エピローグ2 マッスルアームレスリング にかいめ
「楽しんでいますか? マスター」
にこにこと微笑むサリアは、怪我も治りきっていないのに酒をあおっており、僕はそんなサリアに苦笑を一つ漏らす。
「まぁ、僕は楽しんでいるけど、本来怪我の完治していない君が、楽しんでいるのもいかがなものかと思うけど」
「それは心配には及びません、シンプソンにも許可はいただきました。 臓器の損傷は完全に修復したために、もうお酒を飲んでもいいとのことです……外傷は完治とは言えないので、つぶれるほどは飲まない様にとは念を押されましたが」
「そっか、ちゃんと分かってるなら何も問題はないよ。 本当は君の怪我が完治するのを待ちたかったんだけどね」
「そうなのですか?」
サリアは僕の言葉に意外そうにそういう。
「うん……だって、今回一番頑張ったのはサリアだろう?」
潰れるまで飲ませてあげたいというのが本音だが、それを待つと先延ばしになりすぎてしまうので……仕方なく一週間後となってしまったのだ。
「そんな、私は、ただマスターをお守りしていただけです」
サリアは僕の言葉に謙遜をするような表情を見せるが、一度周りを見回してため息を漏らす。
「ですがただ……確かに、今回ばかりは骨が折れました……心も体もボロボロです」
苦笑を漏らし、冗談めかしてサリアはそういうが……。
自分にかけられた呪いに一度だけ触れたのを、僕は見逃さなかった。
……カルラは、両親に愛され、その愛を取り戻した。
だけどサリアは……サリアはずっとこのままなのだろうか。
だとしたら……僕はこんなボロボロのサリアを……救うことは出来るのだろうか。
「どうしたのですか? マスター」
「え?」
気が付けば僕はサリアのことをまじまじと見つめてしまっていたらしく、怪訝そうな表情をするサリアにそう問われ、慌てて飛び跳ねる。
「もしや、どこか具合でも悪いのでしょうか?」
「いや、そんなことないよ! うん、【リビングウイル】のスキルもあるからね! うん、全然平気……」
「そうですか、それならばいいのですが、無理をしてはダメですよ?」
「うん、ありがとうサリア……あ、そういえば」
「はい?」
「魔法の練習は続けているのかい?」
魔法が使えない原因が呪いであるとわかったサリア。
そのため、呪いを解くことに専念さえすれば、サリアは魔法を使用することができるようになるということだ……。
つまりそれは、今習得している魔法の使い方を続ける必要はないということだ。
それに……悪意を持ってかけられた呪いを……そのままその身に背負い続けることはきっと、サリアにとっても不幸でしかない……。
しかし。
「ええ、今はまだオーバードライブしか使用できませんが、現在は他の魔法を習得する為に、シオンと二人で訓練中ですよ?」
サリアはあっけからんと言い放つ。
「え? いいの? 呪いは?」
「呪いはシオンの方が解呪の方法を探してくれると言ってくれています。 魔法の使えない私が、どうこうできる問題ではないのでそれはシオンに任せ、私は引き続き魔法を磨くことに専念する! ことにさせていただきます……誰も使用できない技術を使っての魔法行使……ええ、素晴らしいですもの! そうおいそれとこの技術を手放すなんてもったいないじゃないですか」
サリアは瞳を輝かせながらそう僕に語り、僕はその様子に先ほどまでの不安や心配事が彼方へと放り投げられてしまう。
「そ、そうなんだ……それはよかったよ」
「ええ! 私は本当に幸せ者です! 素晴らしい師を得たのですから!」
「前々から思ってたけど、君って本当にポジティブだよね」
「聖騎士ですから」
どこまでもポジティブなサリアに僕は苦笑いを浮かべる……まぁ、サリアがいいと言っているのだからいいのだろう。
「まぁ、それは良いとして……ありがとうサリア……君がいなかったら、僕はカルラを助けることは出来なかったし、ブリューゲルにとっくに殺されていた」
「主を守るのが剣であり盾である私の使命……当然のことをしたまでです。 むしろ、三度ブリューゲルを殺すことができる場を得ながらそれをなすことができず……結局、主を一人死地に赴かせてしまった……申し訳ございませんでした……私は聖騎士として、貴方の剣……貴方の盾として……なんの役にもたてなかった」
ブリューゲルのもとに僕を向かわせてしまったことをサリアはまた思い出してしまったのか、どんどんとその声は沈んでいき……やがてうつむいて謝罪を始めてしまう。
深々と頭を下げるサリアに、僕は慌ててその頭を上げさせる。
「その謝罪は、一週間前に一晩中受け取ったから! もう謝らないって約束したでしょ!」
「う……そうですが……そうなんですが……やっぱり、マスターが結局損ばかりしてしまっているような気がして……」
「カルラという強い仲間も手に入ったし、最高峰の諜報機関も手に入れた……何も悲観することはないと思うのだけど」
「それはそうですが……しかし、ラビの力をシンプソンにあげてしまうというのはやはりよかったのでしょうか? 責任をもって私が迷宮で金貨を集めてきた方がよかったのでは」
「怪我人の君にそんなことさせられないでしょうに……それに、あんな力の塊みたいなもの、僕が持っていたってしょうがないよ……シンプソンはお金にしか興味ないからね、あの力を悪用するとは到底思えない……」
古代の大量殺傷兵器でさえも、彼の前ではただの骨董品……金貨としてしかみれないような人だ……ラビの力も、悪用しようだなんて思いつきもしないだろう。
そういう点では僕は、シンプソンという人間を信用していた。
「まぁ、たしかに……ああいう人に渡しておくのが、一番安全なのかもしれませんが」
「そういう事。 なんか、金貨一億枚分くらいの価値があるらしいじゃない、あの大きさのフェアリーストーンは……」
「ええ……ですがフェアリーストーンを手に入れることはそれ自体が今では法律違反です……もはや市場に出回ることもありませんし、あれだけの大きさのものを国の機関に悟られずに金貨へと変えることは不可能でしょう……大きな足を持つ宝石です」
「……それでも宝としてシンプソンはすごい気に入ってくれたし、僕たちには何のマイナスもない……それでいいじゃないか」
「むぅ……しかし」
サリアは少し不服そうな表情をして、何かを語ろうとする。
と。
「「「「おーーー!」」」」
先ほどまでシオンが上がってた舞台の方から歓声が上がり、僕はふと視線をそちらに移すと。
「シオン?カルラ?」
「と……レオンハルト」
そこには、にこやかな笑顔で壇上に上がり、見るからに酔っぱらっている表情のまま、皆に手を振るカルラとシオン……そして王国騎士団長レオンハルトの姿があった
「はて、一体何をするつもりでしょう?」
どうやらサリアにも何が始まるかわからないようで……僕たちはしばらくことの顛末を見上げていると。
「レディ―――スエ――ンジェントルマーーン!! 本日が吉日かどうかよくわかんないけど! このおめでたい日に! 早くもあの伝説の大会が一週間ちょっとぶりに帰ってきたよー!」
「……この流れは」
僕はあたりを見回すと、遠くの方で悪夢を見る様な表情のガドックとムーア・アンゴルを発見する……。
「マッスルー! アーーーーンム! レッスリイイイイング!!」
シオンの高らかな宣言により、会場は沸き立ち。
「なぜ! なぜ私を呼ばないのですかシオン!」
「壇上破壊するからだろう?」
「はうっ! ここっ、今度はそんなことしませんよ!」
「本当? まぁそれはそうと、あの様子だとレオンハルトとカルラが戦うみたいだけど」
「……なかなか余興としては面白いじゃないですか……カルラがどこまでできるのかを調べることもできますし」
「……死なないといいけど、彼」
「丈夫なのが取り柄みたいなので大丈夫じゃないですか? 伊達に王の盾をやっているもふもふではありません」
「もののふね」
「…………かんじゃいました」
顔を赤らめるサリアを僕はとりあえず見ないであげ、壇上におどおどと緊張の面持ちで立つカルラに手を振ってみる。
可愛らしく控えめに嬉しそうにカルラは手を振り返してくれた……。




