エピローグ 勝利の宴と大騒ぎ
一週間後。
「ではでは! 我々の大勝利アーンドリリムっちの快気祝いと!そしてそして、新しい仲間カルランの歓迎をかねて!!」
「あと我の生誕記念日だな! ぬあーっはっは!」
「うるさいナーガ! ハウスだよーハウス!!」
「母上!それはあんまりにも……」
「うるっさいわよ爬虫類! そんなんほっといていいから始めなさいよ爆発娘!」
「はいはい! とりあえず色々とめでたいことが重なったんで!! ぜーんぶひっくるめてカンパ――イ!」
「「「「カンパ―――イ!」」」」
盛大にクリハバタイ商店一面にグラスが快音を響かせ、僕たちはシオンのグダグダな乾杯の音頭も気にすることなく、一気に麦酒をのどの奥まで流し込む。
街の傷はこの一週間ですっかりと綺麗に治り、同時に人々も呪われていたことなどすっかりと忘れたといった様子で、皆が皆勝利に酔いしれる。
まだ、王都の方はアンドリュー軍と迷宮教会の人間に襲撃された爪痕が残っているが……冒険者の道はもう元通りといった状態だ。
そう、現在僕たちがいるのは新たに立て直されたクリハバタイ商店。
いつものこじんまりとした身内だけの乾杯ではなく、今日は王国騎士団、クリハバタイ商店、ギルド・エンキドゥの冒険者たち、そしてクレイドル寺院の人々が集まり、こうして盛大な祝勝会を開いている。
というのも、本当はいつも通り僕たちだけで祝勝会兼カルラの歓迎会を画策していたのだが、サリアの傷が思ったよりも重症であり、外を出歩けるようになるまで一週間がかかるという点と、迷宮教会に襲撃された王都は、その機能の立て直しや、……ブリューゲルアンダーソン亡き後の迷宮教会の在り方の整備など問題ごとが山積みであったことから、それならばいっしょにまとめてしまいましょうというレオンハルトの鶴の一声と、復興記念と宣伝に一枚かませてくれというトチノキの要望により……このように街の人間を招待した
盛大な祝勝会を開催することになったのであった。
「あ……あわわっわわ……ひ、人がたくさん」
大騒ぎを繰り広げるみんなの中で、僕はカルラが離れないようにエスコートをしながらお酒をあおる。
カルラが手に持っているのは、カシスとオレンジのカクテルであり、乾杯から数分しかたっていないのに、顔を少し赤らめながらちびちびとお酒を飲んでいる。
「はぐれないようにね……」
「あ、ありがとうございます」
カルラの手を引きながら、僕はとりあえずカルラが目を回してしまわないように席を探していると……。
「あー!! ウイル君とカルラン発見―!」
先ほどグダグダな乾杯の音頭をしたシオンが、蜂蜜酒をラッパ飲みしながら手を振ってやってくる。
「シオン」
「やっほー!! 楽しんでるー?」
「ひ、人がいっぱいいるところなんて初めてで、目が回りそうですけれども……すごい、あったかい。 きっとこれが、楽しいってことなんですよね!」
「あっはっは、よかったよー! みんなで飲めばお酒は楽しいからね! 酔いは人を幸せにするのだー!」
「だからって、女の子がラッパ飲みしながら歩き回るのははしたないと思うけど?」
「えー、グラスと瓶を持ってたら杖が持てないよー」
「まぁいいけど」
「ところで、カルランは何を飲んでるの? 不思議な色だけど」
「え、あぁ、カシスオレンジを少し……あんまり酔って、はしたない姿をお見せするわけには……」
「ちゃんとお酒を飲まなきゃだめだよ、そんなんじゃ幸せになれないでしょーに……私が美味しいお酒沢山紹介してあげるよ!」
「えっ!? で、でも」
「無礼講無礼講! 友達同士なら! そういうところも見せあわないと!」
そういうと、シオンはカルラの手を引く。
その姿は見るからに新しい友達を喜んでいるようであり、カルラもまた。
「と、友達……」
友達という初めての存在に、瞳を輝かせている……この様子だとどうやら、僕はお邪魔になりそうだ。
「あ、あのウイル君! 私」
「いっておいで、シオン一人だと何しでかすかわからないからね、お守りを頼むよ」
「わ、分かりました!」
「あーー!! ひっどーいウイル君」
「ははっ……じゃあ、行ってらっしゃい。 まぁ大丈夫だと思うけど、あんまりはしゃぎすぎないようにね」
僕は頬を膨らませるシオンと、大喜びをするカルラに手を振って別れを告げると。
シオンとカルラはまるで子供の様に二人手をつないでどこかへ走り去ってしまった。
「ふふっ、ちゃーんと幸せにしてあげたんだね、ウイル君」
「ふん、今回は見逃してあげるけど、あんまり入れ込んだら承知しないんだからね!」
そんなほほえましい二人を見送ると、不意に背後から声がかけられ、振り返るとそこにはリリムとティズがいた。
「リリム、ティズ……珍しいね、二人が一緒だなんて」
「ふん、この女がウイルをつけ狙うなら、こいつと一緒にいたほうが手っ取り早いと思ってね」
「うん、そんな感じで、パーティー開始からずっと付きまとわれてるの」
「あったりまえじゃない! いいリリム! 私の目の黒いうちはずえええええったいにウイルと恋仲になろうなんて許さないんだからね!」
「それはウイル君が決めることよ、ティズさん」
バチバチと静かに火花を散らす二人……。
どうやらリリムの方はすっかりと傷も治ったようだ。
「やれやれ、何の話をしてるかは知らないけれども、怪我も無事に治ってよかったよリリム……その、跡とか残ってないよね」
腹部を貫かれ重傷であったリリム……シンプソンの腕を信じていないわけではなかったが、僕は少しばかり不安になりそう問いかけると。
「見てみる? ほら、大丈夫だよ」
リリムはメイド服ではない至福のゆったりとした服を持ち上げてお腹を見せてくれる……そこには傷跡一つない、真っ白で吸い込まれそうで……触れてしまいたくなる美しいおなかとおへそが……。
「くおおおらああああああ! この狼娘があああ!! ウイルを、ウイルを魅了しやがってからに! ウイルも何鼻の下伸ばしておなかまじまじと見つめてんのよ!南半球か!あと少し上にあげたらこの女の南半球が見えそうだからまじまじと見つめているのか!?」
「あ、そっか……見たい?」
「はい!」
「元気な返事だな!!このエロウイル!! 見せてたまるかこりゃああ!」
「あっ!? いたたっ! ティズさんダメ! 耳、耳引っ張らないでいたた!? いたたたたた!? 冗談、冗談だよ~もう! いだだったたたたたたたた!?」
そういうと、ティズはリリムの耳を全身全霊の力を振り絞って引っ張り、僕の前から無理やり退場をさせる。
僕は追いかけていこうかとも思ったが、耳を引くそのティズの瞳が、ついて来たら殺すと語っていたため、仕方なくティズとリリムの無事を確認するだけにとどめ、一人祝勝会の中を進んでいく……。
と。
「おや、マスター……」
「サリア」
少し人込みの中を歩いていると、まだ、頭とお腹に巻かれた包帯が取れていないサリアと僕は出会う。




