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235.転生者リューキと灼熱に住まうセイレーン

一月前…… ~パーティー・リューキ~ 迷宮五階層


「あーあっつい……ふざけてるでしょこの暑さ……空気も薄いしもう最悪……」


一人のエルフの少女はそうため息を漏らし、赤々と煮えたぎる岩石をブーツで一つ蹴とばす。


ここは迷宮五階層にある、灼熱の大地。


煮えたぎる溶岩があたりを埋め尽くし、人々も魔物も溶解しつくす冒険者最初の関門といわれる場所である。


その室内の温度は200度を超えており、第五階位魔法を習得していない冒険者がこの地に踏み入れれば、数秒と命を保つことができない……。


また、たとえ歩を進めることができたとしても、この過酷な環境下で生き残った魔物が生半可な力を持つものであるはずもなく……。


更に下層は、この灼熱地獄でさえもぬるま湯に感じるほどの地獄が広がっている。


ここから先、六階層以降に進める冒険者のパーティーは世界中のギルドを探しても数えられる程しか存在しない。


ギルドエンキドゥだけに絞れば、それこそ五・六組だけであり、五階層よりも下にもぐることができる冒険者たちを、人々は親しみを込めて【S級冒険者】と呼ぶ。

――特に冒険者たちにC級とかA級とかはないのだが……5とSの文字が似ているからというのが定説である――


かつて、アンドリュー討伐にロバート王が兵士を派兵した際も、この階層が原因で進軍を断念せざるを得なかったという逸話もあるほどであり、その逸話に寸分たがわず、このリルガルムの迷宮は、後半である五階層よりその姿を急激に変化させる。


過去最難関と呼ばれる迷宮……リルガルムアンドリューの迷宮……。


この灼熱地獄でさえも……この迷宮の恐ろしさにとっては、序の口でしかないのだ。


そして、そんな空間を何の気もなしに歩くパーティーこそ、先ほど説明したS級冒険者の内の一つ……戦士・リューキ率いる、三人組という異色のパーティーである。


「ねーリューキ~! リューキさーん! こんなところに本当にセイレーンなんているんですか~?」


エルフの少女はむくれたように一度汗を拭うと、悪態をつくように杖で足元に流れる溶岩を叩く。


溶岩が水しぶきのように跳ね、突き出た岩に当たりじゅぅっと大きな嫌な音を立てるが、誰も気にせずにさらに前に進んでいく。


「……ちょっとー! 聞いてるリューキさーん!」


「聞こえてるけどあえて無視してるんだっつーの」


そんな悪態をつくエルフに対して、うんざりするような言葉を発する戦士。


彼こそが戦士リューキであり、かつて吸血鬼の軍勢から小さな村を救ったという伝説を持つ人間の戦士である。


一説には、この世界の人間ではなく、特殊なスキルで、他人と自分のスキルを交換することができる……といわれているが、それが本当かどうかは謎に包まれている。


「無視するって何よ!? ちょっとひどいんじゃない!? 魔道王国エルダン国立魔法大学主席の私に向かって……! こんな仕打ち!」


そしてぎゃーぎゃーと文句を垂れる少女が、アークプリーストであるエルシアである。


かつて魔道王国エルダンにて魔法を極めたのち、ひょんなことから戦士リューキと出会い、彼と共に冒険をすることになる……根っからの学者肌であり、現在奇跡のメカニズム解明の為にアークプリーストに転職……リューキの持つ伝説は、彼女があればこそであり、二人の名コンビぶりはもはや夫婦の領域であり、よくギルドで噂になるのだが、本人たちは否定をしている。


「騒ぐな暑苦しいんだよバカ! だいたい、迷宮五階層に現れるセイレーン討伐なんて依頼受けたのお前じゃねーかよ!」


「うぐっ!? だ、だって階層が五階層の割に報酬の金額もよかったから……内容見てなかったっていうか」


「あぁ知ってるよ、お前にそれで三回は殺されたからな!? 」


「それはコラテラルダメージというものよ! 大いなる目的を達成するための、致し方ない犠牲という奴なのよ! 現に、貴方の犠牲のおかげで目的は必ず成就されているわ! ギルドの冒険者で、任務失敗回数ゼロなんて偉業を成し遂げているのは私たちぐらいだもの! よっ、さすがリューキさん! これからもバンバン死んでね!」


「毎回なんでお前ばっかり生き残って俺ばっかり死ぬんだよ!? たまにはお前も死にやがれ!」


「私が死んでもし私という偉大なる頭脳が消滅したらどうするつもりよ!世界の大損失よ? その点量産型戦士のリューキさんなら死んでも変わりはいるし」


「よーしエルシア。 【囮の加護】 のスキルお前に受け渡しといたから、頑張って敵惹きつけてくれや」


「いやあああぁ!? ちょっとアンタ【スキルチェンジャー】使って何てことしてくれてんのよ!? 早く戻しなさいこの馬鹿!」


「ついでに、防御系のスキルを俺のところに全部移してっと」


「ちょっ!? あっ、リューキさん! ちょっと、リューキさんごめんなさい!? 調子に乗った! 私調子に乗っちゃった! ねぇ、謝るからお願いしますもとに戻してえ!」


ぎゃーぎゃーと騒ぎながらも、前に進む二人、その様子を少し後ろの方から見つめながら、ノームの盗賊であるフットは一つ腰に下げている懐中時計を見やる。


弓を操る彼は、かつては森を守るノームの戦士であり、百発百中の暗殺者であったが、守るべきはずの獣王がリルガルムの迷宮へと連れ去られた原因を探るために、このリルガルムの迷宮探索をリューキたちと共に行っている。


「……あ……エルシア……魔法切れる。 後五分……掛けなおして」


「あら、もうそんな時間?」


「結構歩いたからな」


先ほどまで争っていた二人は、その言葉にピタリと喧嘩をやめ、エルシアはすぐに杖を取り魔法の呪文を唱える。


【水のベール!】


短い詠唱と共に放たれたのは、第五階位魔法水のベール、炎耐性を高める魔法であり、この迷宮五階層を探索するには必須の魔法となる代物であり、この魔法こそ、この五階層の生命線となる。


「ついでにこっちもかけなおしておこうかしら」


そういうと、水のベールをかけ終わったエルシアは、同じく水のベール同様切れかかった魔法を再度かけなおしていく。


【守りの盾!】 【サンライト!】 【モンスターライブラリー!】


三つ連続でかけられるのは、迷宮攻略で基本とされるバフ魔法である。


守りの盾は、アーマークラスを下げる魔法であり、重ね掛けができない分長時間パーティーの周りに漂う魔法の盾を作りだす。


サンライトは迷宮を照らし、隠された罠を照らし出す魔法であり、そしてモンスターライブラリーは、魔物の種類や種族特徴や弱点を一目で看破する魔法である。


どれも、基本的な魔法であるが、レベルに左右されず、最下層まで使える魔法であるため、冒険者にとってはかなり重宝をされている。


基本の積み重ねこそ最大の力である……迷宮の冒険者が最初に必ず覚えることになるスロウリーオールスターズ、英雄王ロバートの格言であり、その言葉を、彼らは最も真摯に受け止め、実行しているパーティーの一つであった。


「よっし、あたし天才!  無詠唱で四つも魔法発動できるようになったのよ!」


「また腕を上げたな……エルシア……さすがだ」


「んもー! 褒めても何も出ないんだからね! フット!」


褒められて調子に乗ったのか、ノームのフットを抱き上げてエルシアはくるくると回る。


「……下ろして」


迷惑そうだ。


「ほらお前ら、魔力も無限じゃないんだろ? 魔法を張りなおしたんだから、さっさと先に進むぞ」


「はいは~い……」


「あの……下ろして」


抱えられたフットはそのままに、リューキたちはさらに迷宮五階層の奥を目指す。



正しい冒険者の冒険の仕方を、転生者 リューキさんが教えてくれる回……。


いきなり変な奴が出てきたと思うかもしれませんが、彼らは王都襲撃編でサリア・シオンと共に戦った戦士であり、実はすでに出てきています。


ダンデライオン一座と同じく、これから先、彼らもまたウイルの迷宮攻略に大きくかかわってくることになるので、こうして登場をさせています。

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