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216.襲撃が終わり……

「……ふぅ」


僕はいかにも高級そうな不死鳥の羽ペンを机の上に置き、僕の身近な人間24人を書き終える。


流石にギルドマスターやトチノキは、役職上冒険者のパーティーに入れることは出来なかったが、僕の周りの人間はこれで襲われなくなるだろうとのことだ。


レオンハルトのリサーチのおかげで、書き足したのはほんの二三名……。


本当に狙われる可能性があるほど親しい人間しかクラミスの羊皮紙の対象には入れられないので、あぶれてしまった被害にあうかもしれない人は、王国騎士団が巡回して警戒をしてくれるとのことらしく、僕はレオンハルトに心から感謝する。


「ありがとうレオンハルト……私一人ではとても彼らを守り切れなかった」


「いえ、この程度ではまだまだ私を助けていただいた分くらいの借りしか返せていませんよ……」


笑顔でそう答えるレオンハルトに、僕はギルドエルキドゥの名簿を返却し、一息つく。


「これで先手は打ちましたねマスター……これからですが……カルラが回復次第……のろいを解く作業に移りましょう……」


「ああ、場所は迷宮一階層で行う……そこでカルラに呪いをすべて吐き出してもらう……心配はないと思うが最悪ラビの人格が出てきて襲われてもいいように、サリア……お前にカルラの相手を頼む」


「お任せください」


「では、我々王国騎士団は第一から第四部隊を出動させ、迷宮一階層の警護に当たります。

外部からの妨害を遮断する役目はお任せを……もちろん私も警護に当たります」


「心強い……しかし、呪いの対策はそちらもまだ不十分であるはず、呪術解除部隊が逆に呪われたという話はシオンから聞いているからな」


「面目ない」


「かまわない、シオン曰くかなり特別な呪いだ……ゆえに、シオンをレオンハルトに預けよう」


「シオン殿を?」


「呪いに対する知識は恐らくこの国で右に出るものはいない……さらには彼女のメルトウエイブは、【痛苦の残留】に対する切り札になる……だが、先の戦いで一対一では打ち消されるのがおちだ……しかし、レオンハルトとシオンの二人であれば」

「勝機は十二分にあると……」


「……その通りだ」


「分かりました……では、作戦はこの通りに……」


「できればエンチャント魔法も必要です……リリムにも協力を要請したいですね」


「ああ、そうだな……先ほど寄ったばかりだが、帰りに尋ねてみよう」


ギルドにもできれば応援を要請したいところだが……そうなると話が大きくなりすぎる危険があるため、候補から外す。


恐らくこれで大体の作戦は完成である。


あとは、適当な場所にメイズイーターの力を使って大きな部屋をつくるという作業が残っているが、それはまぁ問題はないだろう。


「では……そのように……迷宮教会の同行は、王国騎士団の方で監視を……」


つづけますので……そうレオンハルトが続けようとしたその時。


勢いよく応接室の扉が開かれ、ピエールが飛び込んでくる。


「んんんっ! 騎士団長! 騎士殿! 報告しますぞ! き、聞かないなどという選択肢は、ありえませんぞ!」


「どうした?」


その慌てぶりから、レオンハルトもただ事ではないことを察したのだろう。


僕もサリアも椅子から立ち上がり、そのままピエールに詰め寄るようにして報告を聞く。


「話せ」


「はいっ……たった今入った報告で、迷宮教会により、冒険者の道が襲撃されまして、クリハバタイ商店が全焼……死者多数となっておりますぞ!!」


「馬鹿なっ!? クラミスの契約は絶対だ……それに、四番隊・五番隊隊長を護衛につかせているんだぞ!」


その瞬間、レオンハルトの手からギルド名簿が取り落とされ……同時に僕はピエールにつかみかかる。


「っマスター!?」


「リリムは……リリムは無事かピエール!」


クラミスの羊皮紙の契約に、僕はクリハバタイ商店の店員の名前をすべて書き記したはず……だというのになぜ……なぜ襲撃されているんだ!?


「わ、分かりませんぞ! ただ、重傷者死者は全て……ガドックアルティーグの指揮のもと……迅速にクレイドル寺院に……」


「っくそったれ!!」


僕は、人生で一度も使ったことのないような暴言を吐き、ピエールを突き飛ばす。


「マスター、急ぎクレイドル寺院へ向かいましょう」


「当たり前だ、レオンハルト……クリハバタイ商店は任せたぞ」


僕はそういうと、レオンハルトの返事も待たずに駆け出していく。


「リリム……頼む……」


心の中で、リリムの無事を必死に願いながら、つぶれてしまいそうな胸の痛みを必死に抑えて……僕は疾走のクレイドル寺院へと走って戻るのであった。


                   ◇

「ひどい……なんですかこれは……」


王城からクレイドル寺院へと続く道を走っていき、寺院内に到着すると、そこは悲惨な光景が広がっていた。


けが人や死人が所せましと横たわっており、その一人一人をシンプソンがクーラさんと共に必死の形相で蘇生を繰り返している。


「シンプソン!」


そんなシンプソンに僕は駆け寄ると。


「あぁ、もう何だってんですかこれは!? 今日は非番なんですよ! だっていうのにこんなに……ってひえぇえ!?」


「リリムは? リリムはどこにいる!」


がなるシンプソンの胸倉をつかみ、僕はリリムの居場所をシンプソンに問いただす。


「ちょっ!? ちょっ!? り、リリムさんですか? リリムさんは……」


その言葉に、シンプソンは苦しそうな表情で寺院の一階層奥を指さす。


そこはカルラも使っている寝室だ。


僕はシンプソンを解放すると、すぐさま部屋まで走っていき……その扉を突き破るように開く……。


「リリム!!」


ベッドの上には、目を閉じたまま横たわるリリム……その顔は白く、僕は一気に血の気が引く。


「りりむ……まさか……」


サリアが息を飲み、僕はふらふらとリリムのそばまで近づき、恐る恐るその手に触れる……と。


「んっ……」


小さく、リリムは声を漏らした。


生きていた……よく見れば、小さく胸の部分が上下しており……リリムがしっかりと生きていることを確認する。


「寝かしておいてあげなさいな……運ばれてきたときは瀕死の重傷だったんだから。実際危なかったわよ、腹部貫通臓器破損……幸い急所が外れてたから、あほ神父の力で死ぬこたなかったけどね、でも絶対安静よ……。血が足りてないから起き上がれないだろうってシンプソンが言ってたわ。まったく……この子ったら、気絶する前にみんなに治癒のエンチャントをかけたみたいで……他のクリハバタイ商店の奴らもみんなぴんぴんして隣の部屋で寝てるわよ……一番の重傷者はこの子と、トチノキの二人だけね……起きたらほめてあげなさい」


「ティズ……いたの?」


「いたわよ、アンタがリリムにしか目が行ってなかっただけ……どうせそこのカルラも見えてないんでしょうアンタ?」


そういわれ、僕はティズの指をさす方向を見ると、リンゴを静々と剥いているカルラがいた。


「え、えと……わ、私はその……リリムさんが起きた時に、食べるかなぁと思って」


いい子だ。


「というか病人に何やらせてるのさティズ」


「うるさいわね、そこに転がってる芸術品見ればわかるでしょう! 見かねて取り上げられたのよ文句ある?」


「て、手を切ってしまいそうだったので……い、いいんですよウイル君……そ、その、何かしてあげたかったから……」


僕は苦笑をもらし、魔王の鎧を脱いで安堵と怒りが色々とごちゃまぜになった心を落ち着かせるために一つ息をつく。


二人の様子から、リリムの容態はもう安定しているようで、この場所にシオンがいないことに気付けるくらいにはようやく落ち着きを取り戻す。


「……シオンは?」


「襲ったのは迷宮教会の奴らみたいでね……まぁ、クリハバタイ商店襲うなんてあいつらくらいでしょうけど……とりあえず皆さん知っての通り呪いのパンデミックよ……それの対応に、今ナーガラージャもひっさげてシオンが解呪して回ってるわ……呪いを解かないと死んだ奴らも生き返れないからね……冒険者が大勢やられたわ」


僕は拳を握りしめて……迷宮教会への怒りを再度あらわにする……。


「んっ……ここ……は?」


そんな中、僕たちが騒いだのが原因だろうか?


弱弱しい消え入りそうな声を漏らしながら……リリムが目を覚ますのであった。


                     ◇


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