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23.サリアとデートとユカタ

「まぁそれじゃあ、これから一緒に暮らすことになるだろうし、これから必要なものを買いにいこうか……サリアも、いつまでも僕の服を着ているわけにも行かないだろうし」


シオンが正式に仲間として受け入れられ、冒険者の道から三十分程度歩いたところにある、王都中央部、目と鼻の先に王城が見える城下町で最も栄えた王都の心臓部が多く存在する場所であり、同時に金貨銀貨が最も流動している場所である。


高貴な人間や一般市民全てがここに集うこの場所は当然物流も盛んになり、あたりを見回せばまぶしいほどの宝石商や仕立て屋に入り混じるように道や広場には露天商や出店を開くものもいる。


全ての人間が中央に集まるように設計されたこの王都独特の光景なのだろう。


高そうなドレスに~セブンスバード~のうちわを仰ぐ貴婦人が、バザールの女店主と楽しそうに井戸端会議を開いていたり、炭鉱夫と漁師のケンカに貴族達が賭けを始めたりしており、そこには身分の差を越えた何か特別な交流が存在することが見て取れる。


「英雄王ロバートは、かつて殺し合いをしていたエルフ ドワーフ ノーム ヒューマン ハーフリンクその他部族の戦争を終結させ、身分も差別もない国づくりをしようとしたといわれています」


「随分とまぁ、大それたことをしようとしたわね」


漁師に賭けていた貴族たちから歓声が上がり、両腕を上げて勝利をアピールする漁師達に儲けた貴族達は抱き合って健闘をたたえる。


この様子を見る限りではこの国の王は理想論を理想では終わらせなかったということが分かる。


「アンドリューさえいなければ、争いなんて無縁な国だったんでしょうね……まったく。理想を実現しても狂っちゃ意味無いでしょうに……」


ティズは珍しく感傷に浸りながらシオンの頭の上に止まる。


「まぁどちらにせよ、私達のような冒険者が差別を受けることは先ずない……という事実だけで今は十分ではないですか」


「まぁね……」


サリアはティズを慰めるようにそういい、ティズも自分を納得させるようにそう呟く。


「あ! やーっとついたよー!」


一人楽しそうなシオンは、そんな重くなりかけた空気を吹き飛ばすように中央交易広場から少し外れた一本の商店街の前で立ち止まり、入り口となっているアーチの前で両手を広げて喜びを表現する。 


子どものようにはしゃぐ姿はとてもほほえましく、少し口元を緩めながらも、僕はアーチにかかれた文字を読む。


「……繁栄者の道」


貴族も一般人もアンドリューも、この一本道で満足しない者は無し。


 百貨全般万に通じ、怒るオーガも歌いだす。


なんて謳い文句で通っているこの繁栄者の道は、冒険者の道とは対照的に、一般人や貴族……この町で生活する人間のニーズを十二分に満たすように設計をされた通りである。


贅沢品や珍しいものは少ないものの、日常生活に必要な生活必需品を網羅しており、僕とティズもこの町で住むことになったときにこの道を利用させてもらったが、文句なしの一言に尽きる。


百貨店ならぬ百貨通りとでも言うべきだろう。


「いつもどおりだけど、すごい賑わいだねー」


日はまだ高く快晴のため、ショッピングをするならば最高の時間帯だ。


「うん、丁度いいタイミングといった所だね」



「そうですね、流石はマスター。クエストを受けると同時にここまで時間計算をしていたとは……シオンの存在も織り込み済み……といったところですか」


まぁ、出来なかったら今度の休みの日にでも行こうかと思っていたのだが、そういうことにしておこう。


「それで、当然お金が必要になると思う、みんなにこれを渡しておくから、これで必要なものをそろえるように」


僕はクエストクリア報酬を一度サリアから受け取り、中から金貨を三枚取り出してティズ、サリア、シオンに手渡す。


町の中がどうなっているかはあまり行った事がないのであまり詳しくはないし、女の子の洋服を選ぶセンスは僕にはない……ということで、各自に金貨一枚を渡し、必要なものをそろえてもらう。


簡単に言えば丸投げだ。


「本当に!? 本当にこんなに使っていいの!」


「金貨一枚……少し多いようにも思えますが」


金貨を受け取り大はしゃぎするシオンとは対照的に、遠慮がちなサリアだったが。

「これからしばらくは一緒に行動をする予定なんだから、必要なものもそれなりに多いだろ? 家の広さは我慢してもらわなきゃだけど……手持ちのお金で買えるものだったら出来るだけそろえて欲しいんだ。 大切な仲間だし、女の子に不便な生活を強いるのは嫌だからね」


「マスター……ありがとうございます。 大切に使わせていただきます」


サリアは大切そうに金貨を握り締めたあと、そっと胸元に入れる。


女性の胸の中は異次元と聞いていたが……あの中はどうなっているんだろう。


「どうかしましたかマスター?」


「ふぁっ!? ご、ごめんなんでもないよ!??」


ゆれる金色の髪に、少し傾げられた首……青い瞳に隙だらけ――実際隙は無いが――の表情に仕草……僕は心臓が跳ね上がり、自分でも分かるほどに赤面をする。


一目ぼれとは恐ろしいものだ……迷宮の中に居るときは緊張感から特に意識はしなかったが、こと迷宮から出れば、勇猛果敢百戦錬磨の騎士が……清楚で可憐、しかして凛とした美しき少女に見え、とたんに意識をしてしまうのだから。


「……はっはーん」


一瞬、何かシオンが悪巧みをしているような呟きを発する。


こんなにも分かりやすく悪巧みをしていることを強調するような表現をする人間は始めてみたが、不思議とその悪意が僕に向いているものではないことに気が付く。


いつもは僕だが、今回ばかりはティズがなにやら背筋に氷水でもぶちまけられたかのような表情をし、本能のままに急上昇をして回避を図ろうとするが。


「ティズティズ! あっちに面白いお店があるから一緒にいこー!」


「ちょっ!?」


ティズの反論も聞かずにシオンはティズの羽をつまみ、駆け足で魔法服の店まで走っていき、見えなくなる。


「ちょっ!? シオン勝手に……」


僕は慌てて二人を追いかけようとするも、気が付けば雑踏にまみれて二人の影は消えており、僕とサリアだけが残される。


「……どうやら置いていかれてしまったようですね」


「みたいだね」


冷静を装うが、心臓が止まるかと思うほど鼓動が早まる。


サリアと二人きりで、百科通りで買い物をする……其れはまるで、デートのようじゃないか。


「……え、えと……これからどうしようか?」

「この広さです。 むやみに探しても時間を浪費するだけかと思います。 なのでマスターがよろしければ……その、私と二人で回っていただけませんか? あまり衣服に気を使ったことが無いので……その、恥ずかしくない服を一緒に選んでいただきたいのです」


もじもじとしながらサリアはいつもとは想像の付かないほどしおらしい声でそうお願いをはじめる。


反則だ……そんな恥ずかしそうな表情をして失敗するはずが無いし、そんなギャップで攻められたら。既に着ている服だけでも僕の心を射止めている。


「ええと……じゃあ先ずはあの店から入ってみようか」


「はい」


 どこかお互いぎこちない様子で入ったお店は、若い女の子向けの洋服を取り揃えたお店

カーバンクルの仕立て屋。


中は思っていたよりも広く、四方の壁には色々な洋服が折りたたまれた状態でしまわれている。


それはドレスであったり、セーターであったりスカートであったりさまざまであり、デザインも大人向けや子供向けと幅広く取り揃えているらしく、小太りの貴婦人に並んで五歳位の子どもが洋服をあてがって鏡の前で仲良くポーズを取っている姿が目に入る。


「この街一番の仕立て屋と聞きましたが。 確かに広い」


サリアは感心するようにあたりを見回し、息を飲む。


やはり女の子なのだろう。 その目は心なしか輝いている。


少し視線を落とすと、店員であるハーフリンクたちがせわしなく店を駆け回っており、

それと一緒に展示物である洋服を来たマネキンが、お客の前でさまざまなポーズを取りながらお客さんに向かってお勧めの商品の宣伝をして回り、小さな人だかりを作る。


僕としては、あの胸元が大きく開いていて、スカートが短い洋服を着て欲しいが、そんなことを口にしようものならティズが飛んできてせっかくの二人きりが早くも終了してしまう気がするし、色々とサリアの信用を失ってしまいそうなのでやめておく。


「あ! マスター こ、これなんて着てみてもいいですか!?」


少々興奮気味に、耳をぴんと立てながらサリアは小走りにかけていき、魔法のかけられていないマネキンが着せられている服の元まで走っていく。


そこにあったのは東の異国の服だった。 キモノというよりはユカタと呼ばれるラフなファッションに近いそのつくりは、 白の布地に青の帯が巻かれ、襟元に刺繍でトネリコの木の枝の模様が縫いこまれており、洋服全体には淡い青色で 月と桜が描かれている。


「東の服だね」


「はい。 迷宮にもぐるときは着れませんが、自宅ではいつも着ていました」


「珍しいね。 なにか思い入れでもあるの?」


「まぁ、その……私の剣の師が東の異国の剣士でして、修行時代は常にキモノを着て修行をしたために体が慣れてしまったのですよ」


「あぁ、どうりで……サリアの剣技は普通の剣とは違うなって思ったけれど、やっぱり東の国の剣技なんだ」


「はい。 エルフであった私は今でこそ全てのステータスが上限値ですが、昔は他のエルフ同様非力な女でした……その為、盾と剣の戦闘スタイルでは成長の余地がないと判断し、盾を廃した戦い方を模索し、そこで出会ったのが上級職サムライの剣技だったのです……あぁ勿論今では盾と剣も使えますよ?」


「意外と努力家なんだね、サリアって。 もっと才覚にあふれた天の人なのかと思ってたよ」


「そんなことはありません、私は元々は……あ、試着室はあっちみたいですね。 ちょっと行ってきます……似合うかどうか見てもらっていいですか?」


「あ、うん。 もちろん。 そのために一緒に来たんだから」


話の続きが気になったが、サリアはもうユカタに興味津々らしく、僕は少し残念に思いながらも快くうなずく。


一つと言わずにもっといろいろな服を着てくれてもいいんだけど……。


そう心の中で思ったが、口に出したらティズが出そうなのでやめておく。


試着室は大賑わい。 迷宮の大部屋ほどありそうな広さの試着室に、所狭しとカップルや貴婦人の集団が詰め掛けており、わいのわいのと騒ぎ立てている。


「向こうがあいてますね」


これだけの込みようですでに試着室は満員かと思ったが、幸運にもサリアはあいた更衣室を発見し、滑り込むように試着室に入り込む。 流石はマスタークラス……人ごみを避ける姿一つとっても芸術的だ。 十点評価で文句なしの十点をプレゼントしよう。


とか変なことを考えていたら、ドワーフ貴婦人の丸太のような肘が頬にめり込む。


未熟者。


「ではマスター……その、試着してみるので……えと、変でも笑わないでくださいよ?」


「笑わないよ」


「絶対、ぜえったいですよ!」


「大丈夫だって」


ひりひりと痛む頬を押さえながら僕はそう心配そうなサリアに念を押し、試着室へ送り出す。


「~♪」


聖騎士として鎧を纏っているときの姿は男の僕でさえも憧れてしまうような強かさと美しさを持った冒険者であるが、ことお買い物となればやはりサリアも女の子としての一面を隠さずにはいられないらしく、


衣擦れの音と一緒にご機嫌な鼻歌を響かせている。


どこかで聞いたことのあるような優しい調べの鼻歌に僕は少しばかり耳を傾けながら待つこと数分。


「マスター……その、お待たせしました」


恐る恐る試着室のカーテンが開かれ、そこに天使が舞い降りる。


ユカタと呼ばれる其れを着たサリアは、肩まで伸びた金色の髪を一つに束ね、頭にはかんざしのようなものをつけている。


青と白を基調としたそのキモノは美しく、胸元が少しはだけている点が、僕の心をわしづかみにする。


見た感じ、休日等に着るようなイメージの服であるが、とりあえず休日だろうがなんだろうが構わない……僕にいえることは。


「すごい……綺麗だ」


情けないことにこの一つだけである。


「本当……ですか?」


上目遣いなんて反則だ……そんな魔法の胸元をちらつかせながら、上目遣いで僕を見るなんて……しかも腕を振るたびに広いユカタの袖が揺れて心地よい衣擦れの音を響かせるし、足元の隙間から覗く生脚がとても綺麗で……ダメだ、刺激が強すぎて目が放せない。


「本当に綺麗過ぎて、その、目が離せないよ」


「ま、マスター……そんな」


僕の間抜けにも正直な感想にサリアは顔を赤くして両手を頬に当てる。


かわいい。


「……マスターは、この服気に入りましたか?」


首ふり人形のごとく首を縦に振る。


サリアは少し考えたような素振りを見せた後。


「では、これを着たまま外に出ましょうか……」


なんてとんでもなく嬉しい発言をしてくれる。


「ほ、本当に?」


「せっかく、マスターが好きだといってくれた服ですから」


顔を少し赤く染めながらも、嬉しそうに笑顔を作るサリアの表情は迷宮の中での凛々しい姿からは想像も出来ないほど朗らかで……暖かくて……幸せそうで……。


僕は一撃で視線だけでなく心までも奪われてしまった。


エルフにユカタは最高だと思います。 

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