40000PT突破記念・ コールオブチョコレート 名状し難きチョコレートモンスター
「なんだ……これ」
「ウイル君……これって……」
外に出るとそこは地獄絵図。
かつてフランクによる王都襲撃、ブリューゲルによる王都占拠を経験した僕たちであったが、今回の襲撃こそ最も凄惨であると言わざるを得ないだろう。
なぜか。
今まで経験してきた襲撃、侵略、占拠は全て、まだ理性のある生物が行なった作戦行動であり、破壊や呪いによる浸食はあったもののこの世に存在するものが行ったもののため、理解できるものによる破壊活動であった。
しかし、今回の襲撃は違う。
まず、街を襲い、道路を侵食し、そして人を喰らうそれは。
液体でもあり個体でもあり、人の様な形をしているかと思えばスライムにもなり竜にもなる不定形……。
香りは豊満な珈琲の様な香ばしさかと思えば、時に汚泥に吐しゃ物に近き香りを発している。
ぷつりぷつりと、表面からは気泡を弾けさせ、ガスの様なものがその体の周りに陽炎を作りだす。
それは生物と呼ぶにはあまりにも冒涜的であり、それは敵というにはあまりにもなれなれしい……。
~化け物~
その呼称こそがふさわしいだろう。
意味も理由もなく街を襲い、食欲のままに人を喰らう……。
英雄譚に描かれる、生物の天敵……。
神の加護から外れた存在、まさに今それが、街を蹂躙しているところであり。
「そんなおぞましい生物を目撃してしまった僕は、成功で1d10……失敗で……2d10の……さんちぇ……」
「ウイル君!? 大丈夫!? 何か変なことブツブツつぶやいて! しっかりして!」
「はっ……」
僕はリリムさんに肩を揺さぶられ、正気に戻る。
「助け……助け!?」
気が付けば目前に、化け物に襲われ、その餌食になりそうな男性がこちらに手を伸ばし助けを求めている……。
正気など失っている場合ではなかった。
「メイズイーター!!」
スキルを発動し、僕は大口を開けて男を喰らおうとする化け物を迷宮の壁にて喰らう。
「ウイル君! まだ、向こうからたくさん!!」
「分かってる! いったん全部喰らいつくすよ! リリム!」
「うん!」
そう言い、僕は押し寄せるスライムに向かい、メイクを放つ。
「メイズイーター!!」
一瞬……思ったよりもその黒い液状のものは回避行動をとろうとするが、逃がすことはなく、全ての化け物を石の中へと放り込む。
「ブレイク!」
確認のため、僕は化け物を喰らったいしを破壊してい見るが、よし、化け物とはいえ迷宮の壁に対しては無力のようだ。
「大丈夫ですか!?」
「ああぁ、ありがとうございます……ありがとうございます……あの不死身の化け物を一瞬で……伝説の騎士……」
リリムさんは、助けた男を介抱し、くじいたのか赤く腫れた足に奇跡を施す。
「何が起こったのか、教えてもらってもいいですか?」
「ええ、ええもちろんです……」
半泣きで気が動転していた男性は、助けられたことと怪我が治ったことにより落ち着きを取り戻したのか、怪我が治る最中化け物が出てきたときのことを語りだす。
「やつらが現れたのは少し前です……ロイヤルガーデンの跡地から急に這い出てきて……はじめはただの黒いドロドロしたスライムみたいなものでした。
たまに地下下水道でスライムが発生することはあるので、初めはみんな騒ぐことなくすぐに王都警備隊を呼んだのですが、警備隊の人間が駆除しても駆除しても減らなくて、気が付けば警備隊の人間はみんな奴らの胃袋の中でした」
「ひどい……」
「何なのかはわからないの?」
「分かりません……こんな魔物見たことも聞いたこともない……ですが、ただ」
「ただ?」
「そういえば……この化物が出てくる前に、一瞬だけ空が暗くなったような……雲とかそういうものではなく、何か、空に大きな天井でもできたのではないかと思うような、そんな影が……できたような気がします」
「影……」
男の言葉に、僕は乾燥大地から見た巨大な孔のことを思い出す……。
彼の言葉が本当であれば、僕が一瞬だけ見たあの大孔は、気のせいではなかったということだ。
「……ありがとう、魔物の発生地点は、ロイヤルガーデンで間違いないんだね?」
「ええ、間違いないです、ここは仕事の通勤経路で……そのおかげで何とか、スムーズに逃げられて、奴らの餌にならずに済んだのです……」
「分かったありがとう……」
「なんだか随分と大事に成っちまったみてぇだな……」
僕が外にて状況を確認していると、ギルドから準備を終えたのか、冒険者とガドックたちが姿を見せる。
「……ガドック、まずは原因の究明をしつつ住民を避難させたい……協力を頼む」
「あぁ、とりあえずはここの守りは俺がいる限り万全だ……その一般人の身柄はこちらで保護しよう……」
「あ、ありがとうございます!!」
地獄からの生還ということもあり、男はそう一つ礼を言うと、足早にその場から立ち去りエンキドゥの酒場へと入っていく。
「ガドック、私はこのまま駆除に向かう、幸いクエスト帰りで準備万端だ……」
「ああ……他の今逃げている奴らにも、この場所を伝えてやってくれ……ただ、ここの守りだけならこれだけの量はいらない……」
「ならばすぐに伝令を飛ばして王城へ……レオンハルトの部隊と共にこの化物たちを討て……まだ王都襲撃の際の契約は生きているはずだろう」
「お前の言う通りだなフォース……ここの奴らにすぐに準備をさせたら、王国騎士団が到着するまで町の化け物の相手をさせよう……」
ガドックはそういうと、背後で立っている冒険者たちに目配せをすると、冒険者たちは全員うなずいて同じように酒場の中へと戻っていく……装備を整え、化け物を討つための準備を整えるためだ。
よし、これでひとまずは大丈夫だろう……。
「では向かう……リリムはどうする?」
「何言ってるの! 怪我は私が治すから! 一緒に行くよ!」
「わかった……」
僕はそうリリムの言葉にうなずき、襲撃された王都の中心へと向かっていくのであった。




