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217.リリムの無事とカルラとティズ

「リリム!」


僕はリリムに駆け寄り、そっとリリムの手を握る。


「起こしちゃだめよ、まだ絶対安静なんだから!」


その手は冷たく、脈も弱い……しかしリリムの目はしっかりと僕を見つめてくれていた。


「あ……そっか……私……迷宮教会に……あ、みんな……」


まだ少しぼうっとするのか、リリムはポツリポツリ思い出すかのようにそう言葉を漏らしていく。


「他の奴らなら大丈夫よ、アンタが一番重症だから安心しなさい……」


「そうですか……」


自分がこんな状態だというのに、リリムは安堵したような表情をしてほっと息をつく。


「リリム……君に何があったの?」


僕は、恐る恐るリリムの手を取りながら、そう問いかけると、少し瞳を閉じてリリムは口を開く。


「……ブリューゲルが来て……あなたは伝説の騎士の大切な人ですかと……聞かれたの、それで、友人ですと答えたら……襲われた……騎士団の人がはじめ助けてくれたんだけど……やられてしまって……けほっけほっ……それで……助けようとしたところで刺されて」


「う、ウイル君の大切な人を……」


カルラは驚いたような表情をし、同時に僕は怒りに唇を振るわせる。


「あんの腐れ司祭……直接手を出せないってわかったら速攻で無関係な人間に手を出し初めやがったってことね……ふざけんじゃないわよ」


「……けど……どうしてだろう……私を殺すって、言ってたのに……蘇生じゃないよね、これ……怪我しただけ? 私、殺されなかったの?」


リリムさんはそう不思議そうにそう語り、僕になぜかわかると目で問いかける。


「あぁ、それは……」


僕は、つらかったら止めてねと言葉を添えて、リリムに王城であったことを話す。


クラミスの羊皮紙の話し、そして、ギルドサブメンバーの名簿の話……そしてそれによりブリューゲルが手出しをできないようにするつもりであったことをすべて……。


リリムはまだ体がつらいだろうに、僕のうまくまとまらない拙い長い話を目を離さずに最後まで聞いてくれ、僕が話し終わると満足げにうなずいて。


「そんなことがあったんだ……じゃあ、私が生きてるのは、ウイル君とレオンハルトさんのおかげだね……ありがとう」


そう笑いかけてくれる。


感謝なんて……もらえる立場ではない……。


リリムを守れなかった……僕が守らなければならなかったのに……。


僕はリリムの手をそっと放す。


怒りで手が震え……頭の中がブリューゲルへの怒りで飲み込まれそうになる。


しかし……そんな僕の手を、冷たくも優しい指がそっと撫でる。


「リリム?」


その瞳は何かを訴えるようであり……僕は小首をかしげてリリムさんへと顔を近づける……と。


「……私は大丈夫だから……怒らないでウイルくん」


そう僕に笑いかけてくれる。


今……激昂してブリューゲルへ攻撃を仕掛ければ相手の思うつぼ……。


敵は明らかにこちらを挑発しており……ゆえに、だからこそリリムは……指一つ動かすのみつらいだろうに……こうして平気な顔をして笑い……僕に落ち着けと言ってくれているのだ。


本当に、リリムにはかなわない。


そんな姿を見せられて、僕は冷静さを欠いたままでいるわけにはいかず……一度瞳を閉じて深呼吸をし、冷静さを取り戻す。


「………………はぁ……ありがとう、リリム……落ち着いたよ」


「うん……良かった……ごめんねウイル君……少し、眠くなってきちゃった」


そういうとリリムは瞼を少し閉じてそうつぶやく。


僕はそっとリリムの布団をかけなおし、耳元に顔を近づけ。


「……後は任せて……お休み、リリム」


そうつぶやく。


「うん……行ってらっしゃい……ウイル君」


その言葉に、リリムは小さく微笑みながらつぶやくと、また静かな寝息を立て始める。


「まったく……どいつもこいつも人の事ばっかり心配するお人よしなんだから」


「サリア」


「はい」


「ついてきて……レオンハルトとシオンとで作戦を立て直す」


「十倍返しですか?」


「いいや、百倍返しだ」


「腕がなりますね」


「う、ウイル君……私……もう……」


「カルラ……君は必ず守り抜く……だから心配しなくていい」


「でも……」


「ティズ、二人をお願い」


「任されたわ」


ティズはそう軽く返事をすると、カルラが向いたリンゴをほおばり、何かを言いたげなカルラを置いて、僕はサリアと共にシオン、そしてレオンハルトの元へ向かうのであった。


 

                     ◇


「ティズ、二人をお願い」


「任されたわ」


扉が閉まり、私はウイル君に謝罪の言葉一つ言えずにそのまま部屋にティズさんと眠るリリムさんと共に取り残される。


「リンゴ、食べないのかしら?」


「へっ……あ、た、食べます」

そうティズさんに言われ、私はそっとリンゴを受け取り、ティズさんと一緒にリンゴを齧る。


甘い香りが私の口の中に広がり、同時に私は少し心が落ち着いていくのを感じる。


しばし無言の時間が続き、リンゴの咀嚼音と、リリムさんの小さな寝息だけが響き渡る小さな部屋で、ティズさんと私は並んでリンゴを黙々と食べ続ける。


と。


「あんたも大変よねぇ……あんなもんに追われて」


沈黙を破ったのはティズさんであった。


「ご、ごめんなさい……私のせいで」


胸が締め付けられる思いがする……私のせいで、ウイル君たちは家を失い、リリムさんは命の危機にまでさらされた……。


本来ならば罵詈雑言を並べられ、捨てられてもおかしくはない……だが。


「何謝ってるのよ、アンタは悪くないでしょうに」


ティズさんはきょとんとした顔で私にそう答える。


「でも、私がいなければ……」


「悪いのは迷宮教会でしょうに……大丈夫よ、ウイルがきっと何とかしてくれる……

あぁ、どうせならさっきあんたも、足腰立たなくなるぐらい全力でぶん殴っておくように伝えればよかったじゃない……惜しいことしたわね」


苦笑を漏らすティズさん……。


私はその笑顔に少し救われる反面……。


「どうして……」


そのやさしさに疑問を抱く。


「ん?」


「どうして……みんな私のことを責めないんですか?」


「責める? なんでアンタを責める必要があるのかしら?」


「こ、ここにいるのは、単なる私のわがままで、私が、私が逃げ出しているからこんなことになっているんです……。

 逃げて、逃げて、みんなに迷惑をかけて……最低な女なんです。 自分だけ幸せになろうとして、みんなを不幸にして……なのになんで、みんな私を責めないんですか? 責めてくれないんですか?」


みんな……私を大切にしてくれる人々が傷ついていき、私は胸が苦しくなる。


私が聖女として死ぬのをためらったから起こったことである。


周りに不幸を振りまいて私はその不幸を踏み台にして……幸せを手に入れているのだ。


しかし。


「逃げることってそんなに悪いことなのかしら?」


そんな私に対し、ティズさんはまた口にリンゴを放り込んでそういった。


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