22.アークメイジ・シオンが仲間になった
「おお!? もう連れ戻してくれたのか! 感謝するぜウイル!」
ギルドに戻るとまだ太陽は煌々と空に輝いており、ギルド長ガドックが僕達を出迎えてくれた。
時間としては短かったが、疲労は一日中迷宮にもぐっているよりもよりハードに感じる。
「自ら敵の中に飛び込んでいくようなものですからね、クエストというものは」
とサリアは言ったが、単身で突っ込ませたのは彼女である。
「まぁでも、その甲斐はあったわねぇ」
しかし、一番危険な目にあったはずのティズはのど元を過ぎればなんとやらの体現をするかのごとく満面の笑みを浮かべながら、金貨の入った袋に頬ずりをする。
危険極まりなく、本気で死ぬかとも思ったがふたを開けてみれば、無傷で短時間にクエストをクリアすることができ、報酬も金貨三十枚と予定よりもはるかに多額の金貨が僕達に与えられた。
「迅速な殲滅の報酬に、無傷でお譲ちゃんを救出してくれた分追加報酬さ、満足なんてものじゃない、パーフェクトだウイル、サリア それにティズ!」
「ありがとうございます、ガドック!」
嬉しそうにガドックは金貨袋に喜んでいる僕達に向かいそう語り、僕達はガドックにお礼を言う。
「いいってことよ。それはそうとお前達、これからどうするんだ? まだ昼だが、酒盛りをするってんなら用意するぞ?」
「本当!?」
ティズは目を輝かせ、ガドックの周りを騒がしく飛び回るが、僕は少しだけ考える。
確かに、初めてのクエストクリアの祝勝会を開く予定ではあった。
みんながまだ迷宮にもぐっている今なら誰の迷惑も気にせずかつ貸しきり状態で祝勝会を楽しむことができ、混み始めた頃に早めに帰ることも出来る。
特に用事がなければこのまま祝勝会を始めてしまうのがよいのだろうが。
「……いや、やめておきます。夜にまた来ますので、そのときに」
僕はその申し出を丁寧にお断りをする。
特段昼から飲む必要もないし、何より早く帰ってきたならば、新しい家族の分の生活用品が必要になってくる……休みの日にでも済ませてしまおうと思ってもいたが、せっかく時間が出来たのだから今日やってしまったほうがいい。
「そうかい、じゃあ席は確保しておいてやるから、好きな席を選びな」
「何から何まですまないな、ガドック」
「それこそ気にするない。オークの巣なんて、向こう三週間放られっぱなしになること確定だった面倒な依頼を二つ返事で受けてくれたんだ。これぐらい気ぃ使ってやれなきゃバチがあたるってもんよ」
「じゃ、じゃあ、いつもの座席をお願いします」
「あいよ」
ガドックは笑顔で僕達をたたえてくれ、僕たちはガドックと分かれてギルド・エルキドゥを後にする。
「で、酒盛り拒否って外に出てくるってことは何か大事な用事があるんでしょうね?」
ティズはいつもよりも低空飛行をしながら肩を落として僕にそう問いかける。
見るからに不機嫌そうだが、僕にだって大事な用事がある。
「サリアが僕たちと一緒に暮らすことになったからね、必要なものが増えるだろ?
だからその買い物に街まで出ようと思うんだ。 冒険者の道以外にあまり行った事もないし、たまには気晴らしでもどうかなって思って」
「街? ……そ、そう。 ならしょうがないわね」
ティズは仕方ないなという表情を作るが、楽しみで先程より三倍の高さを飛んでいる。
「嬉しそうですね」
「行けなかったからね……迷宮にもぐってばっかりで」
彼女がひそかにこの町で買い物をしてみたいと思っていたことは分かっている。
思えば彼女には随分と苦労をかけたし、彼女のやりたいこととか何もかもを投げ捨てて僕についてきてくれているのだ。
甘いといわれるかも知れないが、たまにはお酒以外のご褒美をあげてもいいだろう。
「では、これから街に出る……ということでいいのですね。 ご一緒しても?」
「当然だよ。サリアの生活用品を買いに行くんだから」
「ありがとうございますマスター……何から何まで」
「気にしないで、僕が勝手にやりたいだけだから」
「マスター……」
サリアは一瞬困ったような表情をした後、満面の笑みを作ってくれる。
これだけで何でもしてあげたくなってしまう……天使の微笑だ。
「うーいーるー?」
後ろに鬼もいた。
「じゃ、じゃあ! 街にしゅっぱーつ!」
「おー!……です」
「いやったーー! 私も街にでるの初めてー!」
……ん?
なにか関係ない声が一つ混じっている。
後ろを見るとサリアがのりのりで腕を掲げている。
そこにはさも当然のようにシオンがいた。
「なんでアンタがいるの?」
「え?」
ティズの言葉の意味がわからないとでも言いたげに、シオンは目を丸くする。
「なんでって、え? 私達もう……仲間、だよね?」
「正式にパーティーメンバーに入れた覚えはありませんが」
「えええええ!? だって苦楽を共にしたんだよ!? 協力してオークの巣を殲滅したじゃない!? もう仲間だよね ね?」
「……アンタは唯のクエストの依頼品。何で所構わずメルトウエイブぶちかますような危険な女を仲間にしなきゃいけないのよ?」
「うううううううう……そんなぁ……おねがいだよぉーー! ちゃんと言うこと聞くからあああ~!?」
冒険者の道のど真ん中で――しかもアークメイジレベル10――が大泣きをして僕に追いすがる。
人の目が痛い。
ヒソヒソ声が心に刺さる。
「ウイルから離れなさい! この爆発女!」
「もうどこも、どこも私を仲間に入れてくれないのおお!? お願いしますウイル~!? 私を仲間に入れてーー!? 頑張るから! 私頑張るから~~何でもするからぁ!」
……段々可哀想になってきた。
「……あー。二人とも……その、仲間に入れてあげてもいいんじゃないかな」
「はああ!? またやられたかエロウイル!? ロリコンか!? ロリコンなのか!?」
「ロリコンじゃないけど……その、なんかかわいそうだし……」
「ういるうううぅ!?」
鼻水を飛ばしながら鼻水と涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらシオンは僕にすがりつく。
どうしてみんな僕の服で鼻水を拭くのだろうか……。
「うううぅ!? さ、サリア! 何とか言ってよ」
呆れたようにティズはサリアに助けを求めるが、サリアは少し難しい表情をした後。
「……マスターが気に入られたのであれば、文句はありません。性格に問題はありますが、彼女の魔法は強力だ……私やティズでは無理でも、マスターであれば上手く手綱を握れるかもしれませんね」
色々と過大評価と買いかぶりのオンパレードではあるが、サリアはシオンの加入には異論はなさそうだ。
「ダメかなティズ?」
「うううぅぅぅ!? ちょっとアンタ!」
「は、はい!?」
「私やウイルの髪の毛一本でも燃やしたらすぐに追い出すからね! そのつもりでいなさい!」
「分かりました! ありがとう! ありがとうございます!!」
二人の言葉に反対するのは得策ではないと判断したのか、ティズはふてくされながらも渋々とシオンのパーティー加入を認めてくれる。
「……まぁ、馬鹿なら裏切る心配もないし丁度いいのかもしれないわね……そういうことにしておきましょう。 うん」
なにやらぼそりとティズが呟いたような気がしたが、上手く聞き取ることが出来なかった。
まぁ、シオンに敵意のある言葉のようには思えなかったしまあ放っておいて大丈夫だろう。
「……とまぁ、急遽だけど、よろしくね、シオン」
二人の了解を得た後、僕は泣きじゃくりながら土下座をするシオンを立ち上がらせて、握手をする。
「……ウイル……ありがとう……ありがとう!? 私、頑張るよ!」
よっぽど嬉しかったのだろう、仲間になったら仲間になったで嬉しさのあまりおお泣きをしながらその場で飛び跳ねている。
色々と不安の残る新パーティーメンバーであるが、魔法の腕はサリアも認めているわけだし……きっと大丈夫だ……きっと。
そう僕は自分に言い聞かせながらも、とりあえずは課題であった魔法使いをパーティーに迎えることが出来たことを喜んでおくのであった。
アークメイジ・シオンが仲間になった。
今思ったけど、この主人公女の子に土下座させすぎじゃないだろうか……。




