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214.知将・レオンハルト

「お待たせいたしました……フォース……サリアさんも一緒のようですね」


しばらく客室で待つこと数分、ヒューイのいう通り少し慌てた様子でレオンハルトが客室へとやってくる。


その姿はいつもの鎧姿とは異なるゆったりとした黒い衣装をまとっており――恐らくはここの議会に出席するようの衣装なのだろう――帯刀もせずに代わりにその手には大きな辞書の様な分厚い本を持っており、小さなメガネが鼻の頭に飾りのように乗っかっている。


「いや、こちらこそ突然の訪問申し訳ない……ただ、私の留守中にウイルたちが世話になったと聞いてな、どうしても礼を言いたくて」


「はっはっは、友ならば当然のことですよ……それに、アルフの頼みもありましたからね……」


「いや、だがレオンハルトがいなければ、カルラを失っていたのだ……礼を言わせてくれ……ありがとう」


「ははは、照れますな……」


レオンハルトは本気で顔を赤く染めながら、そのたくましい肉球でひげを撫でて、客室の椅子に座る。


「本来ならばもっときっちりとした場所へ移動して、儀礼に沿った面会をするべきなのでしょうが……そういうのは御嫌いでしょう? フォース」


レオンハルトは僕と向かい合い、苦笑を漏らしてそういうと、小さくニャンと泣き、使用人を呼ぶ。


「気遣い助かる」


現れた使用人は、僕たちの会話を邪魔することなく、手際よく音なく茶会の用意を進めていき、僕とサリア、そしてレオンハルトのティーカップに、イチゴの香りのする紅茶を注いでいく。


流石は王城……使用人のレベルも最高峰だ……。


「して、貴方のことです、今回は礼を言いに来ただけではないのでしょう?」


そんな使用人の動きに見惚れながら、僕はさっそく紅茶を楽しもうとヘルムの口元を開けようとすると、レオンハルトはそう問うてくる。


「あぁ、まぁな……ついでに握手会の日程も決めておかなければと思ってな」


「ふっふふ……それはありがたい。 皆が皆あなたとの握手を楽しみにしていますからね」


「サインもだったか?」


「そうです、あぁ、紙とペンはこちらで用意するのでご心配なく。 そうですね、日程はいつでも大丈夫なのですが……」


「では、現在抱えている問題を解決したらすぐにでも……で構わないかな?」


僕の言葉に、レオンハルトは眉をひそめて反応をする。


「迷宮教会……ですか……何か不穏な動きでも?」


レオンハルトはそう紅茶を口に含みながら、目だけをこちらに向けてそう問いかけてくる。


それに対し僕は首を横にふり。


「今は何も……」


とだけ答える。


そう、昨日の今日だ、迷宮教会とてすぐにしかけてはこないはず……しかし。


確実に何かを仕掛けてくる、それだけは確信をしている。


あれだけ、自らのラビという妄念にとらわれている狂信者だ、協定なんてものに縛られるつもりなどないはずだ……。


「確かに、ブリューゲルが諦めるとは思ってはいません……そして、必ずクラミスの羊皮紙による協定の穴をついてく……といったところでよろしいですか? フォース」


「ああ、考えられる協定の穴を考え、迅速に対処をしていきたいと思っている。 だが、迷宮教会は規模も大きければ、強大だ……不意打ちとはいえ、私のサリアが後れを取るほどだからな……ゆえに、友の力を借りなければならなそうなのだ」


「私の……」


変な所でサリアが反応し、目前のレオンハルトは僕をしばらく見つめると、優しい笑顔を作り。


「ようやく私も、フォースの真意を推し量ることができるようになったという事ですかね、光栄です……」


そう満足げにうなずく。


「買いかぶりすぎだが……」


レオンハルトは嬉しそうにそう語るが、僕はかぶりを振ってそその言葉を否定する。


「ご謙遜を……まぁしかし、フォースの考えている通りで間違いないかと……我々はあそこで、クラミスの羊皮紙により、迷宮教会の行動を抑制しました……しかし、抑制できたのはあなた方パーティーメンバーと忍の少女への危害だけだ……恐らく、次に狙われるのはあなた方に関係のある者たち」


予想はしていた、しかしその現実を突きつけられると僕には悪寒が走る。


「ええ、ブリューゲルはまず間違いなく……あなたに近しいものを襲い始めるでしょう」


念を押すようなレオンハルトの言葉に対し……僕はしばしの沈黙を流した後……。


「なぜ、そのような協定にした?」


そう、少しの疑念を込めてレオンハルトを問いただす……。


この状況が生まれることが分かっていたのなら、なぜ、騎士の関係者と言わずにパーティーといったのだろうか……。


しかしレオンハルトは少しばかり複雑そうな顔をして。


「あの時は、ああするしかありませんでした」


そうつぶやく。


「なぜ?」


「クラミスの羊皮紙は万能というわけではないからですよマスター」


その質問には、隣のサリアがそっと口をはさんで教えてくれる。


「羊皮紙のせい?」


「ええ、クラミスの羊皮紙というのは、あくまでも契約書なので、単一に明確に記されたことに対しては絶対な効果を発揮しますが、あいまいな表現は無視される、もしくは縛りが緩くなる傾向にあります。 例えば、リルガルム金貨10枚を支払うことを約する……というように明確な条件を提示すれば、クラミスの羊皮紙は契約の履行違反に対して魔法を行使します。しかし、単純に Aは仕事を頑張る。とか、 Aは会社の命令は全てきく……など、契約内容が単一でなかったり、表現があいまいであったりする場合は……クラミスの羊皮紙はこの部分を契約とはみなさなかったり、魔法の行使がわずかになったりするのです」


「サリア殿のおっしゃる通りです……あの時私が、カルラ殿と伝説の騎士のパーティー……といったのは、できるだけ目標を絞り込み、クラミスの羊皮紙の効力を高めるため……あいまいな表現に近いかもしれないですが、カルラという少女……そしてギルド登録されているメンバーを対象にするため、クラミスも効力を発揮します」


「ですが、友人となると話は変わる……明確に記録に残されているものはなく、マスターの認識の問題になってしまいます。 人類皆友達……と本気で思っている人間もいますからね……クラミスの羊皮紙は人の認識までは関与できないですから」


「なるほど……」


僕はサリアとレオンハルトの説明に一通り納得をして、うなずく。


そして。


「では、今度はその穴をついてくるブリューゲルへの対処法が問題になってくるのだが」


次の話題に移行する。


「一番早いのは、騎士殿が、ご友人をギルドメンバー登録されるという事。

最大六人までしか、エンキドゥの酒場のパーティーに入れることができませんが、サブパーティー……いうなれば、~ぎんこう~~にもつもち~のようなサポーターとして登録すれば、最大24人までは安全を確保できるはずです」


「では、急いでエンキドゥに向かわなくては……」


僕はそうレオンハルトに言い、席を立とうとするが……レオンハルトは僕を制止するように手を出して。


「……そういうと思いまして、勝手ながら私があなたの関係者をすべて登録させていただきました……これがリストです……漏れがありましたら、ここで記入を」


そう手に持っていたギルドエンキドゥのギルドメンバー登録簿を僕の前で開いて見せたのであった。

      


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