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234. 愛するカルラへ

新年あけましておめでとうございます。


新年一発目は、幸せなお話で行こうと思い、このお話をお送りさせていただきます。


ナイトストーカー編、長くなりすぎましたごめんなさい!!

「……ん」


目を覚ますと……そこは見知らぬ天井であった。


「……ここは……あ、私」


お腹を見てみると、傷はなく、私は立ち上がろうとすると……。


「怪我は治ってるけど、無理はしちゃだめだぞ、カルラ」


ふと、心が跳ねる。


その声は、最愛の人の声だったからだ。


「……う、ウイル君」


顔を上げると、目の前にはウイル君がとても優しい表情で座って私を見つめていた。

顔が熱くなる。 心臓の鼓動が早くなる。


「あっ……その……私、どれくらい寝てたんですか?」


本当はもっと色々と聞きたいことがあったが、頭が正常に働かなくなってしまい、私はおどおどとそんな言葉をウイル君に投げかけると、ウイル君は優しい表情で。


「丸二日かな……具合はどうだい? 呪いは全て喰らったし、体は大丈夫だと思うんだけど」


ウイル君にそういわれ、私はパタパタと両腕を広げてパタパタと上下に動かしてみる。


痛みの欠片もない。


「ええ、大丈夫です……呪いが無くて、とっても体が軽いです」


「よかった……」


ウイル君の表情はとても朗らかで、その様子から私はなんとなくだが、迷宮教会との戦いには決着がついたのだと察した……。


きっとブリューゲルのことだ……あの後和平交渉か何かを持ち出して……そして、ウイル君の見事な智謀により大敗を喫したのだろう。


「えと……それで、迷宮教会とは」


「迷宮教会はそのままだけど、ブリューゲル死んだよ……ラビの呪いもすべて喰らいつくした……君はもう自由だ」


「!?え? 死?」


私はさらに体が軽くなったようになり、力が抜けて再度ベッドに倒れて天井を仰ぐ。


「ナーガラージャの力で……ブリューゲルの呪いをすべて喰らいつくしてから、心臓をつぶした……もう帰っては来れないよ」


長かった束縛……それから解放された私は、生まれて初めて、ベッドの上で両手を広げて大の字になる。


「終わったんですね」


想像もしていなかった現実に、私は呆けたまま動けなくなる。


「ああ、迷宮教会は存続するけれども、僕が伝説の騎士が管理をすることが昨日決定して、街を襲った……ああ、これは寝てたから知らなかったんだっけ……とりあえず、街に潜伏していた迷宮教会の人間は、放火や王都の人間に危害を加えた事例を不問にする代わりに、迷宮内の動きを監視する仕事に当たらせた……あぁ、もちろん街も元通りさ。 クリハバタイ商店も、来週には営業を再開する予定だって……」


「そう……そうなんですか……よかった」


私は瞳を閉じてそうつぶやく。


解放感も、喜びももちろんある……。


だが、私は笑みをこぼすことができないでいた。


原因は分かっている。


ブリューゲルに告げられた通り、私の両親は死んでしまっていた。


一度でいいからその顔を見てみたかった……幸せそうに笑っているその姿を……この目で納めておきたかった私のお父さんとお母さん。


私が生まれたせいで、不幸せになってしまった……私の両親。


私を捨てて、幸せになっていてくれれば私は罪悪感を捨てられたのだろうが……。


でも、両親は私を捨てたせいで死んでしまった……迷宮で。


結局……お父さんもお母さんも……私がこの世に生まれてきてしまったせいで、不幸なまま死んでしまったのだ。


その罪悪感が……どうしても胸から消えてはくれないのだ。


「……ああそうだ」


「なんですか?」


そんな私のくぐもった表情にウイル君は思い出したように一言つぶやくと。


「カルラはこれから僕たちと一緒に暮らす……でいいんだよね?」


「え? あ、は、はい! ご、ご迷惑でなければ」


私はそういわれて慌ててベッドから飛び上がる。


一瞬、ウイル君と一緒に料理を作っている自分の姿を想像して私は頭の中が一瞬真っ白になるが、そこは気合で乗り切る。

 

ご迷惑と言われても泣き落としをする所存でございます。


「うん。 もちろん歓迎するよカルラ、というかそのつもりでもう動いてたんだけどね」


「あ、ありがとうございます!」


「それでなんだけど、迷宮教会にある私物? かな、それを今クレイドル寺院に運び出してもらっているんだ……女の子のものはあんまりよくわからないから……その、怪我が治って最初の仕事は自分の私物の整理に成っちゃうんだけど」


「私物? 私、そんなに私物って持ってましたっけ?」


整理するほど……私はブリューゲルにものを与えられてはいない。


持っていたのは血まみれの最低限の衣服と、ボロボロのタオルと毛布……それと呼んだだけでも正気を失ってしまいそうな本くらいだ。


どれだけ頭をひねっても、最初の仕事……なんて言うほどの量ではないはずだ。


「あー、うん……その……ね、ご両親の遺品も、実は迷宮教会に保存してあったみたいでさ」


「……遺品?」


「そう、遺品……君に返すのが、やっぱり一番だと思うから」


「そう……ですか」


正直、私は迷った。


確かに、父と母の遺品があるならば、捨てられはしたが血のつながりのある私が受け取るのが筋であろう。


だけど。


「どうしたの?」


「その、私が、受け取ってもいいのでしょうか?」


私は少しばかり不安になり、ウイル君にそう問いかけてしまう。


「どういう事?」


自分でもおかしな質問をしているし、死んでしまっているのだからもはや何も関係はない……だけれども、父と母を不幸にしてしまった罪悪感が、私にそんな質問をさせてしまう。


「……私は、私は両親に嫌われていました……捨てられて、それで……それが原因で死んでしまったんです……私が生まれなければ、両親は不幸にならなくて済んだんです」


「……」


ウイル君は、優しい顔でそんな私のくだらない話を聞いてくれる……その表情は、私の勝手な思い込みかもしれないけれども……~続けて~と言ってくれているようで……私は心の中の罪を……生まれてきてしまった罪をウイル君に語る。


「ごめんなさい……こんなこと……でも、でももし……幸せそうな両親の姿を遺品の中から見つけてしまったら……私……私」


そんな幸せを奪ってしまった私は……。

自分が許せなくなってしまうかもしれない……。


そういいかけたところで。


そっと私の肩にウイル君は触れてくれる。


優しいその手……ずっと望んでいたその暖かい温もり……。



だけどなぜか、どこか懐かしい。



「慰めてくれるんですか?」


「いいや、その必要はないからね」


「? それは、どういうことですか?」


「カルラ……世界はね、君が思っているほど……君を嫌ってはいないってことだよ」


「ふえ?」


そう笑みをこぼすウイル君に、私は疑問符を浮かべると。


ウイル君は一つのロケットを……私に渡してくれる。


「これは?」


それは古いロケット。


ヒスイ色と白色のマーブル模様のそのロケットを手に取り、私はウイル君を見上げる。


「ブリューゲルが持っていたもの……お父さんとお母さんの遺品の一つだよ」


「そんな………その、私!?」


私は少し怖くなって、慌ててウイル君にそのロケットを返そうとする。


見たくない……中の幸せそうな二人の姿なんて……。


私が奪ってしまったものなんて……。


でも……。


ウイル君は優しい表情で私を見つめる。


それは、向き合えと言っているのだろう。


だから私は……。


「その……傍に、いてください……私が逃げ出さないように……」


「もちろん……君のそばにいるよ」


迷いのないその返答が、沢山の勇気をくれる。


そんな素敵な彼に私は一つうなずいて……自分の罪に向き合うために、そっとロケットを開く。


だけど……。


「え?」


そこに写っているのは……幸せそうに微笑む両親の写真……。


私と同じくせっ毛の髪を持つ女性に……私と同じ色の瞳の男性。


それは、聞くまでも確認するまでもなく私の両親であり……。


そして。


「これって……私……ですよね?」



その中心に、二人に抱かれて写真に写る……私がいた。



「カルラ……だよね、これ」



小さくうなずき、私はその二人を見つめたまま動けなくなる。


「え……これって……え?」


「僕は何も言わないよカルラ……君に憶測を語る権利は僕にはない……だから、そこに写っている現実だけが……僕が君に送ることができるものだ……」


「そんな……そんなこと、こんなロケットが現実だったら……そんな都合のいいこと」


それは、想像もしたことが無かったことで。


それは、あまりにも私にとって都合のいい結末になってしまう。


「だって……だって、このロケットの中の二人は笑っていて……。 その中心に私がいて。

まるで、普通の家族みたいで……それに……ここ……ここに……」


ロケットの写真の隣……。


そこには小さく。



【愛するカルラへ】



そう………彫られていた。



「本当……なんですか? これ、本物?」


「嘘をついてどうするんだい?」


「あ……はは、ははは……そう……ですよね……じゃあこれ全部……本物で……私……私……」



もう一度、私はロケットに刻まれた【愛するカルラへ】という文字を指でなぞり……

抱きしめる。


「そうなんですか……私、ちゃんとお父さんとお母さんに……愛されてたんですね」


ポロリと……暖かいものがほほを流れる。


おかしいな……。


こんなにもうれしくて……私はこんなにも笑っているのに。


なんで涙がこぼれるんだろう。


そして……なんで涙が止まらないんだろう。


「……ウイル君……ごめんなさい……私……ぐすっ……私」


「傍にいるよ……約束したからね」


「ありがとう……ありがとうございますウイル君……取り戻してくれて……」


閉じ込めていた……いろいろな感情が溢れ出す。


思えば……いろんなところで、だれかが私の背中をおしてくれた気がした……。


ずっと、ずっと焦がれて、ずっとずっと……求めていたけれども。


なんだ……二人とも……ずっとそばにいてくれたんだね



一緒に暮らしたかった……その声を聴きたかった……覚えていたかった。


一緒にご飯を食べて、一緒に寝て……甘えて、喧嘩して怒られて……そんな、普通の生活はもう取り戻せないけれども……。


今ここに、奪われていたものを、ウイル君は届けてくれた。


もう、押さえることができず……私はとうとう声を上げた。


「ああああうぅう……ああああああああああ!! お父さぁあん……お母さあああぁん!」


……何もかもを……失われた時間を取り戻すように……私は出来る限り大きな声で両親を呼ぶ。


声を上げるごとに、無くしていたものが戻ってくるようで……私はただただ、両親を思って泣き続けた。


    


お日様が私を照らすなか……。


泣きじゃくり、両親を呼ぶ子供の様な私。


それでもウイル君は傍にいてくれた。


私が泣き終わるまで……。


何も言わずにずっと私のそばで微笑んでいてくれた。


きっと、死が二人を分かつまで……ウイル君は傍にいてくれるのだろう。


だから……今度は私の番。




私は誓う。



あなたの影になり、貴方の歩む道を支える。



闇からあなたを見つめ、貴方に降りかかるすべてを闇に葬ろう。


貴方の隣……いいえ、三歩後ろからあなたをこっそり追いかける。


たとえ何があろうと、今度は私が貴方を守る。


そして、可能性があるならば、貴方に選んでもらいたい。


伝説の騎士の英雄譚には残らない……私はKNIGHT STALKER(騎士を追うもの)


それが私の新しい生き方……そして、それが私の幸せだから。


                      ◇


カルラは称号・ KNIGHT STALKER を手に入れた。

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