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233. 迷宮教会の主 聖父ウイル


「おい……起きろ小僧……」


野太い声が響き渡り、ついでに何やら指にしては何やら随分と太い何かがほほをつついている感触を感じる。

「ん……んん」


重い体が思ったよりも早く動いたのは、恐らくそれが何なのかという好奇心が倦怠感を上回ったからだろう。 僕は目を開けて起き上がると……。


一面真っ黒、それがナーガラージャの体であり、僕を守るようにとぐろを巻いて覆ってくれているのだと気づくのには、しばらくかかった。


倒れてしまっていた僕を介抱してくれていたのか、呪いを喰らってかーなり大きくなったナーガラージャは、僕の目の前で首をかしげている。


はて……一体先ほど僕をつついていたものは……そしてあの声は誰だったのだろうか。


夢にしてははっきりと聞こえすぎていたあの野太い声……。


僕は目の前にいるナーガラージャに向けて首をもう一度かしげると。


「……何呆けた顔をしているのだ小僧……まぁ、無理もないか」


「あーなるほど、あの声の主はナーガで……尻尾でほっぺつついてたのか……。

ってええええええええええええええええええええええ!?」


「どうした! 敵襲か!」


威嚇をするようにナーガはあたりを見回すが、その体に僕は全力で突っ込みを入れる。


「君だよ君! 何いきなりしゃべれるようになってるのさ!」


「なんだ、たかがそんなことでそのようにはしゃぐのか小僧……まだまだ若いな」


「むかつくな、君生まれてまだ二日のくせして!」


「ふはーーーっはっは! 細かいことを気にするのは小僧な証拠よ! 我はバジリスクを喰らいし蛇の王! ナーガラージャなるぞ!! 二日にして全を収めることくらい造作もない!」


「なんだよバジリスクって!? そんなもん喰らったことないくせに!」


「細かい細かい! やれやれ、わが主がそのような器でどうするのだ!」


「あぁもう!! ってかなんで君そんなことになっちゃったのさ!」


「ふむ、思うにあの気色悪い司祭の呪いをすべて喰らったからであろう……なかなかどうして美味であった」


「味の感想は聞いてないけど……まぁ、壮絶なる進化を祝福するよ、ナーガ」


「ふむ、素直に感謝の言葉を添えさせてもらおう。ありがとう主よ……しかし、進化というならばおぬしもそうであろう?」


「……僕?」


「よもや不死身の化け物と化すとは……いやはやなかなかどうして、男子三日合わざれば刮目して見よというが、一晩で人を超越するとはいやはや……」


「人を超越?」


「なんだ、よもや気づいておらんとは。 器が大きいのやら小さいのやら……あれだけ刺されたというのにもう忘れたのか」


「あっ」


僕は自分の首やお腹を触ってみるが、なんともない。


「ようやく思い出したか?」


「本当だ……てっきり死んだかと」


「倒れ伏し、瞳を閉じた瞬間に、ものすごい勢いで治り始めたのだ……ふむ、その様子を見るに……我が喰らった【痛苦の残留】とやらに似通っていた気もするが、それを喰らったのはお主の力であろう? いやはや、めいずいぃたぁとはなんとも面妖な……」


ナーガの感想に、僕はあぁと手を叩く。


「なるほどね、ちゃっかり痛苦の残留を手に入れたと」


「呪いではなくスキルだからなぁ、痛苦の残留ではあるが限りなく同じな何かだな……それに痛苦の残留じゃお主には似合わんだろうのう……どれ、しゃれた名前でも付けてやろう。 ふーむ、名付けて【りびんぐうぃる】 どうだ? かっこいいだろう?」


「死んでるよねそれ……まぁ、何でもいいけど」


何はともあれ流石は幸運限界突破……。


死なないように、ちゃっかり、スキルイーターで痛苦の残留もとい、【リビングウイル】を手に入れてしまったということか。


僕は少し複雑な想いを抱くも、死の回避と怪我の高速回復は魅力的なスキルであるため素直に喜んでおくことにする。


「ってか、なんで君が僕のスキルイーターの事しってるのさ」


教えたこともナーガには知る機会もなかったはずだが。


「それは、お主の記憶と我の記憶は共有されておるからだ」


「えぇ、なんかやだ」


「なぜか? 蛇の王たる我の知識となれるのだぞ?」


「なんか僕の頭が爬虫類レベルって言われてるみたい」


「なんだとぅ!?」


「というか、蛇の王だなんて誰が付けたのさ、そんな名前」


「誰って? こいつら」


「へ?」


ナーガはとぐろを解いて、僕に迷宮教会の中の様子を見せる。


と。


そこには、ナーガラージャに向かい深々と頭を垂れる男たちの姿があった。


「なっなっなっ!?」


「我がいなかったらお主、今頃目覚めてはおらなんだぞ?」


それは言うまでもなく迷宮教会の人間たちであり――ついついブリューゲルをさがしてしまったが、ブリューゲルは後ろの方で相変わらず横たわっている――


仲間が助けてくれるってすごい状況を楽観視しながら倒れたけど……迷宮教会の存在をすっかり忘れていた。


「とりあえずよくわからないけど感謝するよ、ナーガ……で、これどういう状況?」


僕はナーガラージャに感謝の言葉を漏らし、同時にこの状況の説明を求めると。


「わからん……だが勝手にこいつらが……」


「「「ナーガ万歳! ナーガ万歳! ナーガ万歳! ナーガ万歳!」」」


「「「お~お! 我らーが蛇の王! すべてを飲み込みし破壊の神―!」」」


「あ、だいたい分かったからいいや」


「そうか、賢いのだなわが主は、で、どうしてこいつらは我を神とあがめるのだ?」


「うーん、君がいい加減にバジリスクを喰らいし蛇の王とか言っちゃったのが原因かな」


「なるほど……挨拶をするだけで信者ができるとは……我ってもしかして賢い?」


「僕の知識を共有しているみたいだから否定できないのが最高にクールだよ、ナーガ」


「褒めるな……照れる」


「……僕ってこんなバカなのかな」


悲しくなってきたのでナーガのことは考えるのをやめ、とりあえずこの状況をどうしようかと考えると。


「貴様! 偉大なるナーーーーガ様の侮辱は万死に値しますですよ!!ラビを喰らい生まれいでた新たなるラビの形!! この姿こそ人々が焦がれ待ち望んだ救世主なのでええぇす!!」


一人の狂信者が、僕の独り言を聞きつけたのかそう僕に怒鳴り散らす……ブリューゲルと一緒に焼き尽くしておけばよかったかな。


「「「「断罪! 断罪! 断罪! 断罪!」」」」


流石に聞き飽きたこのノリにうんざりしていたので、僕はいっぺんにアイスエイジで黙らせようかと左手を翳すが。



「静まれえええい! 愚か者どもよ!! 我が主への愚弄は許さんぞ!!!」



それを止めたのか、ナーガラージャは怒声を放ち狂信者は再び恐れおののき、動揺の言葉を漏らす。


「主……いまナーガ・ラージャ様の主と?」


「主ということは……ナーガ様の創造主?」


「聖母? 聖母様なのか?」


「いや、男性だから聖父なのか?」


「おおおおおお! 聖父!!! ラビに形を作り師創造主!!」


「聖父ウイル!!」


「我は主であるウイルの力なり!! ナーガラージャは、ラビの力となりこれより貴様らのいうふぇありぃてぃるを全うする!! 伝説の目撃者となりたきもの、その伝説に名を連ねたきものは我を! そして、マスター・ウイル! そして伝説の騎士! フォースをあがめよ!!」


「「「ウイル万歳! ウイル万歳! ウイル万歳! ウイル万歳! お~~お! マイ フォース! レジェンドオブダークナーイト!! おーお! マイ ナーガラージャ! バジリスクを喰らいし蛇の王!!」」」」


「ぬああああああっははははははははははははははははははははは!!」


「あのー……」


「ぬあああっはははは!! どうだ主殿! 我に掛かればこんなものよ!! この我を仲間に加えられたことを光栄に思えよ小僧!」


「あ、はい」


高らかに笑うナーガラージャの笑い声と迷宮教会の合唱……すべてが僕に向けられ。


こうして、僕ことウイルは迷宮教会の主となったのであった。


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