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213.ヒューイ・アルデンバーグ

サリアと共に無理やりなテンションを保ちつつ、僕たちは王城へと向かう。


全てをなかったことにしたおかげか、僕たちの気まずい雰囲気は比較的短い時間で終了し、今はサリアの愛読書であるというクッコーロの騎士の話をしながら、王城を目指す。


「クッコーロの騎士というのは実は実在の人物で、実際に体験した冒険譚をつづったものがベストセラーになったのです」


「クッコーロの騎士、確かエルフの女騎士が主人公の冒険譚だよね……今は確か、100巻くらい出てるんだっけ?」


「正確には153巻であり、154巻、オークキング・ハーラ・マセール編最終章が来月出る予定です」


「すごい人気だよね……僕が生まれる前……いや、部族戦争前からある話みたいだけど」


「ええ、作者は実際にはライカンスロープらしいのですが、当時戦闘では弱者のイメージが強かったエルフを主人公にすることで、最弱の戦士が何度も死の淵を這い上がり、努力と己の信念を頼りに突き進む姿を描き、皆がその姿に感動をしたのです……私もこの本が無ければ、今の自分はなかったでしょう。 私もいずれ、クッコーロの騎士になりたいものです」


不思議とテンションが上がっている間の方が会話は弾むものであり、他愛のない会話を続けながら歩いていると、気が付けば王城の正門前へと到着する。


「やはり、裏路地から行くと早いですね」

人込みにはあれ以降会うことはなく、予定していた時間よりもはるかに早く王城前へとたどり着く。


「よし、じゃあ行きますか」


ここからは伝説の騎士としてふるまわなければいけなくなるため、気合を入れるために

僕は咳ばらいを一つして、王城前に立っている警備兵の前へと姿を現す。


今日はウイルではなく伝説の騎士として姿を現すため、いつも渡していた伝説の騎士からの挨拶状は必要ない。


「あっ!? あなた様は!?」

 

魔王の鎧とサリアを見るなり、王城前の兵士は驚いたように姿勢を正し敬礼をする。


僕が来た時の対応と比べると、伝説の騎士の場合はやはり扱いが全然違うようだ。


「突然の訪問済まない……レオンハルトはいるか?」


「き、騎士団長ですか……あの、その、レオンハルトはただいま王都復興会議の最中でして……その、時間をいただくことになるのですが……」


「アポイントメントも取り付けずに訪れたのはこちらだ……終わるまでここで待たせてもらう……いいな、サリア」


「ええ」


「そそそ、そんな!? こんなところで騎士殿を待たせたら団長に何されるか……じゃなくて!? 汚い所ですが、お客様用の部屋がございますので! もしよろしければそちらでしばしお待ちを!」


「ささ、こちらからはわたくしが案内しますぞ! んんっ! 私の名前はピエール! 

この門番をしておりますぞ!」


そういうと門番の兵士は紹介状を見た時の三倍の速度で走っていき、もう一人、ピエールと名乗った男はゴマをするような手つきをしながら僕をこの前レオンハルトに通された待合室まで案内してくれる。


……なんというか、初めて来たときとは全く違う対応に違和感を感じてしまう。


これが伝説の騎士と、一般人ウイルの差なのだ……。


今まで薄々と感じてはいたが、こうも直接的に扱いの違いを感じてしまうと、自分がいかに大ぼらを吹いているかを思い知らされるようで少し申し訳ない気持ちになる。


気が付けば、自分から進んで嘘を利用し始めているあたり救いようがない……。


「マスター……」


「んん? いかがなされましたかな伝説の騎士殿? 体調不良であれば、治癒魔法を扱う司祭の元へご案内しますぞ」


「い、いや、大丈夫だ……門の見張りは大丈夫なのか、と思ってな」


「ぶっちゃけ問題は大ありですが、伝説の騎士殿が城の中にいて、何か不安になるようなことがありますかな!?」


すごい信頼の仕方だ……。


僕はそんな平和ボケをしているのか、それとも本当に平和なのかわからない返答にこれ以上言葉を続けることができず。


「そうか、そうだったな、すまなかった」


とりあえずピエールにそう伝え、何度か通った道をとおり、客室へと足を運ぶ。


と。


「おや……あなたは……騎士殿?」


その道中、薄い青髪と、白銀の鎧をまとった騎士と鉢合わせになる。


「ややっ! これはこれは副団長殿ではありませんか! 何たる奇縁!」


敬礼をし、そう語るピエールの発言から、この男性は副団長なのだなとそんなあたりまえの感想を抱きながらも、僕は軽く挨拶をかわす。


「副団長殿……お初にお目にかかる……私は」


「お初?」


ピクリと眉を顰める副団長の行動に、僕は言葉を止める。


どうやら地雷を踏んでしまったようだ。


「え、えと……どこかでお会いしただろうか?」


ヒューイの発言に、ついつい素になって聞いてしまう僕に、副団長は一度考える様な素振りを見せたのち。


ここぞとばかりに首を左右に振り。


「いえ……初対面です。 ええそうですとも……決してどこかで出会ったことなどありません……お初にお目にかかります、伝説の騎士・フォース殿、王国騎士団副団長を務める、ヒューイ・アルデンバーグともうします……先日の王都襲撃時は、あの筋肉猫だるまを助けていただきまして、誠にありがとうございます」


「筋肉猫だるま」


恐らくレオンハルトのことだろう……。


「えと……」


ヒューイと名乗った男性の発言に僕は一瞬困惑すると、ヒューイはさらに言葉を続ける。


「あんなのでも我が王国騎士団のトップですからね……本当にもうあの猫だるまは、いっつも自分が我先にと敵へ突撃するんですから……大将が出張ってどうすんだっていつも言っているのですが……これからは気を付けさせますので……」


「いや、助けてもらうのはお互い様だ……レオンハルトにはいつも世話になっている」


「そういっていただけると幸いです……はぁ、本当にあの猫は……私室で猫飼うなって言ってるのに守らないし……はぁ」


ぶつぶつと文句を垂れるヒューイ……どうやら苦労性のようだ。


「んんっ?? ヒューイ殿、騎士殿の前だからと言って自分を偽るのはありえませんぞ! 

ヒューイ殿の部屋にはレオンハルト様の肖像や写真が数枚飾られているのをこのピエールは知っていますぞ! お部屋にお食事をお運びしたときにバッチリチェック済みです! あと、王都襲撃の時も貴方……」


「いいから! そういうのは今いいからピエール!」


「むむっ、私の役割上ここであなたの説明をいれないことはあり得ませんぞ!?」


「いいから黙れ!」


饒舌に語るピエールに対し、ヒューイは顔を真っ赤にしてそう叫ぶ。


「えと」


「あっ! し、失礼しました騎士殿……こほん……今日はレオンハルトと面会ですか?」


「え、ああまぁ。 ただ忙しいみたいだから、少しここで待っていようかと思ってな」


「なるほど……あの猫だるまはいてもあまり役に立たないので、連れてきますよ……恐らくレオンハルトも私と席を変わることを望んでいるはずですし……まったく、私がいないと本当にダメなんだからあの猫は……」


「……レオンハルトを、お慕いしているのですね、ヒューイ」


「はああぁ!? ななな、なんで私があんな猫を!? れ、レオンハルトなんて、剣の腕が立って、みんなから慕われてて、戦いでは頭が切れて、私もちょっとあこがれてるくらいで……そんな猫のことをどうして私が」


「理由をすべて述べてしまっておりますぞ、副団長殿」


なにやらほっこりとした微笑みを僕とサリアとピエールは浮かべ、和やかな雰囲気があたりに漂う。


なんだろう、この見ていてむずがゆくも甘酸っぱい感覚……。


「と、とにかく……レオンハルトを連れてきます……あ、あと、私がその、レオンハルトを………す、すす、好き……とかそういう話はしないでくださいね! いいですね!」


顔を赤くしながらヒューイは慌てふためきながら廊下を歩いていき、会議室へと向かう。


僕たちはなんとも言えないほっこりとした笑みを浮かべながら、しばらくその背中を見送り。


「頑張って……」


サリアは小さくそうつぶやく。


「いやいや、あの副団長が騎士団長を嫌いだというのはありえませんぞ!」


「そうだね……性別の垣根なんて、あの人を見てると些細な問題なんだなって思うよ……」


「……マスター……何言ってるんですか? あのひと、女性ですよ」


『ゑっ?』


僕と同時にピエールも、そのサリアの発言に目を見開いたのであった。


                       ◇


王国騎士副団長ヒューイ・アルデンバーグ。 本名・ソルトヒューナ・アルデンバーグ

男性と偽り王国騎士団に入団、その類まれなる知力と器用さから、レオンハルトの側近となり、王国副団長を任ぜられる。


入団時、レオンハルトには、己の力を試すためにここに来たと明言をし気に入られたが、実際は子供のころに村が魔物に襲われたところを王国騎士団長レオンハルトに救われたことからレオンハルトにほれ込み、愛の力で副団長まで上り詰めた一途な努力家。

しかし、腕っぷしが命な騎士団の中でやっていくために、男性と偽って入団……しかしほとんどの騎士達—―ロバートも含め――彼女が女性であると気がついてはいる。 鈍感な奴以外。

最近レオンハルトに対して素直になれないのは、レオンハルトが野良猫を私室で飼いはじめ愛人といって真剣に交際を始めてしまっているため、やきもきしているからである。


ちなみに、レオンハルトはまだヒューイが女性であることに気づいていない……。


彼女の恋路は、長く険しいものになりそうである。


苦労性。


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