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229.ぶち切れ

「なるほど、事情はだいたい把握しました……サリア殿、シオン殿が重症……そうそう楽観はできない状況のようですね」


サリアとシオン、カルラを僕たちはシンプソンに預けると、僕はレオンハルトに事の顛末を伝えると、レオンハルトはため息を一つ付いてそう僕の説明を飲み込む。


「そっちは何があったか、説明してくれるか?」


「ええ……私も詳しいことはわからないのですが、我々が強襲の準備を進めてる最中、一人の騎士団員が発狂をしたのが始まりでした」


「発狂?」


「不意に……迷宮教会への信仰を謳いはじめ、叫び始めたのです」


「……なっ……」


「そこからは地獄絵図でした……団員はその男をすぐに取り押さえたのですが……押さえていた人間もまるで感染するように……ラビへの賛歌を謳いはじめ、最終的には第一騎士団……つまり私直属の部下は皆……ラビへの狂信者となって王城を襲撃し始めたのです」


「そんな……王城は」


「王城は心配ありません……何とか狂信の感染は食い止め、対処は完了しました」


レオンハルトは首を横に振り、ため息を漏らす。


対処というレオンハルトの言葉と、くぐもった瞳がすべてを語っており、僕は押し黙る。


「すまない……続けてくれ」


「ええ、騎士団の感染は防ぐことができたのですが……気が付けば町全体で同じことが起こっていた……」


「どれくらいの人間が飲み込まれている?」


「恐らく半数……」


「そんなに……」


「ええ、この呪いは、一定のレベルに達しない人間をラビへの信者にする呪いのようです……効果は一時的なものであり、蘇生をする……もしくは解呪の魔法で解呪は可能。

恐らくブリューゲルではなく、街の迷宮教会の人間が一斉に仕掛けたテロ事件であるというのが正しい判断でしょう」


「……そうか……そう考えると、昨日のリルガルムの人々の迷宮教会への反応は」


「恐らくは、迷宮教会が呪いを設置するのを見破られないようにするためのダミーでしょう。 迷宮教会は人心をある程度なら操ることができる……まんまとはめられました。

迷宮教会強襲の為に、部隊を一か所に集めたところを狙われたのですから」


最初からこうなることは計算づく。


ブリューゲルのあの不敵な笑みが僕の頭をちらつき、僕はいら立ちで一度ため息を吐く。


「……それでそのあとは、呪いの影響を受けていない一般人たちを、このクレイドル寺院へ連れてきていたという事か」


「申し訳ございません……私に残された選択肢はそれしかありませんでした」


確かに、迷宮教会がどこに潜伏しているかもわからないこの状況だ。


国民に刃を向けることはできない王国騎士団にはこれが最善のてであろう。


「いや、ありがとうレオンハルト」


「もったいないお言葉ですよ、騎士殿……お分かりだとはもう思いますが、騎士団は現在瓦解中……強襲は不可能です」


「あぁ、分かっている」


「この状況を打開するためには……もはやブリューゲルを打倒するか、交渉を持ちかけるしかないでしょう」


「……随分と選択肢が狭められたものだ」


「町の人間の半数を人質にとられている今……我々にはその二つしか打つ手がない。しかも悪いことに、強襲は彼らの手によって防がれてしまったも同然です」


「そうなると、交渉しかないか」


ブリューゲルが言っていた、自分からラビの力を差し出すという言葉はこのことを意味していたのだ。


「…フォース殿?」


結局何もかも筋書き通り……。


僕はラビの力の結晶を懐で握る。


「……交渉はこちらで引き受けよう」


ブリューゲルが僕たちにわざわざ持ってくるように伝えたものだ……恐らくブリューゲルは僕をお望みなのだろうし、避難誘導の為に王国騎士団をまとめ上げるものが必要だ。


「よろしいのですか?」


「かまわない、レオンハルトは引き続き、住民の避難を頼む。 街にそこまで私は詳しくないからな……レオンハルトが適任だ」」


「……わかりました……」


レオンハルトはそう一度笑みを浮かべると、出された紅茶を飲み干し、慌てて立ち上がる。


「では、そのように……くれぐれもお気をつけて」


「あぁ……ありがとうレオンハルト」


「いえ、かたじけない」


レオンハルトはそう語ると応接室を出ていき、住民の避難へと戻っていく。


扉の閉まる音と同時に訪れる静寂……。



その中に一人取り残された僕は……深く……深くため息をついて。


「……」


自らの心を殺し、覚悟を決めるのであった。


                        ◇


「……一人で迷宮教会に向かうですって!? いけませんマスター! それならば私も一緒に……っつっ」


僕の決定に、サリアは声を荒げて反対をするが、すぐに傷口が開いてしまったのか痛みに苦悶の表情を浮かべる。


「サリアさん……貴方死にかけなんですからあんまり興奮してはいけませんよ……昨日に今日で二度も致命傷を負ったんです……魂がかなり弱っています。 次傷が開いたら一か月は入院ですよもぅ! さすがにそれはお金取りますからね!」


シンプソンはそう言ってサリアをなだめるが、サリアはそんなこと知ったこっちゃないといった様子でまくしたて、僕はどうすればと悩みながら首の後ろ手を当て、一つ首を鳴らす。


「あー……」


「ティズもシオンも何か言ってください! 危険すぎます!」


「あーうん……それはその通りだけど」


「でもでも……街の住人の避難も必要だし……サリアちゃんもカルラさんも……リリムさんも目を覚まさないし」


「リリムのは完全に仕事のし過ぎが原因だけどね」


「何はともあれ、僕しか現在動ける人間はいないんだ」


「シオンは!?」


「シオンは迷宮教会が町の人たちに仕掛けた呪いの解呪を行ってもらう……それに、ただの交渉に護衛はいらないよ」


「交渉って……相手は迷宮教会なのですよ?」


「十分すぎるほどに分かっているよ……だけど残された手段は交渉だけだ」


「お願いですマスター、考え直してください……あなたにもしものことがあったら私は……」


「……君の主人を信じろ、サリア」


泣きそうな表情で僕の服の袖をつかみ懇願をするサリアに僕はそう笑いかけ、そっとその手を振りほどく。


この戦いは元々、僕がカルラを助けたいというわがままから始まった……。


ならば、このけじめは僕の手で付けなければならない。


それがたとえ、相手の掌の上の事であっても……自分の手で終わらせなければならないのだ。


その意思をサリアはくみ取ってくれたのか……しばらく僕を見つめ、何やら二三度口を開いては閉じてを繰り返したのち……。


「……わかりました……マスター。 でも絶対に帰ってきてくださいね……」


とうとうサリアは折れ……力なくうなだれてそういう。


恐らく、彼女にとって相当な葛藤があったのだろう。


その声は震えており、その瞳は今にも泣きだしそうであり、不安と心配で押しつぶされそうになっているのがうかがえる。


そして、それだけ不安を抱えていながら、僕を同じだけ信じてくれた。


「ありがとうサリア」


僕はそんなサリアに感謝の言葉を述べてそっと頭を撫でる……。


「行くんだね、ウイル君」


正式に迷宮教会へと向かうことが決定した僕に、シオンはそう何かを決意したような表情をすると、杖をもって僕の前に立つ。


「何をするつもり?」


僕は首を鳴らしながら、シオンにそう問うと。


「ふっふふ……さすがに相手が悪いからね~ちょっと待っててね、安全祈願のおまじないだよー! 力を貸してあげるの!」


そういうとシオンは杖を振りかけて、聞いたこともない呪文を唱えた……。

                    ◇


「じゃあ、行ってくる」


交渉という場に、鎧は不要と……マスターは魔王の鎧を付けず……ホークウインドと白銀真珠の籠手のみを装備して迷宮教会へと向かっていく。


一つ、マスターは珍しく首を鳴らすという動作をしたのは印象的であり、私は不安で押しつぶされそうになりながら扉が閉まるまでずっとマスターの背中を目で追いかけ……やがて扉にマスターの姿が遮られると。


「……うううううぅぅぅ……やっぱり私も!」


「ハイシンプソンストップ入りまーす」


立ち上がろうとしたところを今までの仕返しとばかりにシンプソンに傷口をつつかれる。


「—―――――――――――――――――――――――!?」


魂が弱っているせいか、体はたったそれだけのことに過敏に反応し、私はベッドに倒れて身動きが取れなくなってしまう。


「そんな状態でよく守るとか言えるわね、いまいっても完全に足手まといよ?」


痛みにもだえる私にティズはそう呆れたような言葉を漏らし、私は肉体的にも精神的にも大ダメージを追う。


「う……うぅ……しかし、ティズはどうしてそんなに冷静でいられるのですか?」


「そうだねー……いつもだったらティズちんが一番心配して引き留めるはずなのに」


「あー……あーまぁね……心配よ? もちろん心配だけど……」


「?」


「なにやら含みがある言い方ですけれども?」


「いやね……あの子ずっと首鳴らしてたでしょ」


そういえば、確かに気になってはいた。


マスターはここにきてからずっと首をコキコキと鳴らしていた……今までそんな癖はなかったように見受けられたため印象的だったが。


「首? あーそういえば鳴らしてましたねー、あれ首痛めるからやめた方がいいんですよ」


「それが何か?」


「……あの状態のウイルはあまり刺激しちゃだめなのよ……」


「なんで?」


シオンは意味が分からないといったように首を傾げると。


「あの癖出るの……決まってぶち切れてる時だからよ……」


ティズは過去に何があったのか、真っ青な表情のまま震える声でそう返答をした。



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