そのチョコレートがダメならば他のチョコレートを犯しつくすまでだ! お菓子だけに! ふははははは!」


そう笑うと、アイホートは窓ガラスを破り、王都リルガルムの上空へと飛んでいき、リルガルムの上空に暗雲を立ち込めさせ、呪文を放つ。


それは召喚陣であり、同時に呪いの始まりでもあった。


【全てのチョコよ! 我が子となりて世界に! 特にリア充に反撃せよ!】


展開される魔法陣により現れるのは呪いの塊、その呪いは一瞬にしてリルガルム全土を覆いつくし……同時に、各家、リルガルム全土から汚泥が流れ始める。


それは甘い香りと嗅ぎなれた香ばしい香り……。


チョコレートだ。


【わが名をたたえよ!! 我こそ、全てを宿らせるもの!! アイホートホテップ!!

ふはあああああっははっははははははは! バレンタインデー! 中止のお知らせです!!】


そうして、この惨劇は始まった。


                       ◇




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