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209.折れたムラマサと忘れてたサリア

「やっぱり、この格好で歩くのは恥ずかしいなぁ」


「ですが、とても似合っておいでですよ」


「フルプレートに似合うも何もないと思うんですけど」


魔王の鎧を装備し、螺旋剣ホイッパ―を腰に下げ……僕は町へと赴く。


がしゃりがしゃりと音を立てて歩くたびに、人々の視線を集めてしまうのは少しばかり気恥ずかしく申し訳ない気持ちになるのだが。


僕はそれを一切気取られないように注意しつつ、冒険者の道を歩いていく。


「みろよ……伝説の騎士だ……」


「ほんとう……素敵……」


ぼそぼそとささやかれる噂話が耳へ飛び込んでくる……。


そのすべてが僕に対して前向きな言葉ばかりなのは救いだが、どうにもむずがゆくてしかたがない。


「……ところでマスター、今日はどのようなスケジュールを組まれているのでしょうか」


そんな僕とは対照的に、周りの目など意に介さないといった様子でサリアは僕にそう問いかける。


普段の僕であるならば今頃嫉妬にまみれた男どもの舌打ちが飛び交っているのだろうが、僕は今伝説の騎士という立場であるために皆が皆納得いったような表情をしてくれている。


むしろ、耳を澄ませてみると、サリアに対して羨ましいという言葉を発している人間がいるくらいだ……。


随分と偉い存在になってしまったものだ……。


「マスター? 聞いていますか?」


「え、ああうん。 スケジュールだよね」

いつもなら偉そうなしゃべり方をするところだが、サリアが割と密着しているという事と、冒険者の道が騒がしいということもあり、僕はサリアと普通に話す。


「ええ、マスターの話では、王城へ向かうとのことでしたが、王城は反対側です? 寄り道でもなさるのですか?」


サリアは首をかしげながら僕にそう問いかけ、僕はそれに首を縦に振る。


「そうだね、まずはクリハバタイ商店に寄るよ」


「クリハバタイ商店に……なるほど、ブリューゲルに焼かれてしまった日用品やアイテムを補充するのですね? さすがマスター」


ん?


そういつものようにサリアは嬉しそうに僕をほめたたえるが、僕はその反応に疑問符を浮かべる。


まぁたしかに、ブリューゲルに焼き払われてしまった回復薬や気付け薬などの補充は必要ではあるが……それよりも僕たちにはもっと大きなイベントがあるはずなのだが。


「まさかサリア……忘れてるとか……ないよね?」


「忘れてる?」


この反応……そのまさかであった。


「いや……ムラマサ折ったこと、リリムに謝りに行かなきゃ」


「……………あっ………」

瞬間、サリアは目から鱗が落ちたような表情をしたのちに、顔を青くする。


どうやら色々あったせいか、完全に自分がムラマサを折ったことを忘れてしまっていたらしい。


「……ままま、マスターどうしましょう……あああ、あれだけの名刀です、わわ……私弁償しろって言われても、お金……ないです!」


「ただでさえ刀を一本お願いしている身だものね……だというのに忘れてるとは」


「ひいいん!! ごめんなさい! ごめんなさいマスター! 違うんです、本当に色々とショックなことが重なってついつい忘れちゃっただけなんです! なんなら、何なら今から迷宮潜って素材集めして来ますから!」


サリアが珍しく慌てふためいている……いつもクールな彼女であるが、こうやってたまに可愛らしい少女が垣間見えることがあるから素敵だ。


「まぁ、お金のことに関しては何とかなるでしょ……メイズイーターの力もあるし、まだ王都襲撃の際に倒したブラックタイタンとか、エンシェントドラゴンの素材のお金もあるんだし……まぁシンプソンの報酬の件もあるし、あまり楽観視できる状況ではないけどね………最悪新しいおうちを立てるのは諦めなきゃかもしれないね」


サリアは顔面蒼白のまま口をパクパクさせている。


恐らく、そこまで我が家の懐事情が厳しいなどとつゆほども思っていなかったのだろう。


あぶく銭とはよく言ったものであり、臨時の収入は不測の事態によりあっという間になくなることになるのだ。


「そんな……私のせいで、おうちが」


「君の所為ではないけどね……まぁでも、まずは謝らないとだよね」


「はい……」


サリアはがくりと肩を落として落ち込んでいる。


「大丈夫だよサリア、僕も一緒に謝ってあげるから」


「ありがとうございます」


恐らくリリムさんに怒られるのを恐れて肩を落としているのではないことはわかってはいたのだが、僕はほかにかける言葉も見つからなかったので、とりあえずそうサリアを慰めるのであった。


                    ◇


「いらっしゃいませー! あっ! ウイル君!」


いつものようにクリハバタイ商店へと入店し、リリムが担当する武器防具のブースへと足を運ぶと、いつものように嬉しそうな表情で尻尾を振るって歓迎をしてくれる。


本来であれば伝説の騎士姿で本名を呼ばれるのはこまるのだが、


王都襲撃から日も浅いということもあり、いつも賑やかクリハバタイ商店も今日ばかりは閑古鳥が鳴いているため僕は鎧を脱ぐ。


「調子はどうですか? リリム……体壊してたりしないですよね?」


「そんなことよりウイル君たちは大丈夫なの? 火事で家が全焼しちゃったんでしょ? 

私心配で探したんだよ君たちのこと……それでも全然情報が無くて」


リリムさんは少しむくれる様な表情をしてそういう。


本当に心配してくれていたのだろう、リリムはむくれながらもほっとしたように、その犬耳を垂れさせている。


可愛い。


「ごめんなさい、色々とわけがあってクレイドル寺院に身を寄せていました」


「わけって……あぁ、最近迷宮教会が騒がしいって情報が入ってくるけど、原因はウイル君たちなのね」


「まぁそんな感じかな……」


「あんまり無茶しないでね」


「うん、ありがとうリリム」


「どういたしまして……とまぁとりあえず近況報告は良いとして、今日は何が必要ですか? 燃えちゃった雑貨とか日用品とかなら他のブースだけれども……」


そう、いつものように元気よくセールスをするリリムであったが、僕はその発言に一度首を振り、サリアに続きを話すように背中を押して促す。


サリアはうぅっと小さくうめいてからいそいそとリリムの前に出て。


「じ、実は……謝らなければならないことが……あるのです」


そうリリムへと言葉をこぼす……。


「謝らなきゃいけないこと?」


そうリリムは首を傾げたのち、心あたりを探るようにうーんと頭を悩ませる。


「じ、実はですね……」


そんなリリムに対し、サリアは懺悔をするようにムラマサを折ったことを告げようと口を開くと……。


「あ、もしかして……ムラマサ、もう折ってくれたの?」


サリアの言葉よりも先に、リリムはそんな不思議な発言をしたのであった。



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