40000PT突破記念・ コールオブチョコレート リューキとエリシア
「あ~~~……」
「しぶといわねぇ……馬鹿リューキ」
ウイルとカルラが酒場から去り、ドリーの奴は酔いつぶれ気が付いたらフットの奴が消えていた大勝利の後の酒の席。
「お客さん……アンタら本当にうちの店の在庫空っ欠にするつもりですかい?麦酒も蒸留酒もカクテルも清酒も飲み切ると来たもんだ……まぁ、一番在庫のあった麦酒を飲み干したのは御連れさんだけど、アンタらも大概だぜ?」
店主はあきれたように渡した金貨を数えながら嘆息をつき、カウンター前で突っ伏している俺たちに苦言を呈する。
「そうだな、最後にウオッカを貰おうか」
「おいおい、まだアルコール度数が上がるのかい、最後にはスピリタスだなんていうんじゃねえだろうな? 体の中に血じゃなくてアルコールが流れ始めちまうぞ?」
「なによ~、スピリタスがあるならそういいなさいよ~、ストレートで!」
「あ~、俺もそっちにするわ」
「頭が壊れてるとしか思えねぇな。 S級冒険者ってのはみんなこんななのか? 迷宮ってのはよっぽど楽しいレジャーランドなんだな」
「消毒用のアルコールは立派な酒だからなぁ……」
「喜んで飲むのはあんただけだけどねぇ……まぁ、無ければ私も飲むけど」
「どっちが化物なのやら、殺されたハイドラに同情するよ」
「あによー……そんなくだらないこと言ってないで早くスピリタス持ってきなさいよー、まだリューキとの勝負がついてないのよー……私はこいつの記憶をぶっ飛ばさなきゃならないのよー」
「やれやれ……先に出てった嬢ちゃんの方がよっぽど勇気があるわぁな……」
呆れたようにため息を漏らし、店主はすっかりスカスカになってしまったボトル棚からスピリタスに手を伸ばすと。
「あーしまった……二人分はねぇな……滅多に出ねえ酒だから減ってるのに気づかなかったわ……倉庫まで取ってくる……いい子に待ってられるか?」
「……尻尾でも振ろうか? お手は?」
「いらねぇよ……じゃあ待っててくれ……あぁ、少し(・・・)時間が(・)かかる(・・・)かもしれねえからな……たのしくやれよ、朴念仁と不器用さん」
そうわけのわからないことを言って、手を振り、倉庫へとゆっくり出ていった。
「何言ってんだあのおっさん……酔ってんのか?」
「それはアンタでしょう」
「そしておめーもな……」
「そのとおりね、まったく。 これだけ飲ませても潰れないなんて、アンタどれだけ強いのよ」
「へっへへ、そりゃあ、久方ぶりの相棒との二人酒だからな、つぶれるのはもったいねーだろ?」
「相棒?」
「おめーだよおめー……ほかに誰がいるんだよ」
俺はそう、少し照れ隠しに悪態をついて……グラスに一つ口をつける。
俺が相棒という言葉を使ったのは……その言葉が一番正しいと思ったからだ。
駅のホームから足を滑らせ、何とか電車を回避したものの勢いついて道路に飛び出しトラックにひかれて死んでしまった俺。
天界で、ミユキ・サトナカという神様に【かわいそう】といわれたときは、さすがに自らの不幸に乾いた笑いしか出なかった。
だというのに。
与えられたスキルも、スキルを所有していないと全く意味をなさないスキルチェンジャーを与えられ……転生した場所は龍の巣のど真ん中……。
そんな不幸とどん底の第二の人生のスタート……だけど、神様に一つだけ感謝をすることがあるとしたら、俺が生き返ったその場所にエリシアをいさせてくれたことだ。
ポンコツ勇者とポンコツ魔法使いのポンコツ珍道中……。
ひもじい、弱い、ついてない……散々な時間を過ごし続けた俺たちだったけど。
あの時はずっと二人だった。 あぁ、フットもいたっけ。
そういや、初めてあった時、不覚にもこいつを綺麗だとか思ったんだっけ……今じゃ何にも感じない……け……ど?
「馬鹿……そういう天然なところは、何も変わってないんだから」
ふと隣を見ると、そこには優しい表情で微笑むエリシアがいた……。
その笑顔は、初めて出会った時……俺が心の底から美しいと思った少女そのままであり。
「……もう、色々と計画練ったり馬鹿みたいに頑張ったりした私がバカみたいじゃない……もう、バカバカ……」
「え、あぁ、すまん」
ぽかぽかと俺のことを軽く殴るエリシア……。
俺は、気が付けば自分の顔が真っ赤になっていることに気が付き……そして同時に、俺は今日が何の日だったかを思い出す。
「……エリ」
「ふん、いいわ。 本当は記憶をすっ飛ばしてからにする予定だったけど気が変わった」
そう言い、エリシアは俺に何かを押し付けるように、そっぽを向いたまま箱のようなものを渡してくる。
それは。
「ふん、どうせあんたのことだから茶化して馬鹿にするんだろうけれども!? でも、一応
? 私の相棒だし……その、た……大切、な人だから? こうやってわざわざ作ってあげたんだから感謝し……」
「うおおおおおおおおああああ!? やったあああああぁああぁ!?」
「うええぇ!?」
ボロボロと俺は涙を流し、大声で歓喜の声を上げてそのチョコレートを受け取る。
それもそうだ、転生前、もてないヒキニートであったこの俺が、生まれて初めて女の子(と今は認めよう)からチョコレートを貰ったのだ!? 嬉しい、正直とてつもなく嬉しい。
「ちょっ……えっ? なんか反応が予想していたものとちが……」
「あったりまえだろエリシア!? チョコレートだぞ! バレンタインデーのチョコレートがどれだけ転生者にとって大事で嬉しいものか!? これを貰える男ともらえない男とじゃ、インプとアークデーモンロードぐらいの違いがあるんだ!」
「そこまで!?」
「ああそうだとも……うぅ苦節18年転プラス転生してから3年……彼女いない歴=年齢=チョコレートを貰えなかった年数の俺が……ようやく、ようやく……」
「……そ、そっか……そんなに、嬉しい物なんだ……なんだ、それならもっと、早く上げてればよかった」
「いいや……エリシア、ありがとう」
「なんかすごい優しくて怖い……まぁでも……そんなもので良ければ……その、来年も、再来年も……それからずーっと先も……作ってあげるわよ……」
「本当か!?」
「嘘ついてどうするのよ馬鹿リューキ! そ、その代わり」
「その代わり?」
「一緒にいなくなったらチョコも上げられないんだから……その、私のそばからいなくなったらダメなんだからね!」
「当たりまえだろ!? 相棒!」
当然の事をエリシアは言い、俺は当然のようにそう返答を返す。
「そう……じゃあ、これからもよろしくね、リューキ」
くすりと笑うエリシアは……酒が回っているせいかとても魅力的に見える……。
ずっと一緒。
俺は、そんな当たり前な誓いに笑い返して答え……自らの幸福を噛みしめる。




