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221.カルラVSブリューゲルアンダーソン

「貴方を……殺しに」


その言葉と同時に、カルラの体が跳ね、ブリューゲルの心臓を拳にて穿つ。


「がっ!?」


血をまき散らし……ブリューゲル・アンダーソンは教会内を舞い、そのまま信仰対象であるラビの掲げる剣に貫かれ、磔状態にされる。


「司祭様!」


「ブリューゲル司祭!」


「聖女よ……一体何を!?」


動揺の声が響き渡り、迷宮教会に鳴り響く狂気の賛歌がこの時初めて中断され、ざわめきがこの騒がしい教会に響き渡る。


「……私の友達を傷つけて……ウイル君を追い詰めた、絶対に許しません。 ブリューゲル」


しかしそのざわめきの中を、少女は凛とした表情で歩み……まとっていた首まで覆われた衣を捨て去る。


体に残されたものは、サラシが巻かれた胸に、まだ赤色がにじむわき腹の傷。


そして、全身に刻まれた傷の跡……。


もはや、己を偽ることはなく、その傷を恥じることはない。


少女カルラはそう己に語りかけ、忍として、拳を構える。


この傷は、耐え忍んだ己の軌跡であり。 


この傷こそ、自らがカルラである証だから。


「醜い……その傷は醜い……ラビはどこまでも美しく、そんなふしだらな行動は起こさない! ラビは美しくなければならない! それを宿す聖女も美しくなければならないのです!」


「……この傷は、貴方が付けたのでしょう?」


痛苦の残留により蘇生をするブリューゲルは、ぞぶりと生々しい音を立てながら、剣から己の身を引き抜きながらそうわめき散らし、カルラの前へと落下をして立ち上がる。


「……くっくくく! まぁまぁそれは許しましょう! 偉大なるラビはその程度のことはあまり気にはしません、傷は治せばいい、醜いあなたでも、ラビの力で美しくすることは可能ですからね!! 入念に入念に、ゆっくりじっくり自我を失わさせてあげようかとも思いましたが、なかなかどうして、弱そうなくせに自己主張だけは激しい個体のようだ……くっくくく、あさましく、卑しいですねぇカルラ! ええ、醜さで反吐が出そうです!」


怒りに我を忘れながら、ブリューゲルはそう語るも、カルラはその言葉を無視し。


「言いたいことは……それだけですか?」


小首をかしげたのちに、ブリューゲルへ疾走を開始する。


「小癪な!!」


ブリューゲルはその行動に対して、自らの触手を放ち対処をしようとするが……。


その攻撃は全てカルラに触れる前に透明な盾の様なものに阻まれる。


「これは……貴方、【フドウ】を……」


巨大な花弁の様な白みがかった透明な盾は、形を崩してカルラの拳へと戻っていく。


武術・練気


己の魔力に形を与え、もしくは魔力の流れを操る技法であり、魔力そのものを武器・防具として扱う技である。

詠唱を伴わないため、形を得るか、身体強化をするかのどちらかしか選べないが、詠唱も痕跡も残らず使用しても魔力は漂うのみで減ることはないため、武道家や忍が好んで使用するスキルであり……そして、魔力を六枚の花弁のように操り戦うこの流派こそ……鉄の時代の英雄・フドウが使用したとされる伝説の古武術であった。


「ちぃ!!」


ブリューゲルは触手を鞭のように、時に槍のように操り、カルラを足止め、からめとろうとするが、そのたびにカルラの六花が触手を防ぎ、拳が打ち砕く。


その一撃は激烈であり、その速度は神速。


いくつも襲い掛かる呪いの鞭を、カルラは一本一本丁寧に処理をしていき、ブリューゲルとの距離を確実に詰めていく。


周りで見やる信者たちは、ブリューゲルに加勢しようとするが、そのすさまじさに気圧されて魔法を発動することもできない。


いや、カルラのその威圧が、気迫が……そしてその瞳が……少しでも邪魔建てをするならば殺すと……そう告げているため……誰もその戦いに加勢をすることなどできなかったのだ。


かつて、サリアがカルラへ問うた問いの答えがこれである。


なぜ、自らを弱くしてまで武器を使用するのか?


その答えは単純で、むやみやたらに人を殺してしまうから。


忍びの拳はれだけで凶器であり、ましてや【フドウ】を操るものとなれば並大抵の兵士であれば触れるだけで死亡してしまう。


だからこそ、無駄な被害を出さないために、カルラは武器を頼ったのだ……。


「ここまで呪いを防ぎきるとは……」


ブリューゲルはそう驚愕の声を漏らすと。


「終わりですよ、司祭……」


気が付けば、先ほどまで離れていたはずのカルラが眼前にまで迫っていた。


「なっ……はやっ」


驚愕の声は間に合わず……その拳の一撃は、ブリューゲルへと走る。


「痛みを伴わない死なら……戻っては来れないのでしょう?」


優しい微笑み……それはまさに死神の笑みであり……。


「六花・無傷殺……」


その拳はブリューゲルを叩くことはなくすんでのところで止められ、代わりに拳にまとった練気がブリューゲルを貫き……六枚の花弁が散るようにブリューゲルの背中から突き出て舞い、砕け散る。


「六花・無傷殺は……痛みを伴わない死を与える武術の一つ……体に魔力を流し……すべての機能を停止させる……痛覚も……死んだことさえも分かりません……あなたはここで、止まるのです……」


そう、もはやすべてが停止をしたブリューゲルに対しカルラは囁くと、そのまま人差し指で立ち尽くすブリューゲルの額を押し倒れ行く姿を見送る。


どさりと……ブリューゲルの体が毒々しい赤色の絨毯の上に沈み、カルラはわき腹を押さえて息を大きく吐いて膝をつく。


サラシに浮かび上がっていた赤色はその色を深めており、同時にカルラは苦し気に嗚咽を漏らす。


捉えるならば絶好の機会ではあったが、狂信者たちは目前の光景に頭がついてはいかず、立ち尽くして成り行きを見つめ、痛苦の残留が発動しないブリューゲルの姿に目を見張り……そして現実を受け入れられないでいる。


「はぁ……はぁ……迷宮教会は……これで終わりです……もはや、ラビは復活なんてしません……だから……あなたたちももう」


「終わらないんですよねぇ~これが!」


カルラの言葉が言い終わるよりも早く……そんな不快な声が迷宮教会へと響き渡り、カルラの背中に向かって、触手が放たれた……。

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