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184.アルフとの敵対

アルフの決して上手くもないこの迷宮とデウスエクスマキナの説明を聞くこと10分。


要所要所を抑えてまとめると。


「えーと……つまり、この迷宮三階層っていうのはそもそもが歴代メイズイーターが、メイズマスターと戦う前に使用していた試練場の一つで、マキナはそのうちの一人……っていう事でいいのかな?」


「そうなのだー」


「ちょっと、ガングロ娘!? なんで私の頭の上に乗っかっているんですか!?」


「あっははー! シンプソンクレイドルお姉ちゃんの匂いするー!」


マキナはすっかりとシンプソンを気に入ってしまったらしく、にこにこと無邪気な笑顔を振りまきながらシンプソンの頭の上で楽しそうに騒ぎ立て、シンプソンも同じレベルになってマキナと喧嘩をしている。


ほほえましいんだか、大人げないんだか……。


「まぁ、このリルガルムの迷宮がアンドリューがあっちこっちからいろんな場所を転移させて作り上げたものだっていうのは聞いてたけど……なんでわざわざ天敵であるはずのメイズイーターの試練場なんかをこんなところに持ってきたのさ?

メイズイーターと戦うならば、試練場なんか持ってきてしまってはメイズマスターに不利になるはずなのに」


「まぁ、訓練を積んで試練を受けるのであれば、確かにそうかもしれねぇが、この場所は試練場だけを抜き取って持ってきてるんだよ……お前みたいな何も知らねぇメイズイーターがこの場所で試練を開始したら、今日みたく何もわからずに殺されるって寸法でな」


「……あぁなるほど」


確かにカルラがいなければ、僕もなすすべもなく機械人形に殺されていただろう。


ある程度鍛え上げられたメイズイーターならばたやすく乗り越えられるのかもしれないが、何も知らない状態で試練に挑めば、それは確かにメイズイーターのみに対象を絞った罠になる。


といったところか。


「でも、それってあんたが気を付けてればいいことですよね!? ロリっ子」


「確かに、管理を任されているなら試練じゃなくて訓練もマキナがやればいいのに」


「そんな難しいこと言われてもなー」


「あんまり無茶言ってやんな……確かにマキナはポンコツだが」


「誰がポンコツだーこらー」


「……そもそも、この試練場はシステムとして試練しか行えないし、メイズイーターが来たら試練を行うようにってこいつはほんものに頼まれてるだけなんだ……マキナは神のレプリカとして運営を任されちゃいるが、メイズイーターの育て方なんて機能はついてない……余計な機能はアホみたいに搭載されているけどな」


「お菓子をおねだりする方法とかな!」


なんだかシステムとか機械の神だとか言われてもパッとしない……。


目の前にいる少女は確かに不思議な雰囲気の少女であるが、神様のレプリカと言われても……。


「まぁ、あんまりかしこまる必要ない! マキナはみんなの友達! メイズイーターが試練をクリアしたらただの友達になるだけだからー!」


マキナはからからと笑いながら、シンプソンの髪の毛をむしるのに飽きたのか、今度は僕の膝の上に座ってくる。


可愛らしく歯を見せて笑う姿に僕は少し心安らぐものを覚え、マキナのいう通り、神様の複製だとか考えることなく、一人の子供として頭を撫でてあげる。


「ウイルすごいー! 今までのメイズイーターで一番目に頭なでられるの気持ちいい! お嫁さんになってやってもいいよ!」


「もう少し大人になったらね」


「そっかー……マキナこれより大きくなれないから無理かー」


残念そうにマキナはそういうと、唇を尖らせて僕の頭の上によじ登る。


ティズと違って小さいとはいえかなりの重量があるため、首を痛めそうだ。


「まぁ大体事情は分かったよ……迷宮が急に変わったのも、僕が間違えて試練開始の合図を出しちゃったからで……アルフがそれを止めてくれたってことだよね……ありがとうアルフ」


「……あ?……んーあぁ」


アルフは少しいぶかし気な顔をして生返事をする。


「……そういえば、どうしてアルフさんはこんなところに一人でやってきたんですか?」


「あー……そのことなんだが」


シンプソンの問いかけに、アルフは少し切り出しにくそうにそうつぶやくと。


一つアルフは咳払いをして。


「お前らにゃ悪いが……カルラを引き取りに来た……その奥にいるんだろ?」


そう気まずそうに、しかしその瞳は冗談でも何でもないことをしっかりと告げていた。


「……カルラを? 本気なのアルフ」


「……面倒くさくて狂っちゃいるが、ブリューゲルアンダーソンは俺のクライアントだ……報酬も多いし、何よりも俺は冒険者……怪我がなおったなら好都合だ……お前が渡さねえってなら、力づくでも連れていくぜ」


自然に、最初からこうなることはわかっていた……とでもいうようにアルフは斧を取り、僕も自然にホークウインドを引き抜いて対峙する。


神父は状況について行けずに、その二人のちょうど間に座ってぽかんと口を開けている。


邪魔だ。


「ブリューゲルは、カルラをラビにしようとしているんだ……。 彼女を放っておくわけにはいかないよ」


「そんな事情は知らねぇな……あくまで迷宮教会の聖女なんてのは商品にしかすぎねぇ……助け出した後殺されようが、ラビにされようが……俺には関係ないね。それが冒険者ってもんだ」


「彼女は僕の仲間だ……迷宮教会に渡すわけにはいかない」


「そうか、残念だ」


アルフはそういうと、ありえないほどの殺気を僕に向ける。


単純なレベルでいえば、すでにレベル六である僕が上回っているはずなのに、アルフは、圧倒的な――信じたくはないがサリアをも優に超える――殺気と威圧感を放ち、僕を圧倒する。


まるで、巨大な力の塊と相対しているような恐れと、その力の差から僕の体はカタカタと震えるが……それでも僕は自らを奮い立たせてアルフから視線を外すことなくホークウインドを構え続ける。


「……ジャイアントグロウス」


小さくアルフはつぶやき、一度斧を軽く上に放って持ち直し。



「ごふぁ!?」


僕は次の瞬間に吹き飛ばされ、壁に激突する。


「え? え?」


危なかった、シンプソンの間の抜けた声が無ければ完全に意識を刈り取られていた。


「ごっふっ……はぁ……はぁ」


何が起こったか理解は出来なかったが、僕は痛む自らの腹部の感覚から、何が起こったのかを推測すると。


単純に斧の柄で、どつかれただけであることを理解する。


そう、アルフは僕の目では負えないほどの速度で踏み込み、僕の腹部に斧の柄を叩き込んだ……ただそれだけのことを、サリアの二倍ほど素早い速度で行っただけであり、アルフ自身もただこちらを見つめるだけで追撃をしようとはしてこない。


目で追うこともその予兆を感じることもできなかった完全なる敗北であり、追撃をしてこないところを見ると、彼と僕とでは勝負にすらならないということを理解させてくれる。


「ぐっ……はぁ……はぁ」


臓器損傷二か所に、肋骨があちこち折れている。


眩暈がし、僕はその場で倒れる。


「悪いがお前さんにゃ止められんよ……。 迷宮の掟だ……強いもんが弱いもんをくらう……ここで失って強くなれ……ウイル」


アルフはどこか憐れむような表情で僕を見て、そのままカルラの眠る寝室の扉を開けようとする。


「メイク!!」


「っ!?」


僕は朦朧とする頭で、精密にアルフの脳天を狙い、メイクで迷宮の壁を放つ。


アルフは驚いたような反応を見せて回避行動をとるが、狙いすまされたその一撃はアルフを逃がすことはなくこぶし大ほどの大きさの壁が、アルフのこめかみにヒットし、吹き飛ばす。


「はぁ、はぁ……げふっ……アルフ、カルラは渡さない……」


「まだそんな力が残ってたとはな……」


僕のメイズイーターが出せる文句なしに最高速度の一撃で打ち抜いたというのに、アルフはダメージを受けている素振りも見せずに平然と立ち上がり、僕へとゆっくりと歩いてくる。


万事休すか。


「はぁ……はぁ……。 アルフ……迷宮教会に彼女を……カルラを渡しちゃだめだ……。

彼女は、これから……」


幸せになるんだ……そう言おうとするも、それよりも早く、アルフの斧が振り上げられる。


「そんな事情は……知ったことじゃぁねぇな。 俺は冒険者だ……英雄じゃねえんだよ」


依然変わらないアルフの回答……その瞳に映るのは僕ではなく、どこか遠い……何かを見つめているようだった。


「アルフ……」


望みを込めて、アルフへと僕は懇願するが……アルフは刃を振り下ろすことで答える。


速度は手抜きの一切ない、僕の首を刎ねるための最高速度。


その瞳には躊躇いはなく……僕の首は斬り落とされることを約束される。


いかにしてかいくぐるか……いかにして防ぐか……そんなことを考えるほど、頭は正常に機能してはおらず。


たとえこの頭が正常に動いていたとしても……この一撃を回避するだけの体力も何も……今の僕には残っていない。


諦めるわけにはいかない……しかし、何もできないまま僕は、その刃をただただ見つめて絶望をする。


が。


「……私のマスターに何をするのです……」


振り下ろされる大斧の前に一瞬にして躍り出る一人の少女。


金色の髪と白銀の鎧にて、迷宮の暗闇と絶望を晴らしながら現れたその少女は。


ギロチンのごとき速度と重さをもって放たれた大斧を、細身の刀一本で防ぎきる。


「えっ……」


驚愕の声を上げて僕はその少女を見上げると、少女は僕の方へと振り向いて、安心させるように。


「お待たせしました……マスター」


そう僕に微笑んでくれる。


凛とした声に、ほれぼれするようなその佇まい……後ろ姿だとて、見間違えることなどありえない。


その少女は紛れもなく至高の聖騎士サリアであった。






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