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21.シオン怒りのメルトウェイブ

「準備は大丈夫ですか? シオン」


「うん。怒りに燃えた私のハートをもはや誰も止めることは出来ないよ!」


「いよっしゃ! じゃあ、派手な花火をどかんと打ち上げるわよ!」


「不安だ」


なぜかすっかりと意気投合をしてしまった様子の三人組は、乗り乗りで陣形を組んで大魔法を放つ準備を開始している。


「えーと……本当にやるの?」



一抹の不安を覚えながらも、僕はサリアに問いかけるも。


「安心してください!」


サリアはそう力強く笑いかけてくる。


マスタークラス聖騎士サリアさんが提唱した作戦はこうだ。


まずオークの巣の広間で騒ぎを起こし、オークたちを呼び寄せる。 


適当に二三匹をあしらった後は、壁の近くまで走って逃走。僕はメイズイーターの能力でオークの巣から脱出をする。 そして僕が脱出をしたあとに、シオンが殲滅魔法をズドン。残った敵をサリアが殲滅! 単純かつ効率のよい作戦ではあるが……。



この作戦、オークに取り囲まれた僕はその包囲網を突破してオークの巣から脱出しなければならないという大きな難関が用意されている。


というか、サリアがいるのだからこんな危険なことをしなくてもオークの巣の殲滅は出来るのに。


ちらりとサリアを見てみると、まぶしいまでの笑顔。 僕が失敗するなんて露ほども思っていない表情だ……。 そんな目で見ないでくれサリア、そんな目で見られたらできないなんていえなくなっちゃうじゃないか!?


「大丈夫! ウイルならできるわよ、自信もって!」


あ、ティズの奴自分は安全地帯にいるからって……。


「何を言っているのですかティズ。 貴方も行くんですよ」


「へ?」


「繁殖期のオークのおとりとして、私では彼らの襲撃対象にはなりません。 シオンは当然いかせられませんし。ティズしかオークの囮になる人間は存在しない」


「えええええええええ!?」


「大丈夫です。 そのためにマスターも同行するのですから。 心配はありません」


「いやいやいや!? 心配しかないわよ!? もしウイルが途中で死んじゃったらどうするのよ」


「集まった所で魔法をぶっ放すよ!」


「くおらあー!? そこは助けに来なさいよ!! こんなのふざけてるわ!ウイル、アンタも何か……」


「いこうかティズ」


この分だと襲われるのはティズだけで済みそうだ。


「ちょっウイル、アンタまさか……いざとなったら私をおいていけば大丈夫とか思ってるでしょ!」


「ソンナコトナイヨ」


「思ってらっしゃる!? その顔は思ってらっしゃるやつだ!? ちくしょー! 死んだら化けて出てやるんだから!? 夜な夜なアンタの枕元で呪いの歌をささやいてやるんだからああああ!?」


「亡霊は迷宮の結界を突破できないから頑張ってねティズ」


「この人でなしいいいいいい!」


叫ぶティズの羽をつまんだまま僕は殲滅の完了したオークの住居から出て作戦を開始する。                  

ホークウインドを抜き、オークの巣の広間へと進んでいく。


広間ではオークたちが焚き火をしながら何かを焼いている真っ最中。


魔物の肉だろうか? 香ばしい香りがあたりに充満しているため、僕の匂いにオークたちは気付いていない。 思ったよりも近くに近づけた……これなら。


「はあああ!」


バックアタックを仕掛け、肉に食らい付くオークへと一撃を叩き込む。


「があぁ!?」


悲鳴を上げながらオークは倒れ、緩慢なオークたちの意識も目前の焼けた肉から、新しく誕生した肉塊へそして招かれざる来訪者へとうつる。


「がああああああああ!」


咆哮。 


繁殖期のオークたちはまさに飢えた狂戦士というイメージがぴったりと当てはまる。 敵の到来と仲間の死に臆することも動揺することもなく、剣を取り僕へと走る。


「はぁ!」


振り下ろされた剣をかわし、オークの頭に剣を突き刺し二体目を倒す。


「ああ、おっぱじめっちゃったぁ!? あああもぅこうなりゃヤケよ!」


ティズは半ばやけくそ状態で飛び上がり。



「サンライト!」


上空で光 の魔法を発動し、上手く注意をひきつける。


「があ♪」 「おおあああ♪」



しかし……明確な敵が目の前にいるというのに、女性へと興味と関心をすぐに奪われるあたりはオークといったところのようだ。


「まぁ」


そっちの方が好都合だけどもね。


目を奪われたオーク二体にバックアタックを与え、絶命させる。


「がああああ!」


「うっわわ」


倒れていくオークの陰から斧が横なぎに僕へと迫る。

騒ぎを聞きつけてきたのか……オークの数が増えてきた。


あたりを見回すとぱっと見ただけでも20体のオークがこちらへと進軍を開始している。


この程度なら……もう少しいける。


「やーい!いくらでもやってきなさいよ! あんた達なんてウイルがやっつけてやるん……」


瞬間、迷宮が揺れる。


「だか……あらららら?」


迷宮内の部屋から現れる巨大な体躯に、うなり声……。 扉を破壊しながら現れたそれはオークではなく。 オーガだった。


「どどどどーしてこんな所にオーガがいるのよ!? 4階層の敵でしょ!?てかなんでオークの巣にこんなのがいるのよ!」


「それはねティズ、オークは外の世界では外敵から身を守るためにオーガと一緒に暮らす習性があるんだ。 オーガは強いけどそのでかさで食料を上手く取ることが出来ないから、オークのボディーガードとして働いて食いぶちを稼ぐんだよ!」


「分かりやすい解説ありがとう! でも冷静にウンチク垂れ流してる場合か! てかなんでこのタイミングでそんなのがオークの巣にいるのよ!?」


「運が悪いからだよ!」


「犯人あいつ(サリア)かああああ!?」


振り下ろされる棍棒は、集会場の焚き火を破壊して迷宮の大地を抉り、風圧でオークが数体吹き飛ばされていく。


「ちょっとどうすんのよウイル!?」


「どうするって……もう少し時間を稼がないとだし、戦うしか……」


「があああああああああああああああ!!」


「っ無理! 逃げるよティズ! 作戦開始!」


「全力をもってイエッサア!」


壁に向かい僕とティズは全力で疾走を開始する。 オークは発情をした時の声と殺意を入り混じらせた奇怪な声を発しながら、オーガと共に僕へと走る。 いつの間にか騒ぎを聞きつけたオークたちが集まってきており、取り囲まれつつあった。


「突破するよティズ! しっかりつかまってて!」


「言われなくても!」


取り囲むようにつくられたオークによる鳥篭、その一番手薄の部分に僕はホークウインドを構えて突撃をする。


「がっ!」


反射的に振り下ろしたオークの棍棒がかすり、頭から赤いものが流れるが、代わりに刃はオークの腕を落とす。


「道を開けろぉ!」



体を翻し、その隣から迫り、棍棒を振り上げたオークの胸部を切る。


浅い…が、オークは脇の腱を斬られ、力なく棍棒を取り落とす。 道が出来た。


「っよし! 脱出だ!」


壁に向かってひた走る。


「バアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


「ちょっ!? ウイル後ろ後ろ!? 」


「わわわわ!?」


緩慢なオークよりも動きが緩慢といえど、この閉じた空間では一歩が大きいオークには簡単に追いつかれてしまう。 気が付けば僕達の背後には巨木のような棍棒が迫っていた。


その速度はとても速く、風切り音は角笛でも吹いているかのように重く低く響く。


迫っている、それだけでも空気を振動させている目前に迫る其れは、触れただけでも全身が木っ端微塵になることは簡単に予測が出来る。


「やばいって!? 早く! ウイル早く!」


半泣きでせかすティズだが、こちらだって既に全力で走っている。


「っく!? メイズイーター!」


壁へと手を精一杯伸ばし、僕はスキルを発動する。 崩れる壁に、迫るオーガの棍棒。


もはや脚の一本は仕方ない!? 


僕は崩れる壁に向かってとび込む。 迷宮が再度揺れる。 三メートルを越えるオーガが、巨木に等しい棍棒を力の限りにたたきつけたのだ。


迷宮の床には亀裂が入り、迷宮は地響きを起こし、ただでさえ反響する迷宮内で轟音が龍の轟きよりも騒がしく響き渡る。


「ぐっ ぷはああ!?」


崩れた瓦礫の山から這い出し体を起こしてみてみると、つま先ぎりぎりの所にオークの棍棒が見え、迷宮の壁にあいた穴の中に僕達はいた。


「……あ、あぶなかった、後数センチ足りなかったら脚がなくなってた」


僕は目前のオークの棍棒と自らの想像にぞっとする。


「何ぼうっとしてるのよアホウイル!? 早く逃げるわよ!」


呑気にほうけている僕に肩に掴まっていたティズはぺしぺしと僕の頭を叩く。


ティズの言うとおりだ。 地響きでオークたちが身動きが取れなくなっている今の内に……サリアに合図と、脱出を!


「シオン! 今だ!」


大声で作戦実行の合図を叫ぶと同時に僕はオークの巣から脱出をした。                     ◇


「シオン! 今だ!」


「いけますか?」


響くマスターの声に合わせて、私はそうシオンに問いかけるが。


「もちろん! 私の杖をかび臭くしてくれたお礼は、百万倍にして返してやるんだから!」


愚問だといわんばかりに、シオンは魔術の詠唱を開始する。


【其は始原にして終焉の受け継がれし火  我と共に歩むは始原の火を継ぎし者。 我が言葉に答え、その身に灯る炎熱を滾らせよ!その力を持って愚者に終焉をもたらさん】


「ちょ!待ってくださいシオン!? それってメル……」


「ぶっ放すよ!!」


【メルトウエイブ!】


「えー……」


ほとばしる魔力の奔流は荒々しく遠くの


壁へと集まったオークたちへと集い。                

 爆ぜる。


大爆発などという生易しいものではなく、原初の炎がオークたちの身を文字通り焼き尽くす。


距離は結構離れていたはずなのだが、彼女の魔力量が凄いのだろう、威力は損なわれるどころか通常よりも大きな核爆発が広場で起こる。


焼かれるのがその身だけならばまだいい……その原初の炎は、魂さえも融解し消失させる。 後に残るはその肉体があった場所の影のみ……。


圧倒的な破壊……それが、魔術師の持つ最高の攻撃魔法。 核撃魔法とも呼ばれる、 魔術師が到達する究極魔法 【メルトウエイブ】だ。


迷宮第十階層、アンドリューでさえもその身に一度受けただけで絶命寸前まで追いやられた原初の炎である。 それを使える魔術師が一階層でオークに捕まっているというのも驚きだが、何よりも、 核撃魔法をオークに使うか……普通。


私は浮かんだ疑問と同時にシオンを見たあと、もう一度オークの巣の広場を見る。 燃えないはずの迷宮の壁や床から未だに炎が上がり続け、オレンジ色の光であふれる広場の様子はもはや大惨事。 


果たしてここまでやる必要があったのかどうかは甚だ疑問である。ーーというか意味ないーー


「魔法とはノリと勢い、怒りがあふれればスライムだとてメルトウエイブは避けられない。ついでに仲間も避けられない」


「あぁなるほど……あなた、追い出されたのですね」


「ほうあ!?」


どうでもいいことが判明した。        

                           ◇


直れ(リメイク)!」


破壊した壁を修復し、同時に響き渡った轟音に作戦の成功を悟る。


「どうやらやったみたいだね、ティズ」


「のようね」


どっと疲れがたまった気がして、僕はそのまま迷宮に座り込む。


は~……普通に真っ向から戦ってたほうが良かったような気がする。


「酷い目にあったわ」


ティズもティズで息を切らしながら僕の肩の上で寝そべってダウンしている。


「とりあえず……サリアと合流しないと」


「そうね」


重い体を引きずって、僕達はサリアとの待ち合わせ場所へとむかう。


あれだけの爆発音が響くということは、オークの生き残りがいるとは考えにくいが……万が一のことを考えてホークウインドは抜いたままにしておく。


メイズイーターで穴を開けても良かったが、どんな魔法を使ったか分からず、まだ効果も持続しているかもわからないので、作戦通りとりあえず正門でサリアたちを待つことにする。


めぼしいアイテムも宝箱もなかったし、オークの巣では恐らく探索をすることは無意味であろう。 とりあえずは……オークの巣の討伐はこれでひと段落である。


「あー疲れた、ここで座って待ってましょ?」


ティズはそういうと、オークの巣の正門前に座り込む。


「そうしようか」


僕もその言葉に賛同し、胡坐をかいてサリアとシオンを待つことにする。


と。


「ん?」


迷宮の奥深く。 ティズのサンライトの効力も届かない闇の中に、この洞窟には似つかわしくない道化師の姿が見えたような気がする。


「いや、なんかピエロが」


「はぁ? あんた頭でも打った? なんでこんな所にピエロがいるのよ」


「いやまぁ、確かにそうなんだけど」


ティズに言われ、もう一度同じ場所を見てみると、そこにはやはり先ほどのピエロは存在していなかった。 気のせいだろうか……。 


そんなことを考えていると、背後の扉が開く。


「ふっふー! シオンの凱旋でーす!」


あいた扉から当然だがシオンとサリアが現れる。 なぜだろう、オークの巣の中がとんでもない火炎地獄みたいになってるんだけど……。


一体何をしたんだこの二人。


「お待たせしましたマスター。 彼女のメルトウエイブの効果が弱まるまで時間がかかり、戻ってくるのが遅くなってしまいました」


メルトウエイブって……あの密室で核爆発かましたのこの子!?


「アンタ、オークにメルトウエイブ撃ったの? 頭いかれてんじゃない?」


ティズの突っ込みに、シオンは少し誇らしげな表情を見せ。


「そんなことないよー! 魔法は撃ちたいときに撃ちたいものを撃つ! 魔力ではなく、心で撃つのが魔法なのだよ!」


自信満々に胸を張りつつ宣言をするシオン。 あぁ、やっぱり残念な人だったんだ。 美人だけど。


「さてマスター。 今日のところはこれくらいで引き上げましょう。初クエストも無事に達成したことですし、彼女を送りとどけて解散としましょうか」


シオンの発言にサリアは苦笑いを浮かべて、そう宣言をする。


相当帰ってくるのが大変だったのだろう……核の炎だもん、あれ。


僕はため息を一つついた。 もう二度とサリアの策には従わないと、心に決めながら。             

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