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188.ラビの正体

「ラビの完全復活? それはつまり、迷宮教会と同じ……」


サリアはいぶかし気な表情をしてアルフにそう問いかけるが。


アルフはそんなサリアに一度首を振り。


「あんな偶像に妄想を織り交ぜたようなもんじゃねえ……ロバートが望んでるのは、ラビが封印される前の状態で復活させることだ」


「え? じゃあブリューゲルの言うラビってなぁに?」


「簡単に言えば偽物だな」


偽物、という言葉にマキナを除いた皆がいぶかし気な表情をする。


「偽物? でもカルラは時々ラビに人格乗っ取られるって」


カルラ自身が言っていた。


自らに封印されているのはラビの人格とその膨大な呪いだと。


そしてブリューゲルは、自分の人格とラビの人格を少しずつなじませて、カルラ自身をラビにしようとしているのだと……。


アルフの発言はそんなカルラの言葉を真向から否定する言葉であった。


「あれはブリューゲルが作り上げた仮の人格だ……本物のラビはもっと穏やかで紳士的だ……あれはブリューゲルがそうあってほしいと勝手に思ってる妄想に近い産物だよ。 言っちまえばブリューゲルの性格を反映してると言ってもいい」


「じゃあ、カルラはブリューゲルに騙されているってこと?」


「だろうな。 ラビを信奉している教会の司祭が、ラビとは全く違うもんを作りだそうとしてんだからな……。 ラビ万歳とは言葉だけ……ブリューゲルが欲しいのは、自分の理想の神なんだからな」


ぞわりと、ブリューゲルという男の異常さを肌に感じさせ、僕は青ざめる。


自らの妄執にラビと言う神に近い存在まで染め上げるというのか……。


「……まぁ、今はブリューゲルのことは置いておきましょうアルフ。 どこまで行っても想像の域を出ないのですし。 ブリューゲルの目的など知っても意味はない」


少し話がそれてきたのを察してか、サリアは凛とした声で話の流れを正す。


僕の方を一度心配そうな表情で見てきたところを見ると、気を遣ってくれたらしい。


「あぁ……すまん」


そんなサリアの言葉にアルフは一つうなずくと、同時に話を再開させる。


「そもそも、ラビってなんなの~? でっかくてつおーい魔物ってことしか私達知らないよー?」


「そもそも、あのブリューゲルから教えられたラビしか知らないわけだしねぇ……アンドリューと同士討ちさせるためって言ったって……いくらなんでもリスクが大きすぎるしいささか他力本願なんじゃないかしら?」


軌道修正がされたところで、すかさずシオンとティズがアルフにそう質問をする。


確かに、二人のいう通り僕たちはラビと言う魔物のことを知らなすぎる。

今までは邪教の神で、膨大な力を持ったがゆえにアンドリューと敵対して封印された……というブリューゲルの言葉しか知らなかったために、疑うことをしなかったが。


アルフによりそれが否定された今、ラビと言う存在のイメージが完全に空白となっている。


これだけ振り回されておきながら、それが何なのかを知らないというのもおかしな話だし……一体カルラには何が巣食っているのかを明確にしたい。


「あぁ、そりゃもっともな意見だ……。 お前さんらはすっかり化物ってイメージが強いんだろうが……ラビは俺たちの元仲間……スロウリーオールスターズの一人だ。 表舞台に立つことはなかったがな」


『え?』


空気が凍り、沈黙が訪れる。


「スロウリーオールスターズ?」


頭が混乱する中、僕が絞り出した言葉はそれだけであり、サリアやティズは何も言えずにそのまま黙っている。


「マキナも知ってる……ラビいいやつ。 いつもお菓子くれた」


ラビのイメージがぐちゃぐちゃにねじ曲がる。


二人の語るラビと僕たちが今まで信じてきたラビがあまりにも異なりすぎて混乱するどころの話ではない。


本当にブリューゲルは一体何作り上げようとしていたんだという考えしか浮かばない。


「……え? じゃあ、え? アルフの目的って」


「昔の仲間の救出……それが俺の任務だ」


アルフは何かを悔いる様な表情をして、僕たちにそう語る。


「仲間の救出……」


お金の為にアルフがあんな行動をとるのはおかしいと思っていたが……仲間の救出。


確かアルフは昔の仲間を失ったといつも悲しそうな顔をしていた。


それがラビのことだったのなら……今回のなりふり構わない行動も頷ける。


……アルフにとって、昔の仲間はかけがえのないほど大切な存在だと、僕は知っているから……まぁ、それがスロウリーオールスターズだということは当然知らなかったのだが。


「なぜラビは、アンドリューに封印をされたのですか?」


「この王都に迷宮ができてすぐの話だ……ロバート王の最悪の命令と呼ばれた迷宮進軍は知ってるか?」


「知らない人の方が少ないわよ」


ティズはあきれたようにそうつぶやくと……悲しそうに一瞬目を伏せる。


迷宮進軍。


アンドリューが宝石の都を迷宮へと変貌させた後、ロバートはすぐに討伐隊を編成しアンドリュー討伐へ乗り出した。


結果は皆も知っての通り大敗退……戦力の大半と部族戦争を平定させた際の最高級の装備全てを失ったロバートは、ならず者であった冒険者に迷宮攻略を託すことになった……というのが僕たちの知っているリルガルムの歴史であるが。


「……まぁそうだろうな……。 その時陣頭指揮を執ったのが、当時最強の戦士と呼ばれた剣帝・ルーシー、迷宮から出られなくなっていたイエティ、そしてラビの三人だ」


「……え? ルーシーって……え?」


一瞬、サリアが驚いたような表情をしてきょとんとした顔をする。


「どうした?」


「え? 剣帝ルーシーって……え? もしかしてクオーターライカンスロープの?」


「よく知ってるな……」


「お師匠……何してるのかと思ったらこんなところで部族戦争に参加してたなんて……あぁこっちの話です、気にしないでください」


「そうか? まぁそれで知っての通り、剣帝ルーシーはアンドリューに敗北し死んだ」


「っはぁああ!? お師匠死んだんですか!?」


「サリア?」


「あっいえ!? ごめんなさい、何しても死なないような人だったので……」


「お師匠って……もしかしてサリアが話してたお師匠さんって」


「ええ、剣帝ルーシーです……私はリルガルム出身ではないので、スロウリーオールスターズのことはよく知らなかったのですが……まさか英雄になんてなってたなんて」


サリアは目を丸くして驚いている……。 リルガルムに住む人間には剣帝ルーシーは有名であるが、確かサリアは違う国から来たんだっけか……それならば知らないのも無理はない。


「あと一歩のところまで追い詰めたらしいが、主戦力であるルーシーがアンドリューの放ったテレポートの魔法にかかって死亡……結果ラビは封印され、イエティはロケットの中に閉じ込められたんだが……イエティの方は俺が救出した」


「なんだかどこかで聞いたことある話ねぇ」


「弟子と師匠はよく似るって聞いたことあるよー……」


「ですが……弟子と師そろって同じやられ方をするっていうのも……なかなか面白いですねえ……」


「…………」


サリアが耳まで真っ赤に染め上げてプルプル震えていて気の毒に思う。


「と、とりあえずルーシーのことは置いておこうよ……問題はラビの封印についてだ……えーとブリューゲルによると、ラビは三つの封印に分けられているんでしょう?」


「そうだ……力と魔力……そして存在……まぁ存在ってのはスキルのことだな。奴も俺のジャイアントグロウスや、ルーシーの剣聖と言ったゴッズスキルホルダーだからな……魔力もけた違いだったし、武術も……奴の槍捌きにはいつも惚れ惚れさせられていたもんだ……」


「わーお、ハイスペック魔法使い」


シオンは驚いたようにそう声をあげる。


「でも、カルラが言っていたけど、力と魔力とスキルだけ封印されて、肉体は放りっぱなしだから……もはや肉体は使い物にならなくなってるんじゃ?」


だからブリューゲルはカルラを新たな肉体にするために用意したのだとカルラは語っていたが。


「いんや、それは大丈夫だ」


アルフはそんな僕の疑問に首を振って否定し。


「なんで?」


「あの忍が死んで……ラビにかけられた封印が解かれたとき、ラビも目覚めるからだよ」


そんなことを淡々と話すのであった。


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