231. ブリューゲル・アンダーソンVSウイル
「げっ……ぶっふぅ!?」
剛力化のスキルにより、後頭部をレンガに打ち付けたブリューゲルの頭蓋は割れ、奇跡的に傷一つなかった部屋の壁が砕け、ブリューゲルの頭がめり込む。
「ごっ!? がっは……はっははははははひゃああああはははは!」
「お前が!! お前がカルラを!! カルラの人生を! 両親を!幸せを何もかもを奪ったのか!!」
交渉などもはやどうでもいい……ただ怒りのままに、ブリューゲルへ言葉をぶつける。
しかし、心底愉快と言うように、ブリューゲルは高らかに笑い続ける。
「はっはははは! 迷宮で子供が生き残れるわけないでしょうに!バカなんですか皆さん!! そんなの、私がカルラの両親を殺して仕立て上げたに決まっているではないですか! あぁ、迷宮で拾われたのは本当ですよ!? 正確には私に追われて迷宮に逃げ込んだ女の亡骸から拾ったんですけれどもねぇ!」
「なんで、なんでカルラだったんだ!?」
「決まっているでしょう! カルラがラビの子孫だからですよ!! ひーっひっひっひ!自我の発達した大人をラビにするのは至難の業ですが自我の目覚めぬ子供であるなら話は別です!! 呪わせラビをしみこませあそこまで聖女として仕立て上げた! ラビの子孫をもってしてラビを塗り替える! 素晴らしいフェアリーテイルでしょう!?」
「カルラを迫害させたのも!?」
「私……私私私みいいんな私が作った伝説です! 偉大なる聖女、ラビという神を作り上げるために……私がすべて考えて作ったストーリイなのですよ! どうです? 素晴らしいでしょう! 迷宮で生れた少女が……神となる物語! これこそ私が考える、神への階段物語なのですよおぉ! あなたにもわかるでしょう? 伝説の騎士!」
「ふざけんな!! 僕はお前とは……」
「同じですよ! あなただって伝説の騎士という虚構をかぶって生きている! 中身は貧弱非力な冒険者が、魔王を語って人々をだまし、国をだまし……あまつさえ英雄として祭り上げられている!! 現にあなたはその立場をいくらでも利用している! 私と違う? いいえ、貴方と私は全く同じです! 目的のためなら手段を選ばない!私とあなた、何が一体違うのでしょうか!?」
「僕は、人の人生を踏みにじったりしない!」
「そうですか……ええそうですか……わかりましたあなたの言う通りです……だけどね、私は別に問答をしたいわけじゃないんですよ……あなたを呪う……その時間稼ぎさえすればいいんですからねええ!」
ブリューゲルはそう叫ぶと、一気に僕の視界は黒く染まる。
「!?」
気が付けば、ブリューゲルは呪いの触手を壁伝いに張らせて僕を取り囲んでおり……呪いが僕を取り囲んでいた……。
「貴方がもう少し利口であれば! 呪われることもなかったのですがねえ! 短慮短慮短慮! ですが許されます! ラビの元では皆の罪は洗い流される! なぜなら! 魔族であるラビこそが! この世のすべての悪なのですから!!」
不敵な笑みを浮かべ、ブリューゲルはそう笑い、そっと僕の懐ん手を伸ばし、ラビの力を奪おうとするが……。
「お前は……何もかもを舐めすぎだ! ブリューゲル!!」
瞬間、僕は僕の周りを包みこむ呪いを……喰らいつくす。
メイズイーターではないその力の名前は。
「喰らいつくせ! ナーガラージャ!!」
瞬間、僕の右腕についたナーガラージャが大口を開き、呪いを喰らいつくす。
晴れ渡る触手……喰らいつくされた呪いは霧散し……目を見開き驚愕の表情をするブリューゲルの前に僕は躍り出てホークウインドを引き抜き、ラビの腕を切り落とす。
「呪いが……」
ラビはここで初めて驚愕したような表情をする。
「呪い返し……ですか? いや、しかし私の呪いは侵食性……ぐっ一体何を! どうして私の呪いをその身にまといながら!ラビを受け入れない!?」
沿う激昂しながら切り落とされた腕が痛苦の残留により復活するブリューゲル。
「それは簡単だ……僕は今呪われているんだからね」
「呪われ……何ですかその蛇……」
僕の体から這い出るナーガラージャは、僕の背後でポーズをとり、ブリューゲルを威嚇する。
「ナーガラージャ……シオンが作ってくれたまじないさ……」
「まじない……」
「呪いとは人に対する思いで形成され、悪意を持つものを呪い、善意を持つものをまじないと言うらしいね……だからこそこのナーガはまじない……シオンに与えられた、呪いを自らの体に取り込むまじないだ!」
僕は呆けるブリューゲルへと走る。
「呪われているならば! 殺し方を変えればいいだけですよ!! ク・リトルリトル!!」
呪いから殺害へと方法を変えたブリューゲルに対して僕は右手を差し出す。
技の威力なら僕が数段勝る。
もはや遠慮も、加減も必要なく、僕はブリューゲルと僕を貫かんと走るブリューゲルの無数の槍をすべて炎龍の吐息で焼き尽くす。
【ドラゴンブレス!!】
「ごあっ!?」
言葉もなく、僕の手から放たれた古代魔法【火】は、客室すべてを火に包み、ブリューゲルは呪いごとその身を焼き尽くされながら壁を破壊して大広間へと吹き飛ばされる。
「がっ!? ごっ……無駄な……無駄な無駄な無駄なことを! 私の痛苦の残留の前では!! あなたは私を殺すことは!」
「ああ! それでいいんだよ……そっちの方が都合がいい」
「なっ!? はやっ!」
疾走のスキルを起動し、僕はホークウインドを鞘に納め。
「一回死ぬぐらいじゃ……僕の怒りが収まらない!!」
そのブリューゲルの顔面を剛力化のスキルを使用し心置きなくぶん殴る。
「ごっ!? ぐっふ……傲慢ですね! あなたが私を裁くと? 怒りと復讐に……身をゆだねて私を苦しめるあなたは……結局のところ私となにもかわらんもぽっ!?」
口を開く余裕があるブリューゲルに、僕は再度拳を振るい、顔面をつぶす。
「んなこと知るかあああああ!」
怒声と共に放つ渾身の一撃……。
再度吹き飛ばされ、壁に衝突するブリューゲル……しかし、僕の拳程度ではさほどのダメージではないらしく、ブリューゲルはすぐに痛苦の残留で怪我を直すと。
「ふっふふ!! その傲慢さ! ラビに対する不遜! 万死に値します! ラビのラビによるラビのための一撃でつぶされなさい!! この町の憎悪! この国に集う怒り! すべての負の感情こそラビの力! この国すべての闇! この世のすべての悪に! 押しつぶされて消え失せるのです! 伝説の騎士いいいいいいぃ!」
すぐさま、全ての能力を集結させ、僕へと大きな呪いの塊を放つ。
【ダゴン!!】
形状変化も何もさせない呪いの塊……しかし、小細工も何もないただの力の塊は、一本の巨大きな槍の形状をなして僕へと走る。
この国すべての人の怒りや憎悪……それがいま形を成して僕へと走る。
しかし。
いかに巨大だろうと、いかに凶悪だろうと。
迷宮の壁は壊れない。
【メイク!!】
持てる迷宮の壁すべてを使用し、目前の呪いを真正面から打ち砕く。
「勝ったと! 思ったでしょう!!」
しかし、ブリューゲルは霧散した呪いを再度槍の姿へと変更させ、無数の槍を僕へと走らせる。
「これは……」
「破壊力、力ではメイズイーターを超えることは出来ない! しかし、貴方はまだ!! その力を使いこなせてはいないはず! 知っていますよ!打ち出した迷宮の壁の再形成は、まだあなたは習得していない!」
ブリューゲルの狙いは、巨大なん呪いの力により、僕の保有する迷宮の壁を使いつくさせることであったのだ。
ブリューゲルの言葉に僕は一つうなずく。
確かに、ブリューゲルの言う通りだ……僕にはメイズイーターをそんな使い方をするなんてできなかった。
アンタに教わるまで。
【セカンドメイク!!】
瞬間、僕のイメージ通りに、槍を打ち砕いた一本の石柱は、大木が枝を伸ばすように歪に形状を変え、降り注ぐ槍をすべて貫く。
スキル【性質変化】と【精密射撃】 二つを駆使し、僕はメイズイーターに槍の迎撃を命じると、イメージそのままに迷宮の壁は姿かたちを変え僕を守る。
「馬鹿な!? 報告ではそこまであなたは……」
「今、覚えたんだよ!」
「そんな都合のいいことが!?」
「運がいいからね!!」




