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243.伝説の騎士の握手会

カルラの冒険者登録はいつも通りギルド登録書と本人確認書類をガドックが少し見比べるだけで終了し、ギルドカードが発行されると同時に、晴れてカルラはギルドエンキドゥの所属冒険者となる。


なんともあっさりとしているのはガドックがそういう性格なのか、それとも伝説の騎士のパーティーであることの恩恵なのか、どちらかはわからないが、僕は嬉しそうにギルドカードを眺めるカルラを見つめる。


「……カルラの奴は随分と嬉しそうだな」


ガドックはそんな奴は初めてだと言わんばかりに苦笑を漏らしてそういうが。


「無理もない……彼女は今まで日の当たらない場所で暮らしてきたのです……あのギルドカードはいわばあなたのいう通りつながりであり、カルラにとってはかけがえのない宝物に見えるのですよ」


サリアはどこか苦しそうな表情でそう言い、カルラを見守る。


「よくわからんなぁ」


「分かるはずがありません……いいえ、私たちが分かったような気になってはいけないものでしょう……彼女が今まで経験してきた痛みは……それほどまでに大きく深いのですから……ねぇ、マスター」


サリアはそう僕に語りかけ、僕は静かに首を縦に振る。


「そうだね……だけど、痛みをわかることは出来ないけど……彼女の笑顔を取り戻すことは出来る……カルラが幸せだと感じて、辛かったことが過去にできるくらい……僕は、カルラを守るって決めたんだ」


「……守る……ねぇ、随分とでっかくなっちまってまぁ……この前までオークやコボルトを狩ってた新米だったのになぁ……」


「何を言うのですかガドック、マスターはレベル一の時から高潔で至高のお方です」


「はいはい……まぁ、はじめお前らが伝説の騎士のパーティーになったって聞いた時は、サリアやシオンはともかくウイルの奴は大丈夫なのかって心配はしたが……その分だといい方向に傾いてくれたみてぇだなぁ……まぁ、あの伝説の騎士が仲間を使い捨てにするような真似なんてするわけねえか」


ガドックはしみじみそういい、注文最後の品だったのか、男のあんかけ焼肉うどんをウエイトレスの女の子に渡すと、キッチン兼ギルドカウンターから出てきてどっかと僕たちの隣に座る。


「まぁね、彼にはよくしてもらっているよ、この通りホークウインドも貸してもらってるし」


当然のことだが、ガドックは僕が伝説の騎士であることを知らない


サリアやティズは、ウイル=伝説の騎士であることを早急に王都リルガルム全域に知らしめるべきであると未だに進言をしてくるのであるが、高々レベル7の冒険者である僕が国を救った大英雄であるなど、この国の人が信じるわけもなく、逆にレベルが低い冒険者であるということが分かれば伝説の騎士の存在を良しとしない人間に襲撃を受ける可能性が大きくなる。


例えばアンデッドハントだ、アルフとの戦いに敗北した彼らは、一人はアルフにより殺害され、リキッドリオールは僕の手で消滅をさせた。


残りのアンデッドハントがどこに行ったのかはわからないが、しかし必ずアンデッドハントは伝説の騎士の暗殺に乗り出してくるはずだ……。


迷宮教会をも超える諜報能力を誇るアンドリューの手足……アンデッドハント。


彼らの情報収集能力をもってすれば、伝説の騎士の素性を割り出すことなどたやすいのかもしれないが、リキッドリオールが結局最後まで僕が伝説の騎士だと気づくことなく逝ったため、今はまだ気づかれてはいないという事だろう。


だからこそ、自分から情報を漏らしてアンデッドハントに狙われる隙を作るという事態は防ぎたい。


「……まぁ、せいぜい足手まといになって伝説の騎士の邪魔にならにようにな……」


「うん……あぁそれで、伝説の騎士で思い出したけれども、王都襲撃で手に入れた素材を受け取りたいんだけど……王国騎士団が運び込んでくれる手はずだったんだけど」


ぼろが出ないように、僕はわざと言葉を濁して、エンシェントドラゴン、ブラックタイタン、ゴルゴンの素材の話をガドックに聞き出す。


「おお! 迷宮教会の奴らに建物は壊されちまったが、男ガドック! 冒険者への報酬は命を懸けて守り切ったぜ! 今用意させるからよ、ちょっと待っててくれ!」


そういうと、ガドックは近くに控えていたウエイトレスの一人に声をかけ、僕たちへの報酬を持ってくるようにと頼み、ウエイトレスはひとつうなずくとそのまま倉庫へと小走りでかけていく。


「あの襲撃の中でも、素材は無事だったのですね。 感謝しますガドック」


駆けていくウエイトレスに、サリアは懸念していたことが一つ解決したことに胸をなでおろす。


「まぁ、迷宮教会の奴らはあくまで俺たちを狙ってただけで、宝には興味がないって感じだったからな、倉庫の方までは放火はされなかったんだよ」


「そ、そうだったんですか……」


「あぁ……命はシンプソンの奴に何とかしてもらえるが! 財宝まではどうにもならんからな……不幸中の幸いって奴だ……」


「それは何よりです……」


「まぁな……あぁそういや、お前さんと同じで俺も王都襲撃の話で思い出したんだが」


「はい?」


「今日は伝説の騎士はいないのか?」


「あー……今日は……そのー」


「お、王都襲撃の召喚の原因をさ、探るために……ヴェ、ヴェリウス高原まで一人遠征に向かっています」


突然のガドックからの質問に、とっさに応えられない僕の代わりに、カルラは気を利かせてそれらしいことを言ってくれる。


「ヴェリウス高原まで? まぁあいつの強さじゃあ、ウオーターリッカーも関係ないか」


「そうなんです」


カルラのファインプレーにより、ガドックは微塵も疑うことなくふぅむと考え事をするように頭をひねる。


「何か問題ごとでも」


その様子に僕はそう尋ねると、ガドックはひとつ唸り。


「いや、大したことじゃねえんだが、そろそろ……その、伝説の騎士の握手会を開かなきゃならねえだろ? その日取りとかの打ち合わせをしたかったんだが」


あー……そういえば、このギルドとの専属契約を結んだ際に、ちょろっとガドックに冒険者ギルド主催の握手会を開くことも契約させられていた……。


王国騎士団もそうだが、なぜあんなにも皆が皆僕との……フォースとの握手を求めるのだろう。


「日取り……ですか、一応どんな予定なのか聞いてもいいですか? 彼に伝えておきますから」


「本当か? そうしてくれっと助かるぜ……」


「ええ、それで、会場とか日取りとかはいつの予定なんですか?」


「あぁ、日取りはまだ先のことだからな伝説の騎士の都合のいい日に合わせられるし、急ぐ必要もねーんだが。会場はこの前の祝勝会と同じようにクリハバタイ商店と提携をして開催をしたいと思う」


迷宮教会の襲撃により、焼き払われてしまったクリハバタイ商店であったが、


死からよみがえったトチノキと、怪我の治ったリリムはその後尋常ではない速度で店を盛り返し、祝勝会で味を占めたのか、ついこの間大きなイベントの管理運営の仕事も請け負うようになったという報告をリリムさんから受けた……。


流石はクリハバタイ商店……転んでもただでは起きないようだ。


しかし。


「祝勝会規模って……そんなに人が集まるかなぁ?」


確かに伝説の騎士のファンである冒険者はそこそこいるとは思うが……街の冒険者や王国騎士団員が丸ごと収容できるほどのあのイベント会場は広すぎなのではないかと僕の中で不安がよぎる。


「何言ってんだウイル……もはや伝説の騎士はこの国の英雄で、俺からいわせりゃ英雄王ロバートの最盛期の人気もしのぐほどなんだぜ?」


「……ロバート以上って……さすがに」


英雄王ロバート、今は迷宮攻略失敗から愚王だとか狂王だとか言われているが、スロウリーオールスターズのリーダーとして部族戦争を終結をさせた最盛期では、その人気により演説を行った際、隣町まで民衆の歓声が響き渡ったという伝説が残されているほどの大英雄だ……。


そんな人間以上の人気が、伝説の騎士にあるとは到底思えず、僕は首をかしげてしまう。


「嘘じゃあないし冗談でもねぇ……伝説の騎士には悪いが、ついでに冒険者の王都襲撃報酬だけじゃなくて、一般の人間にも有料で握手券を配布しようと思ってるんだ……そうなりゃ相当儲かるぜこりゃ」


「はぁ」


楽しそうに瞳を金貨のように光らせながら、ガドックはそろばんを叩くようなしぐさを始める。


「ふぅむ、しかしいいのですかガドック? あのイベント会場で」


「なんでだ?」


やはり冷静なサリアも、あの会場の広さは少しばかり広すぎだと気が付いたようで困ったような表情をしてそうガドックに問う……そうだよね、あれだけの広場の会場いくらなんでも。


「あの程度の広さじゃ足りませんよきっと……」


何を言っているんですかねサリアさん。


「伝説の騎士フォースは至高の騎士であり、既にアンドリュー軍幹部フランク並びに諜報機関アンデッドハントの一人を打ち倒している。 さらにはエンシェントドラゴンを一撃で屠り、街を灰燼と化す劫火をそのスキル一つで守り切った大英雄です! そんな大英雄の握手会になぜあの程度の広さで間に合うのでしょうか? 私としては拳闘の街スパルコニクスの大闘技場八つ分くらいの広さがなければ足りない……いや、下手をしたら暴動が起きてしまう恐れがあると進言します」


大闘技場八つ分って、王都リルガルムの面積の四分の一くらいになってしまいますよサリアさん。


「……が、外国からもたくさんお客さんが来ると思います……他国の王族も……」


来ないよ。


どんだけ他国の王族暇なんだよ。


「ふーむ……まぁサリアのいうことはもっともだ、少しリリムの奴と相談してみることにするわ」


前向きに検討されてるー。


なんでだろう、この国の人たちってレオンハルトも含めて伝説の騎士のことになると途端に頭が悪くなる気がするのだが、これも魔王の鎧のせいなのか?


「ええそうですとも!」


誇らしげにサリアは胸を張ったのち、僕に向かって得意げにウインクをしつつ親指を立てる。


現在彼女の頭の中には大喝采と大歓声の中で伝説の騎士をたたえる民衆の姿が思い浮かべられているのだろう。


そしてカルラは……。


「……他国の機密情報……有益……ウイル君のため」


何やら不穏な言葉が口元からぽろぽろとこぼれているが、可愛らしいガッツポーズをしているためとりあえず見なかったことにしておこう。



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