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201.二百話記念・お風呂回前編  オフロハイレールとサリアちゃんポイント

「取り合えずは、このクレイドル寺院でお世話になることになるんだけど」


僕はカルラをクレイドル教会客間の寝室に寝かせ、ぐったりとした表情でクーラさんと二人でワインをあおっているシンプソンに僕は話しかける。


僕が客室へとカルラを運んでいる間に、シンプソンはさらっとシオンにかけられた魔法の解除と、サリアの腹部の刺し傷を直してくれたらしく、今日の仕事は終わりとばかりにだらけている。


「あー、もう好きにしちゃってください……寺院の修復中はお客さんも来ませんしね。

寺院襲撃に続いて王都襲撃……そしてまた寺院襲撃って……少し疲れましたよ、クーラと二人でのんびりと休暇を満喫させていただきますよ」


「ふふふ、だそうです」


少し嬉しそうにクーラさんはそう僕たちに笑顔を振りまく。


たゆん。


素晴らしい。


「わかったよ……ありがとう」


「その分報酬は期待していますよ……」


「もちろん……シンプソンには随分と助けられた……」


「自らの信念とルールに従っただけです……」


シンプソンは一つ鼻を鳴らし、ワインを口に含む。


僕はそんなシンプソンに対して口元を緩めて、その場を去る。


騎士団の人に護衛を任せてはいるが、リオールに何かをされたと言っていたし、とりあえずは傍で様子を見てあげたほうがいいだろう。


僕は応接室を出て、客室へと戻ることにする。


と。


「あぁそうだ、マスターウイル」


何かを思い出したかのように、シンプソンはワインのグラスから口を離してゆっくりと立ち上がる。


残りわずかになった赤ワインに、クーラさんはすかさずワインを注ぎたす。


かすかにワインが光ったような気がしたが気のせいだろうか?


「これを、渡しておきますね」


そう、ワインに目を取られていると、シンプソンはどこから取り出したのか止血帯の様なものを取り出して、僕に渡してくれる。


「これは?」


「カルラさんに渡してください……これは~オフロハイレール~という私が開発した医療器具です」


「オフロハイレール?」


なんとも直接的なネーミングだ、分かりやすいけど。


「ええ、怪我を負った方は本来傷口が開くので入浴は許可できないのですが、これを着ければあら不思議、一時的……おおよそ二時間ほどですが、この止血帯が皮膚の代わりとなって傷口の悪化を防ぐことができます。 もちろん傷が治るわけではないので、傷口が開けば取り返しのつかないことになりますし、長い入浴は体に毒です……ですが、お年頃の女性ですからね……体を拭くだけでは限界があるでしょう、マスターウイルは、カルラさんから片時も離れるつもりはないんでしょうからね」


「ありがとう……でも、僕が片時も離れないことと、入浴と何か関係があるの?」


「……あーなるほどねぇ……これはサリアさんたちも大変だ……まぁ私には関係はないことですからね……クーラ、いい感じに説明してください」


何かを察したようにシンプソンはあきれたような表情をすると、面倒くさくなったのか説明をクーラさんに丸投げをする。


「……ふふ、女というものは殿方の前ではしたない香りを漂わせたくはないものなのですよ」


「……え、でも僕は気にしないよ?」


怪我をしているんだし……。


「ウイル様が良くても、カルラ様にとっては、耐えがたい恥辱なのですよ……それともウイル様は、カルラ様を辱めることをお望みですか?」


クーラさんはそうおっとりとした表情でそう僕に女心というものを教えてくれ。


「……い、いや。 それはいけない!」


「カルラ様は特に、貴方の前では常に最高に美しい姿で接したいと思っています。

男性が女性の前では常に格好良くありたいと思うように、女性は殿方の前では常に最高に美しい姿でいたいと思うものです。 そして、女性を常に美しい姿でいられるように気遣いができて初めて、殿方は一人前となるのですよ」


「む、難しいですね」


「大丈夫です……ウイル様は人のことを思える優しいお方……いずれ素敵な紳士になることでしょう……今の心をお忘れないよう……」


クーラさんはそう微笑むと、そっとソファに戻ったシンプソンにワイングラスを渡す。


「な、なるほど……ありがとうございます」


「どういたしまして。 ついでです、マスターウイルも入浴をすることをお勧めしますよ。

私から見ればあなたの疲労も無視できないレベルですので」


「うん、そうさせてもらう」


僕は女性心を教わったお礼をクーラさんに言い、カルラへこのオフロハイレールを渡すために応接室を後にする。


果たしてシンプソンが、一人前の殿方の条件を満たしているのかはとても疑問に思ったのだが……僕はそれも野暮だと思い聞くことはしなかった。


               ◇


「おや、マスター、何をされているのですか?」


応接室を出ると、ふと声をかけられて振り返る。

そこにいたのはサリアであった。


落ち着いたため、部屋着に着替えてきたところなのだろう。


その姿はいつもの白銀の鎧に青のクレイドル寺院の聖衣ではなく、桃色のユカタ姿となっていた。


ふと僕はわき腹に目をやるが……押さえている様子も痛みを我慢している様子もなく、シンプソンの手により完治していることがうかがえる。


流石はシンプソンだ。


「……あぁ、これをカルラに渡そうと思って」


「それは?」


僕がそっとオフロハイレールをサリアへと手渡すと、サリアはいぶかしいげな表情のままそのオフロハイレールを手に取る。


「シンプソンが作ったっていう魔法のアイテムで、傷口を覆うように巻くと、怪我をしていてもお風呂にはいれるようになるんだって……カルラをお風呂に入れてあげようと思ってね」

「おぉ、さすがはマスター。 カルラもきっと喜ぶことでしょう」


「本当かい? じゃあ頼んでもいいかな……さすがに僕が巻いてあげるわけにもいかないからね」


「確かにそうですね……わかりました、私にお任せを」


サリアは頼られたのがうれしかったのか、瞳を輝かせる。


いつもクールな分、たまに見せるこういった子犬みたいな仕草はとても愛らしい。



「じゃあ、任せたよ、サリア」


「はい!」


もう少しそんなサリアを見ていたい気もしたが、これ以上は僕の感知できない部分のため、僕は一番信頼できるサリアにカルラの入浴については任せることにする。


「マスターはこれからどちらへ?」


「僕?」


ポーチにオフロハイレールを閉まったサリアにそう問いかけられ、僕は一瞬戸惑う。


思えばカルラの身の安全とかこれからのこととかで頭がいっぱいで何も考えていなかった。


「……あー。 何も考えてなかったね」

「もう……いっつも他の人のことばかり考えているのですから」


呆れたようにサリアはそんな僕にほほを膨らませる。


「ごめん」


「昨日から少ししか寝ていないのでしょう? 目の下に大きなクマができていますよ?」


「本当?」


僕は慌てて目の下を触れてみるが、当然わかるわけがない。


「もう……あなたは私たちの支えなのですから、あまり無理をなさらないでくださいね」


頬を膨らませたまま、サリアは僕の頬にそっと触れる。


その手は少しひんやりとしていて……僕はサリアの吸い込まれてい舞いそうな青い瞳に見つめられてほほを赤らめる。


「むっ? 顔も暑いですマスター……もしやお風邪を?」


「い、いや、それは大丈夫! 大丈夫だけど、少し疲れちゃったのは確かかな」


「そうですか? でしたらお先に入浴なされてはいかがでしょう? これだけ広いクレイドル寺院です、男湯と女湯は分かれているでしょうし、それにカルラの止血帯をまくのにも時間がかかります」


そういえば、シンプソンも僕にそう提案をしていてくれてた……。


サリアもそういってくれていることだし……入ってしまおうか。


「そうだね……そうさせてもらおうかな」


「ええ、そうしてください……いいですか? 具合が悪くなったら……」


「隠さずに君に報告するよ」


「よくできました、8サリアちゃんポイントを差し上げましょう」


「何それ? 100貯まると、おでこにキスでもしてくれるの?」


珍しく冗談を言うサリアに対して僕も冗談を返してみると。


「おでこでいいのですか?」


「え?」


二コリとサリアは悪戯っぽく微笑むと、僕の返答を待たずにカルラの部屋へと歩いて行ってしまった。


「……貯めよう……百貯めよう」


僕はそんなサリアの後ろ姿を見つめながら……固く決意した。


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