40000PT突破記念・ コールオブチョコレート リリムとバレンタインデート
「今戻った……ガドック、クエスト終了だ」
王都に入り、素材とリューキたちをカルラとドリーに任せて、僕は先にギルド・エンキドゥにクエスト成功の報告へ向かう。
「おぉ! フォース! 戻ったのか! ご苦労だったな!」
「フォース!? もうハイドラを倒したのか!? さすがだな!」
「フォースの帰還にカンパーイ!」
「うおおおお!! リルガルムの誇りだぜぇ!」
昼間から酔っぱらっているのか、冒険者たちはそうはやし立てながら乾杯をし、僕はそんな光景に少し微笑みながらも、その首をガドックのもとまでもっていく。
「これが証拠の首だ……確認してくれ」
そういって首桶を渡すと、ガドックはその箱を無言で受け取ると箱を開き、首を確認する。
「七つ首のハイドラは、母体が死なない限りは首も死なない……この首が死んでいるということは母体は死亡、もしくは消滅しているということだから……へっへへ! ご苦労だったなフォース!! 確かにクエストのクリアを確認したぜ!!」
「そうか……それで、報酬の話だが……確か金貨二千枚だったか?」
「あぁ、いつも通りリルガルム銀行への振り込みで構わないか? 今回は国からの依頼だから、いつも通りすこーし遅くなるが」
「急ぎで使う用事はないから構わない……お金には困ってないからな」
「そうか、そりゃよかった……お疲れさん……たまには飲んでいかねえか? アンタには大したことじゃねーかもしれないが、こいつらにとっちゃ竜退治なんて伝説みたいなもんだからな」
「悪いが酒は飲めない……それに、話は苦手だ」
というか長話をしたらすぐに僕がウイルであることがばれてしまう。
当然の事ヘルムは外せないから酒は飲めないし。
「そうか……まぁ確かにこんなむさい男どもと飲むってのも花のない話だよな……だが、こっちはどうだ?」
そう言うと、ガドックは過度の席を指さすと、そこには席に突っ伏して眠る一人の少女がいた。
「ん?」
「今日、フォースが帰ってくるからって朝からああやって待機してたんだ……ほら、行ってやんな」
ガドックはそういって僕の背中を押し、僕は案内されるままその少女のもとまで向かう。
垂れた犬耳に、イスから垂れた尻尾……そして、机の隣に置いてある眼鏡……。
クリハバタイ商店のメイド服姿ではなく、白いワンピース姿であったため初めは気が付かなかったが。
そこで寝ているのは、まぎれもないリリムであった。
「……リリム?」
特に今日リリムと約束等はしていなかったはずなのだが……。
僕はそう疑問に思いながらも、とりあえずリリムの肩を揺さぶって起こそうと試みる。
しかし。
「んん……」
リリムは幸せそうに口元を緩めるだけで、おきる気配はない。
いつも内に遊びに来るときや、クリハバタイ商店では見ることのできない、オフの顔。
僕は、そんな珍しいリリムのレアな顔を拝みつつも、夢の国からリリムを引き上げようと試みる。
……肩を揺さぶること数分……。
日頃の疲れからかなかなか起きる気配のなかったリリムであったが。
「んんん?」
小さな声を漏らしながら、犬耳をぴくぴくと揺らしながら目を覚ましてくれる。
「……おはようリリム……こんなところで寝ると風邪ひくよ?」
「あぁ……私寝ちゃって……ごめんなさいウイル君…………ウイル君?」
まだ眠いのか、目をこすりながら呆けた声を上げるリリムであったが。
僕の名前を呼んで覚醒をしたのか、一瞬青ざめたような表情をした後、すぐさま顔を真っ赤に染め上げる。
ちなみに、恐らく寝ぼけて僕の名前を呼んじゃうだろうなということも考慮して、ここでの会話は外に漏れないようになっている。
「なっ!? なんあなななな!? う、ウイル君!?」
「やあ、ごめんね、なんか朝から待ってたみたいだけど」
「あああぁそれは、朝方には戻るからって聞いてたからっていうのと!? スレ違いになると大変だからっていうのの二つの理由があって!? いや、それよりもウイル君……その、見た?」
「何をですか?」
「わ、私のだらしない寝顔」
「とっても可愛らしかったよ」
「いやあああぁ!? ちが、違うの!ウイル君 私、いつもはそのこんなお昼寝なんてしないんだけれど、今日はたまたま天気が良かったというか、昨日眠れなかったというかで……」
悲鳴を上げながら慌てふためくリリムは、やはりいつもとは違う姿であり見ていて楽しい。
もう少し話を聞いていたいなぁとも思うが、このままだと埒が明かないと思うので。
慌てふためき、耳と尻尾を振りながら僕に身振り手振りで釈明をするリリムに僕は微笑み、とりあえずは用事を聞くことにする。
「……まぁまぁ……落ち着いてリリム……それで、何か用事があったって話だけれども……何か問題があったの?」
「あ、いえ……その、問題とかじゃないんだけど……」
「?」
「その、久しぶりに今日お休みが取れたから……その、ウイル君をデートに誘おうかなって思って……待ってたの」
そう、少し恥ずかしそうにリリムは語り、僕はそんな姿に心を揺さぶられる。
なぜなら、リリムは頬を赤く染めながら、僕を上目遣いで見つめているからだ……。
その表情は反則である。
「……ぼ、僕とデート?」
「お休みの過ごし方って、その……私よくわからなくて……せっかくだからやりたいことをやろうと思ってね……考えたら……ウイル君とデートがしたいなと思って……その、帰ってくるのをここで待ってたの」
「そ、そうだったんだ……ごめんね、もっと早く帰ってくれる予定だったんだけど」
「う、ううん……私が勝手に待ってただけだから……それで、もしこれから時間があれば……一緒にデートをしてほしいんだけど」
リリムの誘いはもちろんオーケーである。
というか予定が入っていてもリリムの頼みならば最優先事項になる。
「もちろん……この後用事はないし……ただ、少しこの鎧とかは目立ちすぎるから、うちまで来て待っててもらうことになるんだけど……それでもいいかな?」
「もちろん! 大丈夫だよ、わがまま言っているのは私の方だし……あのね、そ、それに私の方も少し準備? みたいなものがあるから」
「準備?」
「心の準備みたいな?」
「こころの?」
「あわわわぁ!? や、やっぱり何でもない! 忘れて忘れて!」
「あ……うん」
まだ寝ぼけているのか、今日のリリムはいつもの大人の余裕あふれるリリムではなく、可愛らしい少女がそこにいる。
なんだか、普段人には見せない可愛い一面を僕にだけ見せてくれるのだと思うと……とてもうれしいし、なぜだか少し胸が高鳴る。
「じゃ、じゃあすぐに用意するから……」
「うん……あ、ありがとうねウイル君……ごめんね、疲れてるのに」
「気にしないで……リリムにはいつもお世話になってるし……これくらいのわがままならいつだってかなえてあげるよ」
「ウイル君」
僕は少しはにかみながらリリムにそういい、席から立ち上がる。
どうやら今日は、最高の一日になりそうだ。
と、そう頭の中でつぶやき、立ち上がると同時に外で騒がしい悲鳴や爆発音が響く……。
「ゑ?」
そして、それから間もなく、エンキドゥの酒場の扉がけ破られたのかと思うほど大きな音を立てて開き。
「た、助けてくれ!? ま、街に正体不明の魔物が現れて!? 王都を襲撃してる!! だれか、誰か助けてくれええぇ!!」
そう、入ってきた人は叫び声をあげ助けを求めてくる……。
前言撤回……今日はどうやら、最悪な一日になりそうだ。




