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223.サリアVSカルラ

「はぁっはぁっはぁっ!」


僕たちは迷宮二階層をひた走る。


「マスター! 急いで!」


サリアの声に、僕は息を切らしながらも疾走のスキルを使用して後を必死に追いかける。


カルラがクレイドル寺院を抜け出し、わざわざあんな置き土産を残していったのならば、向かう先は一つしか考えられない。


「なんで……」


逃げ出すのならば、戦いが起こっているどさくさに紛れればいい。

わざわざこのタイミングで、置手紙まで残していったということは……彼女は。


カルラは一人ですべてを終わらせるつもりだったのだ。


多くの人に犠牲が出ないように……万が一にも、僕たちが傷つかないように。


「……勝手なことして! 帰ってきたらお仕置きよ! ねえウイル!」


「そうだよー! おしりぺんぺんだよー!」


ティズの言葉にシオンはうなずき、僕もその提案に同意をする。


彼女はもう一人ではない……もし決着を大事になる前につけたいのならば……どうして僕たちを呼ばなかったのか……。


その点に僕は怒りを覚えながら……僕たちは迷宮教会へと続く道へと侵入し、迷宮教会前へとたどり着く。


扉が壊された形跡があり、入り口付近の石畳には大量の血痕が付着している。


「……遅かったか」


「中を探しましょう! マスター」


全ては決着がついた後のようであり、僕たちは息を切らしながらもその迷宮教会の中へと侵入することにする。


中に入ると……そこには地獄絵図が広がっていた。


中にいた狂信者たちはどこへ消えたのかはわからないが、そこには血だまりが広がり、ラビの石像は砕け散っている。


狂信者たちは逃げおおせたのか……死体の様なものは残っていない……。


あるのは血だまりと静寂。


そして、その中心には、闇がいた。


「なんですか……あれは」


「……わからない……けど、あの呪い……あれ全部呪いだよ」


「あれは……まさか……カルラ?」


「はぁ!? 何言ってんのよウイル! あんなおっそろしいものがあのぼさぼさなわけないじゃない!?」


確信は得られなかった……全身が真っ黒で、闇に包まれ、その手には白銀の刃を握っている。


見た目ではとてもじゃないがカルラと認識できるような姿ではなかったが……それでも僕はなんとなくだが、それがカルラのように思えてそう言葉を発する……。


と。


「やっぱり……気づいてくれるんだね、ウイル君


カルラの声で……カルラではないものが僕にそう語りかけ、瞬間その魔物に巻き付いてい呪いが体からはがれる。


現れたのはカルラだった。


その瞳は黒く濁り、そしてその体は依然呪いが巻き付いている。


「ウーイールー君……うっふふふ……来てくれたんだぁ……うれしいなぁ」


ぞわりと背中に悪寒が走る。


まるで、何者かがカルラの真似事をしているような……そんな無邪気な笑顔を向けて、カルラは楽しそうに笑いながらこちらへと走りよる。


僕はそんな突然の出来事に反応をすることができずに、立ち尽くしていると……。


走り寄るカルラから、無数の触手が僕を穿たんと走り。


「マスター!!」


その触手をサリアは全て朧狼で両断をする。


「カルラ……貴方一体何を……」


カルラの凶行に、サリアは声を荒げてそう問いかけるも。


「サリア……サリアサリアサリアサリアサリア! いつもいつもいつもいつも邪魔をする、ウイル君は私のものなのに、ウイル君を一番大事にしてるのは私なのに、ウイル君をいつも独り占めする泥棒猫……いつもいつもいつもいつも邪魔ばかりして……ウイル君は私のものよ! 私のもの私のもの私のもの私のもの……って、カルラが言ってるよ?」


「あんた、ギャグで言ってるなら笑えないわよ……それ」


ティズはその行動と発言に声を震わせながら問いかける……。


まるで、自分の事ではないようにカルラはそう語り


「なるほど……ラビに飲まれたというわけですね」


サリアだけはその状況を理解し、剣を構える。


「あっはははは、貴方相当嫌われてるのねこのカルラって子に……あなたに対しての嫉妬の言葉しか、この子の深層心理には浮かんでこない……。ふっふふふ、いいわねぇこの子、ブリューゲルは本当にいい入れ物をくれたよ……」


「か、カルランを返さないと、焼き尽くすよー! ラビ!」


「返す? これは私の為に用意された入れ物でしょう? どうして返す必要があるの? 爆発娘さん」


「んなっ!」


挑発めいた口調でラビを名乗る少女はそう笑い、同時に剣を構える。


「記憶も、感情も、ぜんぶぜーんぶ私の中に入ってる……私はラビであると同時にカルラでもあるの……ただ、私の人格がカルラっていう齢少女の人格を飲み込んだだけ、ウイル君への愛情も、サリアさんへの怒りもティズさんへの感謝も全部ぜーんぶ持ってるんだよ? いいじゃない、私がこれからカルラでも……なんでもかんでも我慢して、くらーいあの子よりも、ウイル君も支配されるんだったら私みたいなタイプの方が気持ちよくなれるでしょう?」


「……っ! 貴方……マスターを支配だと」


先ほどの呪いの行使……あれはやはり僕を呪って支配しようとしての行動だったのか。


僕はその行動に、完全にこのラビは僕と敵対していることを悟る。


「アンタ、寝言は寝て言いなさいよこの痴女!! アンタみたいなふざけた女なんかよりもカルラの方が万倍もましだってのよ! さっさと消え去りなさい馬鹿!」


ティズは怒り狂いながらそう騒ぎ、その言葉を聞くとラビは少し残念そうな表情をして。


「なーんだ、そうなんだ……残念……じゃあ、カルラが欲しいのはウイル君だけみたいだし……他は死んじゃいなよ」


一瞬にしてシオンの懐まで踏み込む。


「えっ……ちょっ!?」


その神速の踏み込みは、サリアのそれにも引けを取らない速度であり、シオンは驚愕に声を漏らすことしかできずに……その刃を受け入れる。


「シオン!!」


瞬間、シオンへと放たれた刃を、サリアが間に入って受け止める。


白銀の刃と朧狼が合わさり、甲高い音と共に火花が散る。


「ふっふふ、この一撃を簡単に止めちゃうんだ……」


余裕そうな笑みを浮かべるカルラに対し、


「ぐっ……」


サリアは間違いなく押されていた。


「あ、の筋肉エルフが押されるなんて……」


驚愕にティズは声を漏らし、僕の肩の袖を不安げに握る。


その力もそうだが、僕はその手に握られている刀に見覚えがあった。


「……あなた、それは……」


「ブリューゲルはいいものをくれたわ……妖刀ムラマサ……ふっふふ、これならアンドリューの奴も神様だって……なんだってぶった切れる……ふっふふふふ楽しい、人を切るのって楽しいいいいいい!」


狂気に染まった笑みを浮かべ、カルラはそのまま刃を押し込む。


「本気を出さないと死んじゃうよー? サリアちゃん♪」


「くっ……お望みと……あらば!!」


押されていたサリアはそのまま陽狼を引き抜き、一線をカルラへと放つ。


「あはっ♪」


楽しそうな表情をしながら、ラビは後ろに飛び、サリアの刃を回避する。


「すごいいい刀……ぞくぞくしちゃう……でも、アンタまだ迷ってるみたいだね? そんな心で私に勝てるの?」


カルラに対し二刀を構えて臨戦態勢をとるサリア……しかし、どこかその剣には迷いがあるらしく、その心を見抜かれて一歩後ずさる。


「マスター……」


僕の判断を仰ぐサリアであったが、僕だってこの状況でどう対応をすればいいのかわからない……。


このままでは僕たちがやられてしまうが……カルラを諦めるなんて選択肢はあるわけがない…。


「悩んでるなら……殺すわよ!! 私だってあなたの事……大っ嫌いなんだから!!」


迷う時間も与えるはずがなく、ラビはサリアへと切りかかる。


「っぐっ!」


響き渡る剣閃はサリアへと走り、サリアは打ち合いを余儀なくされる。


「サリア!」


「致し方ありません!」


サリアは迫りくるカルラに対し、二刀を振るい応戦をする。


火花が散り、轟音が響き渡り、剣宣の余波が建物を破壊する……。


その剣戟はもはや僕の目では追うことは出来ず、僕も、ティズもシオンでさえもその戦いを固唾をのんで見守ることしかできない。


「はああああああああああああああ!」


サリアは、カルラは流れるような対さばきと変則的な剣閃でサリアを翻弄し。


それに対し、サリアは己の反射速度と技量のみでその変則的な剣をとらえ、確実に反撃を繰り返す。


技量はサリアが勝る……しかし、その戦いはサリアがほんの少し、しかし確実にラビがサリアをおしている。


その手に持たれたムラマサの力が……サリアの朧狼と陽狼を上回っているのだ。


「どーんどんきざまれーてーいくー! あっはははっははっは!」


笑いながら、攻撃を仕掛け、同時にサリアの攻撃を防ぐカルラ……。


戦いの光景だけをみれば、サリアもカルラも互いに一歩も引くことのなく拮抗をしているように見える。


しかし……。


「ぐっ!……」


「なんで……なんで切られてないのに……サリアが怪我してんのよ……」


ティズの驚愕の声に誰もが息を飲む。


そう。


サリアが攻撃を防ぐたび、そして攻撃が防がれ、ムラマサと朧狼と陽狼がぶつかり合うたびに……サリアはその身から鮮血を噴き出しているのだ。


一度だけ体験をしたことがある剣技……。


かつてルーシーズゴーストと戦った時も同じように……剣を防いでも体が切られていた……。


「……ぐっ、あの時とはまるで別人だ……あなたに一体何が」


「ふっふふふ、このラビの呪いは、ブリューゲルに対する呪い……ブリューゲルに対する憎悪や怒りがすべて力へと変換される……ふっふふ、痛苦の残留は私には与えられていないけれども……アンドリューの魔力とこの国すべての人の憎悪……その二つを備えた私に……魔法も使えない落ちこぼれなエルフが勝てるとでも思ってるの?」


そういうと、カルラはサリアの剣をその首を差し出して受けようとする。


「うっ!?」


首を両断することをためらったサリアは、振るった朧狼をその首ぎりぎりの所で止め。


「やっぱり切れない」


その隙を突かれ……サリアはムラマサの一撃により心臓部を貫かれた。


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