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194.幸せの涙と笑顔

「結局全員ここに住むってことになるんですね」


その後、王国騎士団に事の顛末を説明したのち、家の残骸からいしのなかに保管してあった貴重品だけを回収し、ひとまずクレイドル寺院へと引き返した。


今日中にレオンハルトに協力を依頼できればと思っていたのだが……騎士団のごたごたに、焼けた家の整理……事情聴取などが重なり、レオンハルトをうかがうのは厳しそうだ。


「勘違いしないでよね! 別にあんたが好きだから一緒にいるわけじゃないんだからね」


「ティズちん~使い方間違ってないけど間違ってるよー」


幸いけが人は出ておらず、僕たちの被害と言えば家と家具と着るもの程度……貴重品やお金、素材等々には被害は出ておらず、残念だったがシオンの呪いの本も無事であった。なので、比較的明るいまま、冗談を言い合いながら、僕たちはカルラの眠っていた寝室でそう軽口をたたく。


「わ、私のせいで……皆さんにご迷惑を……もも……申し訳……」


元々麻酔が効いていたわけではなかったカルラは、シンプソンの話では、僕たちが出ていった直後に目を覚ましたらしく、僕たちが到着するまでにカルラが眠った後のことを説明していてくれたようで……その後帰宅した僕たちは息抜きついでにカルラに家が焼かれたことを説明すると、予想はしていたが青ざめた表情で謝罪の言葉を口にする。


しかし。


「アンタのせいじゃないでしょーに……てか、よけーにアンタをあのいかれポンチの所に返す気がなくなったわよ……良くあんなところで何年も聖女なんてできたわね」


流石にこの境遇の少女にいつもの口調は吐けないのか、ティズは少し呆れたような表情のまま、そっとカルラの頭を撫でている……。


なんだかんだで優しいからなぁ、ティズは。


「で……でも……」


「悪いのは迷宮教会です……あなたは被害者だ。 大丈夫ですよ、この落とし前は迷宮教会に払わさせます……それよりもあなたは今、自らにかけられた呪いを解くために……一刻も早く傷を治すこと……それが最重要課題です……あ、ミルクココアのお代わりは?」


「あ、ありがとうございます……いただきます……おなかすいちゃって」


「消化器官が少しまだやられてますからね、お腹に優しいものを用意させましょう!

もちろん栄養満点最高級のものです! クレイドル寺院の本気を見せる時が来ましたよ! クーラ!」


「はい神父様。 このクーラ、必ずやシンプソン様のご期待に沿える働きをして見せましょう! いざっ!」


「あ、あの……そんなおお気遣いいただくわけには……私、お、お金もありませんし」


「気にすることないよーカルラン♪ うちのウイル君がカルランを助けるって言ったんだもん、ぜーったい大丈夫―」


「お金の心配も必要ないわ……そこの筋肉エルフの蘇生代金に比べたらかわいい者よ。 そんかわり、ほとぼり冷めたら返しに来なさいよ!?」


「そんな……どうしてそこまでしてくれるんですか……」


「だって、私達もう友達なんでしょー?」


「えっ? で、でも……その……サリアさんは」


「何ですか?」


「そ、その……呪われていたとはいえ……その、こ、殺し合いを……腕も折っちゃったし」


「ふふっ、何を言っているのですか? 拳と拳で語り合ったのならば、私たちは友達ですよ! 違いますか? カルラ!」


「さすが脳筋ね」


「ふあっ!?」


「サリアちゃんごめんフォローできないよ」


「なんですと!?」


「あっはは……だってさカルラ……良かったね……ってカルラ?」


「ふっ……ふぐっ……うぅ……」


そんな会話をしていると、ふいにカルラは瞳に涙を浮かべて泣き出してしまう。


「ちょっ!? な、なんで泣いてるのさカルラ!?」


「ほら! やっぱりあんだけぼこぼこにされたんだもの! 筋肉エルフがこわいのよ!」


「わ、私のせいなんですか!? え? 土下座しますか!? しますよ深々と!」


「もうこれ以上君に土下座させると怒られるからやめて!」


「もー、みんな騒ぐからびっくりしちゃったんだよー! よしよーしカルラン~驚いちゃったね~、こわくないよ~」


シオンはそう笑みをこぼしながら、カルラの背中を撫でて落ち着かせてあげる。


「……う……ごめ……ごべん……ごめんなさい……でも、でも……わた、私……今まで、お友達なんて……ぐすっ……こんなに優しくされて……うぅ、嬉しくて……嬉しくて」


「そっかー……わかる、分かるよー……一人ぼっちはさみしいもんね……うん、よく頑張ったねカルラン……よしよし……あ、カルランってのはあだ名だよー」


孤独であったカルラと、ただのボッチのシオンでは色々と違うところがあるようにも感じるが、それでもカルラの気持ちがわかるのか、シオンはカルラのベッドにすわるとそっとカルラを抱きしめて落ち着かせる。


生まれて初めて友達に優しくされた……。


そんな喜びと戸惑いで……きっと感情のコントロールができなくなってしまったのだ。


僕はそう幸せそうに涙を流すカルラを見て、そっと目にたまった涙を拭う……。


「マスター……守らないとですね、彼女だけは」


そんな僕の心を知ってか知らずか……サリアはそう僕の肩に手を置き……泣きじゃくるカルラをふたりで見つめながらそう言葉を漏らすのであった。


                      ◇


「落ち着いたかい?」


「ええ、だいぶ…………ありがとうございます」


「気にする必要はないって言ってるでしょう? ほんとアンタ、迷宮教会って肩書がとことんに合わないわねー」


「あ、あうぅ、ごめんなさい」


「謝るところじゃないわよ? 本当に、迷宮教会ってのはろくでもないんだから」


「本当本当……最悪だよーお気に入りの服とかも全部燃やされちゃうしー」


「私は、マスターに買ってもらったこのユカタが無事で本当によかったです」

「え? よく無事だったね」


「貴重品なので」


「いしのなかに入れてたの!? どうりで毎晩毎晩開けてっていうと思ったよ!?」


「マスターに、似合っていると言われたものです……これ以上の貴重品がありましょうか?」


「あ、い、いいなぁ……」


「いや、まぁでもそのおかげで燃やされなくて済んだわけだし……結果オーライか」


「私のベッド……ウイルの愛のこもった手作りベッドが……」


「それはまた作ってあげるよティズ……バスケットに綿詰めるだけだし」


「扱いが雑!!」


「まぁまぁ……貴重品は無事でお金もあるんだしー、大丈夫大丈夫!」


そういうと、シオンはトーマスの大袋を指でつついてみると、中から金貨がこすれる様なジャラジャラとした音が響き渡る。


「おお、ではでは此度の蘇生代金や迷宮攻略代金としてそちらは私がいただくということで……」


「メーイク」


こっそりとシンプソンが代金と称して法外な値段で報酬を受け取ろうとしたため、僕は左手を軽く振るって金貨を石の中へと入れる。


少し石のブロックを大きく作ったためか、シンプソンの腕が巻き込まれそうになるがまあいいだろう。


少し前のセリフに感動をした僕がバカだった。


「てえええええぇ!? 腕が! 腕が巻き込まれるところでしたよマスターウイル!」


「そうだったの? 大変だね」


「大変だねじゃないですよ!! いくら生命保険あっても消滅しちゃったらどうしようもないんですからね!」


「人の金に手ぇ出そうなんて考えるからでしょあほ神父!」


「くうぅ! じゃあどうするんですかマスターウイル! 私の報酬どうなるんですか! 家も何もかもなくして!? 踏み倒されたら私ストレスで剥げちゃいますよ!」


「それは安心してよ、カルラの傷がふさがればこの金貨を使ってでも君の報酬を払うから……でも、追加契約の通りカルラの呪いの件が終了するまでは付き合ってもらうよ……なんせ、言質まで取ってあるんだから」


「信じていいんですよね!? 信じていいんですよね!」


「あ、マスター……そのまま石の中にチンするっていうのはどうでしょう?」


「おー! 証拠も残らない! お金も減らないグッドアイデア―!」


「何さらっと怖いこと言ってるんですか!!?」


「まぁまぁ、冗談に決まってるじゃない……たぶん」


「たぶん!? 冗談なんですよね!? 冗談なんですよね!」


「ぷっ……ふふっ……ふふふっ」


そんなシンプソンとのやり取りを見守っていたカルラは、緊張が解けたのか、口元を押さえて笑いだす。


その表情は柔らかく幸せそうで、僕まで嬉しくなってしまう。


「どう? うちのメンバーは……騒がしいだろう?」


「ええ、とっても……暖かいです」


「そういってもらえると嬉しいよ……もうここは君の居場所だから、遠慮しなくていいんだよ」


僕の言葉に、カルラは今度は泣くことはなく……僕の方を見ると。


「えへへ……よろしくお願いします……主様」


太陽の様な笑顔で、そう笑うのであった。


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