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211.二刀

「朧狼と陽狼?」


サリアはその刀の名前を復唱すると、そっとその二振りを手に取ると、鞘から引き抜く。


現れたのは、これまたそれぞれ黒と白の美しい刀身。


一見色味からただの鉄の棒にも見えなくはないが、目を凝らすと、それぞれしっかりと薄く赤い波紋が入っているのが見て取れる。


「なるほど……これは」


サリアは納得いったように右手で持った黒い刀身の刀、朧狼を軽く振るう。


風切り音の音は高く、振り切って静止をした瞬間に、小さく鍔鳴が響く。


たったそれだけの動作……。


しかし黒い残像と刃紋の赤い線を引きながら振るわれるその剣閃は美しく……僕は目を奪われる。


「どう?」


リリムは少し興奮気味にパタパタと尻尾を振りながらサリアにそう問うと。


「すごい……手に吸い付くようです……。 重さも、刃の長さも……初めて触れるはずなのに、長年使い続けてきた愛刀の様に扱いやすい」


「でしょでしょ! サリアさんとのお話と、王都襲撃の時のサリアさんの戦い方から、サリアさんにぴったりの刀を作ったの! まぁでも、サリアさんみたいにすごい人の剣なんて作ったことなかったから、うまく作れるかは不安だったんだけど……よかった~」


「ええ、パーフェクトですリリム……こんな素晴らしい剣に私は今まで出会ったことがない」


一度振ってみて、サリアもその剣の虜になったのだろう、興奮気味に刀の感想をリリムへと語る。


「うふふ、ありがとうサリアさん」


「しかし……なぜ二刀一対なの?」

サリアが扱う剣技は、サムライの剣技であり、特技は抜刀術だ。


二刀で戦う姿を見たことはないし、サリア自身二刀流であるということを僕に語ったことはない。


「それはね……」


しかしリリムは僕の方に自慢げにウインクをすると――すっげーかわいい――

なぜ二刀を作ったのかの説明をしてくれる。


「サリアさんの剣を二刀にするって決めたのは、サリアさんに王都襲撃の時の話を聞いていた時……サリアさんの話しぶりだと、なんだか違和感があって」


「違和感?」


「サリアさんの戦い方って、刀が武器なのに片手で戦ってるみたいなんだよね、侍は基本的には刀を両手で持つものだから……深くは聞かなかったんだけれども、もう片方には何か持っていた……もしくは片腕は他の用途があったんじゃないかなって思って」


「ああ、確かサリアの師匠ってパリイを使ってたんだよね?」


「え? ああそうですね」


「パリィ……なるほどね……それなら片手で戦う理由も分かるね」


僕はサリアの師匠であるルーシーズゴーストのことを思い出す。


彼は確かに剣を片手でふるっており、もう片方の腕はパリイに使用していた……。


あれ? そういえば……。


「そういえばサリアってパリイ使わないよね」


「あうっ!?」


僕はそんな素朴な疑問をサリアに投げつけると、サリアはぎくりという言葉がぴったりの表情をして声を漏らす。


「どうかしたの?」


「へ? ああいえ?」


「そう? じゃあもう一回聞くけど、サリアってパリイ使わないよね」


「え、ええまぁ……お恥ずかしながら、私は、その、お師匠の弟子でしたが、パリィの方は全然習得ができなかったもので」


サリアはそう二度目の質問に観念をしたようにそう答える。


「パリイを習得できなかったって……意外だね……器用そうなのに」


リリムは驚いたような表情をしてサリアにそういうと。


サリアはばつの悪い表情をしたまま。


「いえ、その違うんです……剣を捉えることはたやすかったのですが、私がパリィをすると……その、どうしてもその剣が折れてしまって」


「あぁ……」


「なんで納得するんですかマスター! 違いますよ! 私の筋肉がすごいんじゃなくてですね、私が習得している武器破壊のスキルが勝手に発動してしまうだけで……」


「まだ何も言ってないよサリア」


サリアの悲痛な叫びに対して僕は乾いた笑いを浮かべ。


それを見ながら、リリムは一人納得いったというようにうなずき。


「うん、まぁそれでね、手持無沙汰だったみたいだから、剣をもう一本増やして二刀流ってしたの……」


「まぁ……確かにリリムのいう通りですね……別段二刀でも扱えないわけではありませんし……片手を使わないままよりも、双方で剣を持った方がパリイを使えない私にしてみれば有用ですね……お師匠も、パリイ専用の短刀をもって二刀で戦うこともありましたし……私の扱う剣術は二刀で戦うことも想定されている……」


「そうだったんだ! よかった、スキル・二刀流を習得してないから装備が出来ません……とか言われたらどうしようかと思ったよ」


リリムはそんな冗談を漏らすと、サリアはそれに笑みを浮かべて微笑み。


そのまま朧狼と陽狼を腰に差す。


「腰に二振りさしているというのに……軽い。 とてもいい刀ですねリリム……ありがたく頂戴いたします」


「いえ、こちらこそ」


「そういえば、これだけの刀です、何かエンチャントにより特殊な能力がかかっていると思うのですが、例えばマスターのホークウインドのように能力向上とかは何かかかっているのですか?」


サリアはそう、剣の力についてリリムに問うと。


「確かにエンチャントはかかっているけど、かかっているのは二つとも同じで……【鋭き刃】と【折れず曲がらず】の二つだけ……これをかけられるだけかけてるの」


「剣の強度と切れ味を上げる上級エンチャントですか……意外ですね」


「うん……サリアさんには小手先や、ほんの少しの身体能力向上の魔法じゃ意味がないと思って……そんなものを付け足すくらいなら、絶対に折れないで、何でも切れる最高の【刀】を提供する方が喜ばれると思ってね。 この刀なら、どんなに強く振るっても絶対に折れないから!」


「なるほど……あなたの言う通りだ……本当に素晴らしいです、リリム」


サリアの反応は、リリムさんの想像以上のものであったらしく、自らの作品を気に入ってもらえたことから尻尾をパタパタとさせて見るからに喜んでいる……。


本当にかわいい。


そんなリリムさんをもう少し眺めながら、そのカウンターに乗っている豊満な果実をもっと拝んでいたいのだが……僕はやることもあるので刀を受け取るとそのまま店を出る準備をする。


「じゃあ、そろそろ行こうか……サリア」


「もう出ちゃうの?」


「ええ、これから色々とやることもあるので」


「少し王城の方まで行かなきゃいけなくて……もう少しゆっくりしていきたいんですけど」


「ううん、やることがあるなら仕方がないよ……また今度、ゆっくりとお話ししようね、ウイル君」


「は、はい! よろこんで!」


「では、失礼します」


「ありがとうございました! これからもごひいきに!」


僕たちはそう最後の挨拶をかわし……笑顔のリリムが見送ってくれる中クリハバタイ商店を後にするのであった。


                   ◇



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