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218.仲間の在り方、己の在り方

「逃げることってそんなに悪いことなのかしら?」


「……え?」


ティズさんの言葉に、私は一度素っ頓狂な声を上げてしまう。


「アンタは自分の為にウイルを利用してるの?」


「そんなこと!!」


「ないわよね、利用している人は自分からそんなこといわないわ……」


私の弁明に、ティズさんはあきれたような表情をしながらそうこぼすと、リンゴを食べるのをやめて私の頭の上へと止まる。


「幸せになりたいと願うことも、逃げることも決して悪いことじゃないわ……私達なんて、一階層に入ったばっかりの時なんて逃げてばっかりよ」


「……でも……」


それだとしても……。


私は続きをティズさんに話そうとするが……ティズさんは私の頭を優しくたたいて静止させた後。


「わかるわよ……自分を守るために、みんなが傷ついてる……辛いわよね、責めてもらった方が楽になるわよね」


そう優しく私の心をティズさんは代弁してくれる。


「……」


「でも、ウイルは絶対にあんたを責めないわ……だって、あなたは自由になりたいって願っているだけだもの……あんないかれた司祭に、別人にされようとしてるなんて……逃げ出してあたりまえじゃない」


ティズさんはあきれたような表情をし、うつ伏せになってお腹が苦しくなったのかふらふらと窓際まで飛んでいき、向き合うように私の前に座る。


「でも……それでも……迷惑をかけていい理由には」


「そうね、でも巻き込んでるのはあんたじゃないでしょう?」


「……そう、ですけれども……」


私はティズさんの発言に気圧されうぅと唸ると……ティズさんは再度呆れたような言葉を漏らし。


「やれやれ、アンタが悪い所と言えば……そうね、助けてって言えないことくらいかしら」


「助けて?」


「そうよ……アンタはずっと助けてって叫んでる……心も体も限界で……ずっとずっと助けてって泣いているわ……」


「そんなこと……私は、まだ大丈夫で……泣いてなんて」


「それがダメだって言ってんのよバカ……見てらんないのよ、私もウイルもサリアも……あのシンプソンだってね、アンタ心はずっと助けを求めてるのに……必死になってそれを押しとどめてるの……迷惑がかかるからって」


私はその言葉に、日ごろの行いを反省する……それはつまり、知らず知らずのうちに私は周りを自分から無意識に巻き込もうとしていたという事なのだから。


「ご、ごめんなさい……私、そんなつもりじゃ……迷惑かけようなんて思ってなくて……」


「つもりじゃないから困るのよバカ……助けてほしいときはね、大声で助けてって叫ぶのよ」


「……え?」


ティズさんの言葉に、私は目から鱗が落ちる。


「叫ぶ?」


「そう……助けてもらえばいいじゃない……迷惑かけてもいいじゃない……自分じゃどうしようもできなくて、どん詰まりになってるなら……私たちに助けを求めなさい。 あのお人よしの馬鹿ウイルなら……地の果てだってあなたを助けに行くはずだし、もれなく筋肉エルフに爆発娘が付いてくるわ……たいていのことはどうにかなるはずよ」


「……そんな、でも」


「そして、私たちがピンチの時は……あなたの名前を呼ぶわ」


「え? 私?」


「あったりまえじゃないの、やられっぱなしで済まそうだなんてそうは問屋が卸さないわよ……」


「え、いや……その、そういうつもりじゃ」


「冗談よ冗談……。 そう、アンタは一人ぼっちだったから分からないかもしれないけれども……人はね、支え合って生きていくの。 誰かに助けてもらったら、その倍の人間を助けなさい……そうやって、人は生きているんだから」


「それって……私も……私もそっちに、いっていいんですか?」


今まで薄暗い場所で生きてきた。


食べるスープには砂が混じっていて……道を歩けば石を投げられた。


そんな私が……薄暗い迷宮で生まれた私が……今の発言だと、光の当たる場所で生きていいよと……そういわれたように聞こえてしまう。


貴方は仲間だよって……言われたように聞こえてしまう。


だが。


「当たり前の権利よ……人ってのは生まれながらにして自由なんだから……どうしなきゃいけない……なんてくだらないことを悩むより、自分がどうありたいか……それに従いなさい……それが人ってもんなんだから」


ティズさんはそれを当たり前といって……私を簡単に日の当たる場所へと引っ張り上げてくれた。


「……はい……はい!」


ティズさんの言葉に私は力強くうなずく。

嬉しくて泣いてしまいそうだが……それでも日の当たる場所に涙は似合わない……。


私はそのため涙はこらえて、笑顔をティズさんに向ける。


「うむ、よろしい……少しはましな顔になったわね」


「ありがとうございますティズさん……私、頑張ります」


「そうね、でも頑張るのは、傷が治ってからにしてもらえるかしら? ウイルに怒られちゃうし」


「ふふっそうですね……」


こんな素敵な人たちとずっと一緒に居たい……。


私の中で、もはや何をすべきかは決定し、私は心の中でティズさんの言葉を反芻する。


「……自分が、何をやりたいか……自分がどうありたいか」


「あ、でもだからって、ウイルのお嫁さんはダメよダメ……とび膝蹴りよ?」


私はそんな冗談を真顔で言うティズさんに微笑みかけながら、とりあえず今やりたいこと……このリンゴを全部食べる……を実行することにするのであった。


                      ◇

「迷宮教会を、国はどうするつもりだ!」


「教会のテロ行為を黙認するつもりか!?」


「どうなんだよピエール!」


「王は、また愚行を繰り返すつもりなのか?」


「ですから、ただいま迷宮教会の処遇については国が会議にて方針を固めている最中でございますぞ!」


「方針を固めるって……即刻排除すべきだろう! 奴らはテロリストなんだぞ?」


「相棒が呪いまみれにされて目の前で自害した! あいつらをまさか許せっていうわけじゃねえだろうな!」


「シンプソンのぼったくりとはわけが違うんだぞ!!」


「んんっ! これの対応を一人でやらされるというのはありえませんぞ!」


リルガルム市民たちが大勢詰め寄せる王城前……その発端はブリューゲルアンダーソンによる民家への放火と、クリハバタイ商店への襲撃……および冒険者の道での無差別殺害事件……。

もはやクラミスの羊皮紙による協定違反という次元ではない行為に、市民の不安は爆発しているようだ。


「……ピエールも大変ですね」


サリアはそう、一人対応に追われるピエールを王城の中から覗きこみ、そうため息を漏らす。


現在僕たちはレオンハルトの私室に通されている。


あの後、クリハバタイ商店の襲撃跡へと出向いたころには、残されていたのは焼き払われたクリハバタイ商店のみであり、その襲撃跡を取り囲むように町中の人たちが集まって来ていた。


当然だ、クリハバタイ商店はこの街一番の雑貨屋だ……。


冒険者はもちろん、街の人たちもこぞってこの商店を利用していた。


この街で一番愛されていた店と言っても過言ではなく、その場所が襲撃をされたということは、下手をすれば王都の襲撃よりも市民の人たちにとってみればショッキングな出来事であったと言っても過言ではない。


故に、このように不安や怒りを覚えた市民が、国の対応をこうして怒りをあらわにしながら見守っているというわけであるが。


流石の国もばかではない……。


レオンハルト曰く、ラビの力が僕たちの手に渡った時にはすでに、迷宮教会排除に動いていたらしく、あとは急ピッチで法案を通せばよい状態まで話は進んでいるらしい。


法案が通れば、王国騎士団は正式に迷宮教会排除に乗り出せる。


その後は、レオンハルト指揮のもと迷宮教会の一掃作戦が行われることになるわけだが……。


「決戦は明日という事ですか?」


「うん……王国騎士団を総出で向かわせて、迷宮教会本部をたたくそうだ」


「伝説の騎士フォースはどうするの~?」


「決戦に参加することを強く希望したよ……直接リリムさんの分ぶん殴ってやらなきゃ気が済まない」


「……わーお、ウイル君最近ストレスたまってるみたいだね……まぁでも、リリムっちをあんな目に合わせた奴らを許せないってのは私も同じ……地獄の業火で塵一つ残さず焼き尽くしてやるんだからー!」


敵がなりふり構わずこちらに襲撃をかけ、そして策をめぐらせるというのであれば、こちらは力づくですべてを壊せばいい。


迷宮教会が、僕を追い詰めるためにクリハバタイ商店を襲ったのかもしれないが……そのことが逆に、自らの首を絞める結果となったのだ。


そう僕は一人思案をし、リリムの姿を思い出して一人拳を握りしめる。


準備は万端……あとはレオンハルトが戻るのを待つだけ……。


だが何だろう……この、違和感は……。


「しかし妙ですね」


説明ができず表現すらできないような微妙な違和感であったが、そのぼくの心情を代弁するかのように


外の喧騒に紛れながらも、はっきりと……サリアは一人そうつぶやいた。


                        ◇


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