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219.攻略・ブリューゲルアンダーソン!

「何がだい?」


僕はそんなサリアの言葉に首が引っかかり、その言葉の真意を問うと。


サリアは少し唇に人差し指を触れさせて考える様に唸った後。


「クリハバタイ商店を襲撃すれば、こうなることはブリューゲル自身も分かっていたはず……リリムを襲撃するだけならば、これほど大規模な襲撃にしなくとも目的は達せたはずです……だというのになぜ、ブリューゲルはわざわざ迷宮教会自体が崩壊しかねないリスクを背負ってまでクリハバタイ商店を襲撃し、同時に冒険者の道に甚大な被害を与えたのでしょうか?」


「うーん、確かにあのおじさん……見た目の割に色々と考えているし、魔法も策略も周到だったよね……それがいきなりあんな短絡的な襲撃をするのは不自然だね~」


シオンもサリアの言葉に思い当たる節があるのか、はっとしたようにそうつぶやく。


「ええ、ブリューゲルを称賛するわけではありませんが……先の私たちの家への襲撃が、シオンの力を見るためのブラフであったように、此度のクリハバタイ商店襲撃も、何かの布石なのではないでしょうか?」


「……そうだとしたら、ブリューゲルの目論見は大成功だね……」


僕は眼下の王都市民を見下ろしてそう漏らす。


もはやこの状況では、迷宮教会討伐の流れは収まることはないだろう。


「もうかんかんだね」


「……そうですね……しかし、戦いを知らないリルガルム王都市民が……なぜか不自然に怒りにとらわれているようにも思えます……」


「そんなことないんじゃないかな~? 放火に続いて二回目だし……クリハバタイ商店は、みんなから好かれてる一番この国で大きな商店だよ~……」


「……むぅ……考えすぎ……でしょうか」


サリアはシオンの言葉に納得したようにうなずいて、僕も眼下の市民の人たちから視線を外してため息を漏らす。


この事態を収拾するには、もはや迷宮教会へと進軍するほか方法はない。


サリアの直感はよく当たる……だからこそ彼女が何かを感じているならば、ブリューゲルはこの進軍を見越してクリハバタイ商店を襲撃したと考えておく方がいいかもしれない。


しかし。


「そのためにサリアに、シオンがいるんだろう?」


僕は二人を信頼している。


先日は不覚を取ったかもしれないが、不意打ちではない万全な状態での正面衝突ならば、シオンもサリアも負けるわけがないのだ……。


「……な、なんだかウイル君からとてつもない信頼のまなざしを向けられているよー!」


「これは、何が何でも結果を残さなければですね、シオン」


「私、こんなに期待されるの初めてかも~! よーし、いつもより火力多めで頑張っちゃうよー!」


「ああ、油断せずに行こう!」


頼もしいサリアとシオンに、僕は小さくうなずくと。


「……皆さまお待たせいたしました」


扉が開き、今度は鎧姿でレオンハルトは現れる。


「昨日の今日ですまないな、何度も……」


慌てて僕は声を低くし、伝説の騎士としてふるまうと、レオンハルトは首を横に振り。


「むしろ来ていただいたおかげで会議は順調に進みました……あらかじめ用意はされてはいたのですが、伝説の騎士・フォースの参戦の話をしたら、皆が皆二つ返事で進軍を了承しましたよ……」


「それって、フォースくんに全部丸投げする気なんじゃ……」


「議会の人間にはそういわれましたね、ですがイスに座った老人たちが何を言おうと、現場指揮を執るのは私ですから」


シオンの不安に対して、レオンハルトはそう悪戯っぽい笑みを浮かべてそう語る。


「感謝しますレオンハルト……」


「いえいえ」


にこにこと笑みを浮かべたレオンハルトは、どこかそわそわとせわしなく僕らの元へ歩いてくると、そっと僕たちの前にある空いたソファに座る。


こうして、丸テーブルを囲むようにして僕たちは顔を突き合わせることになり。


「では、ブリューゲル討伐の対策だが……」


ブリューゲル討伐の対策を練ることになった。


「まず最初に、考えなければならないのは……不死の力……」


「痛苦の残留……ですね、そちらは報告に上がっています。 ですがそれは問題はないでしょう」


自信満々に語るレオンハルトだが僕は首をかしげる。


「なぜ?」


「なぜって、伝説の騎士殿ならば、敵を一撃でロストをする術をお持ちでしょう?」


「!」


僕は一度メイズイーターのことがレオンハルトに知られてしまっているのかと肝を冷やしたが。


「おそらく、致命の一撃と消滅の一撃の事でしょう」


サリアにそう耳打ちをされ、僕はエンシェントドラゴンゾンビ戦を思い出し、落ち着きを取り戻す……。


確かに、メイズイーターや消滅の一撃を使用すれば、ブリューゲルは倒すことができる。


しかし……。


「マスターとブリューゲルが対峙するのは、少し考え直した方がいいかもしれませんね」


サリアはそのレオンハルトの考えを一度否定する。


「なぜ?」


レオンハルトは首を傾げ、いぶかし気な表情をする。


まぁ、理由はこの鎧の中身が中身だからなのだが、口が裂けてもそのことを言うわけにはいかない。


「マスターの存在はブリューゲルも恐らく最優先で策を講じてくるはずです、ともすれば、敵はマスターの動きを止めることにのみ注力をするはず……なれば、我々はマスターの動きが止められた時のことを考えなくてはならないからです」


サリアの口八丁に、僕は鎧の中で苦笑いをする。


よくもまぁあれだけもっともらしい言い訳をこの数秒で用意できるものだ……。


だがその言い淀みもなにも存在しない発言はまさに的を射ており、レオンハルトも確かにとうなずき疑う様子もなく、ブリューゲルへの対抗策を考え始める。


恐らく、この進軍が成功に終わるか失敗に終わるかは、この痛苦の残留をいかにして攻略するかが最重要ポイントとなるはずだ。


「今わかっていることは?」


僕の質問にレオンハルトは小さく嘆息をし。


「皆様と大して変わらないでしょうが、一つは、痛みが続く限り蘇生を繰り返す力です、呪いなのか、スキルなのかはわかりませんが……。 発動条件は、死亡すること、そしてその死に方が、痛みを伴うものであったこと……この二つです」


「つまり、裏を返せば痛みを伴わない死であれば……殺害は可能と?」


「そんなのほとんどないよー……【年取りの歌】百連発ぐらいして、老衰させる?」


「詠唱だけで30分はかかる魔法ですよ? それだけの時間どうすると?」


「サリアちゃんが殺し続ける?」


恐ろしい発言が飛び交い、レオンハルトはひげを立てて僕を見やり、僕は肩をすくめる。


「それは現実的ではありませんよ、シオン……ブリューゲルの力は未知数です……あの襲撃時も、彼は本当の力を見せていません……それに、貴方が魔法を封じられてしまったら意味がありません」


「だよね~」


「お話が盛り上がっているところ申し訳ありませんが、痛みが無ければ、ブリューゲルを倒すことは出来ます。 つまり、痛みを感じないほどの一閃で殺しきれば……あるいは殺すことは出来るかと」


「痛みをも感じないほどの一撃?」


「そんな一撃……私でも不可能ですよ」


「そうだねぇ……剣閃の鋭さとかじゃないからねこれは」


「ほかに方法はないのか?」


「元を断つしかないかもねー」


シオンは僕の質問に対し、杖を一つ振ってそう答える。


「元を断つとは? どういうことですかシオン殿?」


「痛苦の残留……発動しているのは、呪いの一種だねー。 使っ……私見たことあるよー」


今使ったって言おうとしなかった?


「それで、元を断つというのはどういう意味ですか? シオン」


「あの呪いはたぶん種類としてはいっつも司祭の周りでうようよしてるものと同じもの、でも役割がいくつかに分かれてるんだね、分かるだけでも触手になる部分とあの司祭を生き返らせてる部分があるよ」


「呪いは、一人一つしかかけられないのでは?」


「核になる呪いがあるの……この場合は呪い自体をどうにかしなくても、核を破壊すれば、痛苦の残留は消えるよ~」


「それはつまり、シオン殿の力があれば打倒は可能という事ですか?」


シオンの言葉に、レオンハルトは喜ぶような表情へとなり丸テーブルへと身を乗り出すと、シオンは首を振って申し訳なさそうに肩をすくめる。

「あまりにも他の呪いが多すぎるよ……外側から一つ一つ解呪して行ったら、時間がかかりすぎる。 あれだけ重要になる呪いだから、きっと呪いの核も体の中の奥の奥にしまい込まれているはずだからね……王国騎士団の魔術部隊を結集して、大魔導級の大解呪をすれば、あるいは核までいっぺんにのろいをとけるんだけど」」


ちなみに、大魔導とはクレイドル神の仲間であり、エルフ族を作った全身魔導のミユキ・サトナカが伝説上で使用したとされるおとぎ話の世界レベルの魔法の事であり、大魔導級というのは、その魔法に匹敵するほどの魔法—―マスタークラスに近い魔法使いが何人も集まって使用した集団魔法のことをさすものもいる――である。


それだけの魔法を通常簡単に取り扱うのは不可能ではあるが、シオンはどこか期待をするような瞳でレオンハルトを見ると。

レオンハルトはその立てたひげを悲しそうに垂れさせ。


「申し訳ございませんシオン殿……我々がご用意できる魔法使いは最高のレベルで7……大魔導級の魔法を使うには……人員が足りません」


「そっかー……そうなると……」


「まだ方法があるのですかシオン?」


「うーん、難しいかもだけど……直接呪いの核に触れられれば……あるいは」


「ど、どうするの?」


「私が……体の中に直接手を突っ込む? とりゃーってそうすれば十中八九お亡くなりになるから、あとは痛苦の残留が発動した瞬間に、その核に内側から解呪をかける……かなぁ」


聞いているだけで胸が痛くなる方法であり、僕は低くうなる。


「それはかなりの接近戦を要されますし、シオンはブリューゲルの体を貫く術を持っているのですか?」


「焼くことしかできないけど……ソードワールドだったら何とか」


「ブリューゲルは妨害呪文を使用します……魔法は通用しないと考えた方がいいかもしれません」


サリアの言葉に、シオンは小さくうなる。


「じゃあじゃあ……サリアちゃんと協力してやる……」


「それがいいでしょう」


「だけど……」


「だけど?」


「それやると、私の正気度が失われていくよ~」


人の臓器に手を突っ込む……確かに女性でなくてもあまりやりたくはない行為ではある。

しかし。


「シオン……」


今はそういうことを言っていられる時ではないため、僕は一度シオンをたしなめるようにつぶやくと。


「分かってる、分かってるよ~~! やるよ~、ただ……ちゃんとアフターケアーをおねがいするよーフォースくん!」


「任せておけ」


シオンの懇願するような表情に、僕は一度うなずき、それを見てシオンもようやく納得したようにうなずき返す。


「では、ブリューゲルの相手はシオン殿とサリア殿に任せるということでよろしいですか?」


「異議はない……いざというときは私が出る」


「それがいいよー!」


「やり方や連携は今夜二人で決めることにします……」


「ふむ、そうなると我々王国騎士団は何をすれば?」


「周りの敵を排除してください……迷宮教会の呪い・ク・リトルリルは集団で使用すると、獣王を退けるほどの力を持ちます……なので、王国騎士団は迷宮教会の狂信者たちからブリューゲルを孤立させることが絶対条件ですので……どうやってそれをするか……はレオンハルト、貴方の方が専門家だ」


「つまり……迷宮教会への突入後、我々はブリューゲルと信者を切り離し、孤立したブリューゲルをあなた方のもとまで誘導し、他の信者がブリューゲルのもとまでたどり着けないように足止めをする……それが我々の役割であると考えてもよろしいですかな?」


レオンハルトは、僕たちが想像していたよりもはるかに難しそうなミッションを自らの口から発するが……その瞳に宿る強い意志から、かならず成功させるという絶対の自信が感じ取れた。              


だからこそ。


「被害は最小限でたのむ」


僕はそんなレオンハルトに深いことは聞くことなく、二つ返事で了承をするのであった。


「では……迷宮教会への侵入ルートですが……」


その後、僕たちは迷宮教会への攻略に向けて極秘の会議を続けるのであった。


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