208.一夜明けて
次の日、僕たちはとりあえず朝食を終えてカルラのいる客室に集まる。
「よかった、スキルのおかげで今日は随分と顔色がいいみたいだね、カルラ」
「え、ええ……おかげさまで……なんでしょう、心なしか、中の方の痛みが引いてきた気がするんです」
「よかったー! よかったよー!」
シオンはそう嬉しそうに笑うと、カルラに頬ずりをする。
小動物じゃれ合いみたいでかわいい。
「しかし、自然治癒とは、随分とまた稀有なスキルをお持ちなのですね」
サリアはそんな二人に微笑を浮かべながら、カルラへとそう語る。
昨日一日でどうやらサリアは心の整理ができたらしくすっきりとした顔をしており、僕はほっと安堵する。
まだ心につっかえているものはあるのだろうが、ひとまずは落ち着いているようだ。
「ええ、ありがとうございます……ひとまずは安静に……とのことなので、私は療養に専念したいと思います」
「そうするといいわよ……その代わり、怪我が治ったらあんたの中のもんを引きずり出すって大仕事があるんだから……覚悟だけは決めときなさいよ」
「心得ています……下手をうてば消滅の危険性もある大一番……失敗の無いように、私も心の準備はしておきます」
「そう……ならいいわ」
「消滅なんてさせないよー!」
「ええ……気負いすぎは体に毒です、リラックスをしていてください」
「ふふっ……皆さん……ありがとうございます……ところで、この四日間は皆さんは迷宮へ?」
「いや、さすがに君を置いてはいけないよ……ブリューゲルのこともあるし、なにより心細いでしょう?」
「ええ、ですが」
「それに、メイズイーターを手に入れてから、ウイルも私も休む暇なく事件事件と巻き込まれっぱなしだったからね……知ってた? ウイルったらメイズイーター手に入れてからまだ一月も立ってないのよ?」
「えぇ!?」
その発言にカルラは目が飛び出るんじゃないかと思うほど驚愕に目を見開く。
「今思えば、迷宮に挑戦してからのレベルアップ速度の世界記録を軽く塗り替えていますね、公式なものではないので記録は残りませんが」
サリアは改めて感心した様子でそういい、シオンもその言葉にうんうんとうなずく。
「まぁ、そうだよね、寺院襲撃に王都襲撃、さらには迷宮教会とのいざこざ……私たちもそろそろ眺めのお休みが欲しくなってくるわけでして」
そうシオンは芝居がかった声でそう言うと。
「この四日間は、貴方の護衛と称して、気ままに過ごさせてもらいますよ」
サリアがシオンの言葉を補完するようにそう説明をする。
「……そ、それって……」
「いくら鈍くても分かるでしょ、アンタのおかげで休みがもらえたありがとうって言ってるのよ」
心配そうに上目づかいをするカルラに、ティズはあきれたようにそうわかりやすくもう一度説明をし、カルラの頭の上にとまる。
「そ、そうなんですね……じゃ、じゃあ私も……皆さんに気兼ねすることなく、療養に専念します」
カルラはそう笑うと。
「その調子其の調子……今日カルランの護衛をするのは私の担当だから―! 今日はいーっぱいお話ししようねー! クーラさんがクッキー焼いてくれるっていうから! 楽しみ楽しみ!」
「……一日中お友達とおしゃべりだなんて……神様に怒られないでしょうか?」
カルラはそう幸せそうに瞳を閉じて、そんな冗談をつぶやく。
「その時は、シンプソンにお願いして一緒に謝ってもらえばいいのよ、そんで怒らせて加護も消えればそれはそれで万々歳だわ」
それはそれでシンプソンがかわいそうな気もするが……とりあえずティズの冗談は置いておく。
「あまった僕とサリアは、明日の当番……だから今日は、このまま町で用事を済ませてこようと思うんだ……」
「用事……ですか?」
「うん、レオンハルトにはお世話になりっぱなしだろう? 忙しいはずなのに騎士団も派遣してくれて……だから伝説の騎士としてお礼に行こうかなと思ってね」
「なるほどね、それは確かにいい案ね……ついでに迷宮教会の動きも探らせようって魂胆ね」
ティズは感心したようにそう語り、僕はそれにうなずいて正解である旨を伝える。
「どこに迷宮教会が潜んでるかもわからないからね……サリアは護衛ということで連れていくけども」
「だ、大丈夫……です、シオンさんはすごい頼りになるし」
「おやおやー? 嬉しいこと言ってくれるねー、家の中で花火大会かな?」
「いいわね」
「だめだよ!?」
「なんでよ、シオンの花火は安全よ?」
「そうだけど、なんとなく絵面が危ないのと、騎士団の人達がびっくりしちゃうからダメなもんはダメ! 上げていい日は教えるから、今回は我慢すること」
「ちぇー」
シオンは心底残念な表情をするが、これを認めると町中を覆いつくすような花火とかにも挑戦しかねない。
僕はまた一つシオン発祥のややこしい難題の一つをクリアし、そっと立ち上がる。
「じゃあ、あとは頼んだよ、シオン……」
「りょうかいでーす」
「で、では……お、お願いします」
そう三者三様の答えをカルラに返したのち。
「はい……」
僕はサリアを連れて客室を出てい行くのであった。
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