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190.サリアとアルフとルーシーと

「では、これからの予定ですが……カルラが目覚めてから封印の解除とブリューゲルにかけられた呪いの解除を行う……よくよく考えたらマスターにすべて一任するということになってしまうのですが」


「うん、なんとなくそんなことになるんじゃないかなって思ってたから気にしないでいいよ」


「さすがウイル君! かーっこいー!」


結局僕に丸投げという形で終了した和平交渉。


まぁ、僕の力でカルラが助かるのであればこれくらいはいくらでもやってあげるつもりであるが。


それを含めてもここまで簡単に話しが進むとは思わなかった。


「意外でしたね、アルフ……あれだけラビの復活を切望するあなたが、一月の猶予を私たちに与えるなど」


解決方法が意外と簡単だったり、色々な事実が次々に判明して行って何度も驚かされた和平交渉であったが、一番驚いたことはやはりアルフが認めてくれた、カルラの解呪までの猶予期間をアルフが一か月も与えてくれたことであった。


迷宮教会にアンドリュー軍隠密機動リオールが動いているという最悪に近い状況。


そんな状況下であれば通常は一日も早い解決を要求してくると覚悟はしていたのだが。


「なんだぁ? お前さんらが言ったんだぞ? 迷宮教会にも、アンドリュー軍に襲われても大丈夫だって」


イスに浅く腰掛け、わざとふんぞり返ったような姿勢でアルフは顔を赤くしながらそういうと、その様子をマキナは嬉しそうに見ながら。


「アルフも少しは反省したってこと! でも不器用であほだから、ちゃんとごめんなさいできないのだ―! 許してあげて―」


「おまっ、マキナてめぇ!? 余計なことを!!」

「素直じゃない奴め―!」


「うるっせぇ!」


「やれやれ……相変わらずバカなんだからアルフは……」


そんな二人のやり取りにティズはため息を漏らしながらも、どこか何かを懐かしむような表情でいる。


「やれやれったく……どちらにせよ、カルラの奴の呪いを解くにもある程度時間がかかりそうなんだろ? だったら俺にはほかの仕事もある……そっちをするのにも一月位かかるからな……そっちを先に片づけてやるよ」


アルフはそういうと斧を担いで立ち上がる。


不貞腐れたように立ち上がっていたアルフであったが、どことなくその表情はほっとしているようだ。


本当は僕たちと戦いたくなんてなかったのだろう……。


「もう行くのー?」


「用事は済んだからな……ブリューゲルの奴にからまれても面倒だ」


「そっか」


どこに行くのかは言っていなかったが、とりあえずは一か月の間は完全にカルラのことから手を引くという意志表示でもあるのだろう。


別に手を出さないでいてくれればそれでいいのだが……律儀な熊さんだ。


「じゃあな」


アルフはそういうと僕たちに手を振り、そのまま迷宮三階層から立ち去ろうとするが。


「……あ……待ってアルフ!」


僕はルーシーズゴーストとの約束をここに来て思い出す。


「カルラのことが無事に終わったらさ、少し付き合ってほしい所があるんだけど、いいかなアルフ!」


「んん? それは構わねぇが……何の用だ?」


「アルフとサリアに会いたがっている人がいるってことだけ伝えておくよ。 それ以外はお楽しみ」


「え? 私ですか?」


不意に話題に上がってサリアはきょとんとした表情で僕を見つめる。


「うん、カルラのこともあるし、詳しい話はまた追って連絡するよ」


「……あ~……よくわかんねぇがまぁ了解した……次の仕事はいれねーで置くから、その時になったら教えてくれ」


「私はいつでもかまいませんよマスター」


「ちょっとウイル! なんで私たちはダメなのよ!」


「そーだそーだ! 一体どんな面白いことをするつもりだ!! ゆるさんぞ!」


ルーシーズゴーストとの約束を果たしたいだけなのだが、シオンとティズは何を勘違いしているのか、僕に対して詰め寄ってくる。


「……ちょっ……ただサリアとアルフに会いたい人がいるってだけだよ!」


「女に会いに行くんでしょ!」


「男だよ!?」


「男の友達とウイル君とアルフで! 一体サリアちゃんに何するつもりなのー!」


「なんでそうなるのさ!? ってか何かしたら全員首が飛ぶよ!」


ぎゃーぎゃーと騒ぐ僕たちの声が迷宮三階層に響き渡る。


「やれやれ……もう俺は行くぞ?」


「さっさと行きなさいよ! 馬鹿アルフ! 今度ウイルのこと傷つけたらただじゃおかないんだからね!」


「アルフ―! お土産、マキナにお土産! 忘れないこれ大事!」


「あ、私にもお願いします……お金になりそうなやつとか嬉しいですね」


「わーこの神父げすいよー!」


「はいはい……わーったよ……」


苦笑を漏らしてマキナとシンプソンの要望に了承をすると、ひらひらと手を僕たちに手を振りながら、アルフはゆっくりと迷宮三階層の闇へと消えていく。


「……馬鹿アルフ」


ティズはそんなアルフに対して不貞腐れるようにほほを膨らませてそう言う……。

友人であるティズにとっても、アルフのあの態度には少なからずショックを受けたのかもしれない……。


「まぁまぁ……アルフもいろいろあるんだよ……」


「それはそうなのかもしれないけど……」


内蔵破裂までさせられた僕がアルフを擁護したことが予想外だったのか、ティズは困ったような表情をして口ごもる。


自分でも甘いなぁとは思うが、なんでだろうか、アルフのいつもさみし気な背中を見ていると、どうしてもアルフを責めきれないのだ。


だから、僕はここで話題を変えることにした。


「そんなことよりもティズ……早く地上に戻らないかい? カルラも縫合手術が成功したとはいえ……クレイドル寺院に早く移動させてあげたいし」


「そうですね、医療器具はもはや必要はありませんからね……迷宮と言うものは少なからず人にストレスを与えますし……何よりも冷える……布団の中だからある程度は大丈夫でしょうが……クレイドル寺院神父として、カルラさんを寺院へ移動させることをお勧めしますよ」


珍しくシンプソンがまともなことを言う。


「……そうですか、では、僧侶のいうことは聞くものですし……地上へと脱出しましょうか」


「じゃあ僕とティズは、クレイドル寺院までカルラを運んでいくよ……サリアたちは家の確認をお願い」


「家の確認~~?」


「シオンの話からして、迷宮教会と一閃やりあってあのトラップに引っ掛けたんだろう? だけど今の話聞いてわかったと思うけど、十中八九襲われてるし、中も物色されてるだろうから、片付けだけ済ませちゃってよ……。 貴重品は石の中に入れてあるから無事だろうけど……ほら、その……もし下着とか散らかされてたら僕が入るわけにもいかないし」


「確かに、それもそうですね……わかりました。 マスターのいう通り、荒らされているであろう家の片づけを私たちは済ませてきます……くれぐれも無茶はなさらないでくださいね、マスター……では、また」


「あ、サリアちゃん待ってよー!」


サリアの後に続くようにシオンがかけてついていき……ぼくとシンプソンとティズが残される。


「一緒に行かなくてよかったのですか?」


「シオンとサリアは……獣王に目を付けられているからね……見つかるとカルラが危ないから、先に向かわせたんだよ」


「あなた方……本当にろくでもないもんに襲われますよねぇ」


シンプソンはあきれたような表情を作ってそう笑い。


「本当だよまったく」


僕もシンプソンの言葉にそう笑って返し。


その後、僕たちは特に何事もなくカルラをクレイドル寺院へと移動させたのであった。


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