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210. 二刀・朧狼と陽狼

「折ってくれた?」

リリムの言葉に僕は疑問符を浮かべる。


「まるで折ってもらうのを期待していたみたいな言い草だけど」


僕はリリムさんにそう聞くと、リリムさんはうんと小さくうなずく。


「ごめんなさい、騙したわけじゃないんだけれども……その刀ムラマサは渡した時成長する刀だって言ったと思うんだけど、正確には勝利を得れば少しづつ、敗北を知れば劇的に進化する刀なの。

その進化は敵が強ければ強いほど成長するから……だから、成長もかねてついでにおられることも期待して、代刀として貸し出してるんだよ」


なるほど……代刀という割にはかなりの業物であると思っていたがそういう意図があったのか。


「つまり……折れたとしても問題はないと?」


サリアはとても安堵をしたような表情でそう語る。


「うん、サリアさんは雑に剣を扱う人じゃないしね……まさかこんな短期間で折れるとは私自身思っていなかったけど……一体何を切ったの? サリアさんレベルが剣を折られるとなると、ブラックドラゴン? それとも……フレイムジャイアント?」


九階層の魔物の名前を挙げ連ねるリリムであったが、サリアは一瞬いうべきか言わざるべきかを考える様な素振りを見せて。


「……えーと……む、無限頑強のアルフレッド」


そうつぶやく。


「無限……あるふ……? え? えええ!?」


魔物の名前が出てくるとばかり思っていたら、伝説上の人間の名前が出てきてリリムは困惑したような声を上げる。


無理もない……伝説のスロウリーオールスターズと知り合いだというだけでも驚きなのに、それと戦っているというのだから……。

わけを知らない人間からしたらふざけているのかと怒られても不思議ではない。


「そ、そうだったんですか……えーと……スロウリーオールスターズの……だよね」


「うん」


「あぁ、やっぱりそうだよね……となると」


そういうと、リリムはサリアが手渡した刀を受け取り、折れた刀身を引き抜き匂いを嗅いで鑑定をすると……。


「あー……あー……」


「どうしました?」


「到底人類では扱えないほどの代物になっちゃってる……」


そう困ったような言葉を述べる。


「人類では!?」


「うん……打ちなおすことは可能だけど……すごいよこれ……きっと神様だって真っ二つだよ……下手に素人が持ったら、いろんなものが両断されちゃう……うわ、これもうだめだ、代刀としても渡せないし、危なすぎて人には売れない……下手したら今のサリアさんでも……扱えないかも」


このスペックお化けのサリアでさえも扱えないならば、確かに到底人類では扱えないという表現は間違いではないだろう……。


「ご、ごめんなさい」


サリアはこまったような表情を見せて謝罪をするが、リリムはこまったと言いながらもその表情はどこか誇らしげだ。


「ううん、鍛冶師として間違いなく文句なしの一品ができたよ……本当にありがとうサリアさん、サリアさんのおかげで私、最高の一振りが作れたの!」


職人として、良いものが作れたということは至高の喜びであり、リリムはムラマサをカウンターに置くとサリアの手を取って飛び跳ねる。


「で、では、弁償は」


「そんなのいらないよー! 実際刀を作るのを手伝ってもらったみたいなものだからね! 成長の具合も、もうこれ以上は望めないって程だったし! サリアさんに頼まれてた刀の代金もいりません!!」


「ほ、本当ですか?」


サリアはその言葉に瞳を輝かせて僕とリリムを見比べる。


「うん! いただこうとしていた金貨千枚……そのくらいの価値は十分にある刀だよこのムラマサは。本当にありがとう、さっそく打ちなおして……非売品として展示することにするよ! これだけの名刀なら、誰も文句なく私の剣を買っていってくれるはずだから!」


リリムは嬉々として折れたムラマサを持ったままそう語り、サリアは心底嬉しそうに胸をなでおろす。


「お力になれて光栄ですリリム……」


そう務めて冷静そうに言っているが、内心では飛び上がっているに違いない。


僕はそんなサリアの様子がおかしくてついつい苦笑を漏らし……。


「あ、そうだ……ムラマサがこんな感じだから……サリアに新しい代刀が欲しいんだけど」


さらに代わりの刀がないかどうかをリリムに尋ねる。


刀を折っておいて、さらには刀の代金もいらないと言われた状態で、代わりの刀の話をするというのはいささかぶしつけなような気もしたが……。


迷宮教会がどう出てくるかもわからない現状で、防衛の要であるサリアが丸腰というのは大幅な戦力ダウンとなるため、避けたい……。


そんな思惑からリリムに対し、新しい刀を要求した僕であったが。


「その必要はないよ」


リリムは僕の言葉に首を横に振るい、そう答える。


「必要はないというと……」


「さっきウイル君たちのことが心配だったから町中を探したって言ったけど、実あhサリアさんの刀の完成報告もかねて探していたの。 今朝ね、ちょうど研ぐのが終わったところ、サリアさんにとっては、このムラマサよりもいい業物として扱えると思う。 間違いなく私の持てるすべてをつぎ込んだ最高傑作!」


「私のための……私だけの刀」


サリアは今まで武器を消耗品としてしか扱っていなかったせいか、感じたことのない感覚にぼんやりとした表情でリリムの言葉を復唱する。


「じゃあ、今すぐ持ってくるね!」


そんなサリアの表情など見えていないのか、リリムは少し興奮気味にそう語ると、慌てて奥の部屋へ刀を取りに戻っていってしまった。


「一体……どのような刀なのでしょう」


初めてオーダーメイドの自分の刀を手に入れるサリアは、やはりどこかワクワクを押さえきれないらしく、僕にそんな質問を投げかけてくる。


「え? んーどうだろう……なんでも切れる剣とか?」


「おおぉ、それは良いですね! あ、もしかしたら、とてつもなく長い剣だったり! 東の異国の昔話に、そんな剣を使った早切りの達人がいたと聞きます!」


サリアはそう自分の刀に対する思いを募らせ、楽しそうに語らう……その姿は本当に嬉しそうだ。


これだけでも、サリアの為にリリムに刀をお願いしてよかった。


そんなことを思っていると。


「……お待たせ―!」


リリムさんは何やら木の箱のようなものをもって走ってきて、カウンターの上に置く。


種類はキリであり、大きさは刀がすっぽりと入るぐらい……刀を入れるにしては少しばかり大きすぎる様な気はするが、恐らくリリムさんのことだから、手入れ用の道具等も一緒に入れてくれているのだろう。


箱自体はとても独特のいい香りがし、とても高級感溢れる色合いであり、リリムさんが本当に心を込めて打ってくれたということが伝わってくる。


「これが……」


「うん、サリアさんの新しい刀……開けてみて」


「! はい!」


子供にプレゼントを渡す母親の様な優しい笑顔にたいし、プレゼントをもらった子供のように幸せそうなサリアは内心は焦りながらしかしその手はゆっくりと……その木の箱を空ける。


そこにあったのは……。


「……二振り?」


柄・鍔・そして鞘のすべてが黒い刀と……白い刀……合計二振りの刀が入っていた。

 

「リリム……これは」


サリアは一瞬どういうことかとリリムを見ると、リリムは自慢げに胸を張り。



「これが、私が打ったサリアさん専用の二刀一対の刀……朧狼おぼろ陽狼かげろうだよ」


そういった。


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